閑話 クリスマスから正月に至るまで~その二~
大晦日になり、仕事を終えた尋花は、禅雁の甥っ子により寺に連れていかれた。
「叔父さんは母さんがみっちりと説教してるから」
「……あはは」
今回の休みの件で苦言を呈したのが、見事に伝わっていたらしい。
「親父も説教してるけど、母さんのほうが
二人で一緒だとてきめん。自分たち兄妹より禅雁のほうが怒られてるんじゃない? と笑う顔はまったくもって邪気を感じない。
逆に怖いくらいである。
「昔からの伝統行事みたいなもんだから。叔父さんが何かしでかして四人で雁首そろえて説教ってのが。だから、俺ら兄妹はあんまり怒られたことがない」
「……それって……」
「もちろん。叔父さんが怒られてるから、どういうことをすると怒られるか分かるからね」
「……年の離れた長男ですか?」
「その発想ヤメテ」
心底嫌そうに甥っ子が呟いた。まったくもってその通りだろう。
「あとはちょっと大変なお知らせです。祖父さんと祖母さんが久しぶりに寺に来た」
「……え!?」
付き合ってから一度も見たことがない上に、禅雁も何も言わないものだから、他界しているものだと思い込んでいた。
「『寄る年波には勝てん』ってシルバー用のマンションで悠々自適に暮らしてるよ。そのマンションは叔父さん
それを人は「元気だ」というのだ。禅雁のルーツを垣間見た気がした。
「言っとくけど、親父も叔父さんも合気道と空手やってる。両方黒帯ね。そんな二人よりも祖父さんのほうが強い。祖母さんは薙刀かな」
生きて帰れる気がしない。尋花は今すぐ逃げ出したくなった。
「夜まで正座のまま読経しておりなさい!!」
聞き覚えのない、年かさの女性の怒鳴り声が聞こえた。
「……えと」
「祖母さんも説教に回ったのか」
何事もなかったかのように尋花を母屋に案内するあたり慣れているのだろう。
「ただいま~~。尋花さん連れてきたよ」
居間にいるのは、禅雁の兄ともう一人年配の男性だ。
「ご苦労。戻ってきてそうそう悪いが、本堂から二人を連れてきてくれないか」
年配の男性がそう言い、禅雁の兄が席を勧めた。
「二人って……母さんと祖母さん?」
「それ以外に誰がいる?」
「叔父さんは?」
「一晩読経させたい気分だ」
すごい言われようである。
「ほんっとうに、申し訳ありませんわ。こんな可憐なお嬢さんを毒牙にかけるなんて!」
「お義母様、私も同じことを尋花さんに申し上げたんですよ。禅雁さんに助けてもらったせいか、吊り橋効果ありまくりで」
兄嫁までもがため息をついて同意していた。
ちなみに禅雁は現在、今の端っこで正座をさせられている。「
「ははは」
乾いた笑いをだす尋花の前には、母の淹れた抹茶と両親の買ってきた和菓子が並んでいる。
禅雁にはないらしい。抹茶だけでも欲しいものである。
さりげなく足を崩そうとしようものなら、母親から薙刀代わりの竹刀が突きつけられる。毎度のことながら、両親が竹刀や木刀を振るうと、何故か真剣に見える禅雁である。
「義姉さん、母さん。ここでそんなに話をしていていいんですか?」
先ほど檀家の方が来て、兄は本堂へ行った。
「そうねぇ。
どうやら、両親ともに台所に行くつもりのようだ。これで尋花を愛でられる。そう思った瞬間だった。
「禅雁、お前は台所で正座なさいな。私とお父さんで見張ります」
「そんな殺生な」
なんという拷問をするのか。
「そうですか。では、尋花さん。一緒に話をしながら料理をしましょう。
禅雁は本堂と廊下を再度水拭きしなさいな」
「水拭きならとっくに……」
「どうせ除夜の鐘のお役目はお前じゃないんですから。檀家の方が新年からいらっしゃるのですよ、檀家の方のために役立ちなさい」
どうやっても尋花と禅雁を一緒にしたくないらしい。
禅雁はがっくりと肩を落とし、台所で正座をする羽目になった。
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