第5話 抗議? 脅迫?

「これって器物損壊ですよねぇ」

「まったくだ。仏像にまで落書きするとはいい度胸だな」

「カメラはどうなってますかねぇ」

「しっかり動いてるぞ」

「ありがとうございます」

 禅雁が退院する前から続いているという寺への「嫌がらせ」。誰よりも怒っているのは檀家一同だったりする。

「仏像をありがたがる趣味はないんですがね」

「おい、そこの煩悩坊主。ありがたがれ」

「私としては、彼女、、にも色々と嫌がらせがあるんじゃないかと心配なんですよ」

「……確かにな」

 兄弟揃ってため息をつく。

「叔父さん、この週刊誌何とかしない?」

 そう言って姪っ子が持ってきたのは「ゴシップ誌」と名高い週刊誌だった。


 一通り兄が読み終わった後、投げ捨てそうになった週刊誌を禅雁が引き取り目を通す。

「……なるほど。面白い書き方ですねぇ。私が指定暴力団とつるんで、別の人に罪を被せようと。しかも、ハニートラップに引っかかってねぇ。

 ……兄さん。売られた喧嘩は存分に買いますからね」

「誰が止めるか。存分にやれ。その代わり、俺の嫁と子供、寺の檀家、それから嫁の実家関係には一切迷惑をかけるな」

「分かっていますよ。……ふふふ。楽しみです」

 既に禅雁は捕食者の目をしていた。



 その週刊誌を持って、禅雁はその出版社を訪れていた。

「役付けの方と会わせていただけますか? 名誉毀損で訴えに来たと」

 勿論、禅雁は一人でなど来ていない。弁護士を数人引き連れている。


 禅雁がそうやって動いている間に、兄は警察へ被害届を出した。そして、「一応」防犯カメラの映像も提出する。……勿論こちらにも弁護士がついている。しかもボイスレコーダーつきである。

 おざなりに受理する警察官の問答も全て記録されている。

「せっかく証拠をこちらもお渡ししたのですから、是が非でも犯人を捕まえてください」

 有無を言わさぬ顔で警察官に頼む辺り、禅雁とこの兄はまさしく兄弟だと弁護士は思った。


「いやはや、面白いですねぇ。どこからこんな妄想が生まれたんですか? というか『関係者』ってどなたでしょう? 取材記録くらいありますよねぇ。おかしいですよねぇ。色々と。どうして、ハニートラップがあったと思うのか、そして私がでっち上げたとしても意味はないでしょう?」

「証拠があって書いた」とする記者に禅雁は立て続けに質問をする。

 ありえないのだ。容疑者の妹と「どこで」「どうやって」接触したか分からない限り、この記事は書けない。最初から妹がいるところに搬送されたというのはありえないため、「偶然」だろう。

 そして、それを明確に書いているのだ。

「そうそう、それからこの『指定暴力団』ってどこでしょうねぇ。私としてはものすごく気になるのですが」

 最初は強気だった記者が、だんだんと青褪めていく。

「名誉毀損で御社と御社の記者、それから編集者全てを訴えますから。お覚悟を。それから記者さん、あなたのご親族に国会議員の先生がいらっしゃいましたねぇ」

「な……何が言いたいんですか! それこそ名誉毀損です!! 紅林先生が関与しているなど!!」

「……ほほう。あなたのバックは紅林議員でしたか。なるほど。いい情報をありがとうございます」

 尚のこと記者が青褪めていく。失言だ。

 そしてこちらの会話も全てボイスレコーダーに記録されている。それを承諾したのは、出版社である。

「では、失礼します」

 弁護士を従え、禅雁は社をあとにした。

「十分釣れるネタばかりですねぇ。まさか紅林に繋がるとは」

 くくく、と笑うのは一人の弁護士。

「頼りにしてますよ」

「訴えを起こした日、全てが解決しますよ」


 その日のうちにボイスレコーダーを「持っていた」はずの弁護士が、襲撃にあうという事件が起きた。

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