第4話 守ってくれる人?
下崎
「両親は既に他界しています。私たち兄妹は祖父母に育てられました。……あまりいい立場ではなかったとだけ言っておきます」
「それだけで十分ですよ。もしかしたら、この県会議員に関係して死んだのでは?」
「分かりません。祖父母なら知っているでしょうけど、私たちに『お前のせいで村八分扱いだ』と罵られていましたから」
「……それくらいなら施設に預ければいいもを」
「外聞でしょう」
「ほほう? 理由をお聞きしても?」
「だって、周囲からよく祖父母が言われてましたから。『あの恩知らずの子供を引き取るなんて凄い』って」
「おや? その言葉で村八分になるのはおかしいのでは?」
「今になれば私もそう思います」
そこで、禅雁が何か考える仕草をした。
「お兄さんのご職業は?」
「ひき逃げが起きるまではとある議員の私設秘書でした」
「その人間は?」
「それだけは言えません」
この病院にもその議員の関係者はたくさんいる。
「素敵な情報をありがとうございます。……そろそろ退院させられるでしょうね。下崎さん。別の病院に転職するつもりはありますか?」
「え゛!?」
何故そうなるか分からず、尋花は禅雁を見つめた。
「あなたも危ないからですよ。とある総合病院なら、私の名前を出すだけでよほど酷い人じゃないかぎり、採用ですから」
「でも……」
「いいですか? あなたには危機が迫っています。理由は私に近づいたからです。私は警察にも『相手を見ている』と言っているのですよ? そしてあなたは警察が仕立てあげたい犯人の縁者ですよ。あの警察官なら、誰かを使ってあなたを始末するなり、世間的に抹消するなりするでしょう。それを避けるためです」
「……分かりました」
尋花としてもそれ以上何も言えない。
翌日、禅雁の「知人」が来てあっという間に別の病院に移った。
「あははは。
病棟内を案内してくれる看護師が笑って言う。しかも、ここの病院の制服一昔前の「看護婦」さんスタイルである。しかもタイツは白、もしくはベージュと決まっているらしい。
「こっちの病院?」
「そ。理事長経営の病院は三つ。禅雁さん紹介ならその三つどこでも受け入れる。実際事故にあう二日前には、別の病院に看護助手として就職した女性がいるし。
軽いストーカーくらいなら、そこで大丈夫なはず。ここは特殊な病院でね『その道』御用達なの」
尋花にも「その道」というのが、どこなのか検討がついた。
つまりは、やくざだ。
「その関係で時々事情聴取に来る警察官がいるけど、あたしは警察官よりも理事長が怖いわ」
警察官よりも怖い理事長って……そして、その理事長と誼のある禅雁って……と尋花は少しばかり遠くを見たくなった。
翌日、理事長に呼ばれた。
「……え?」
「ですから、こちらでお金は出します。だから寮に入るように。それから、アパートは解約せずそのままで。禅雁さんの指示です」
顔は穏やかな紳士である。それなのに怖いとはこれ如何に。
「どうも厄介な相手が出てきたようですよ」
「厄介な相手、ですか」
オウム返しのように尋花は呟いた。
「禅雁さんの強運がなければ、見落としていたかもしれませんね。あとは彼に任せましょう」
理事長はそう言うと、すぐさま出て行った。
逆に尋花が残されていた。
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