トラッシュビート

@tndg3

chapter1 : 学園

【1-1】 新学期

「今日から2学期が始まるというのに、随分と浮かない顔をしているじゃないか。念のために言っておくけれど、課題は写させないし、金は貸さないし、私の女友達だって1人たりとも紹介する気はないからな」


僕の同級生である新田由利は、新学期早々に僕の出鼻を挫く。毎度のことながらすこぶる失礼な人間である。僕が課題を終えていないのは事実だけれど、それを写させてもらう気は一切無かったし、そもそも僕は他人の模範を写してまで成績を上げようとは思わない。

ついでに言うならば、確かに僕は金欠であるし満足な女友達もいないけれど、だからと言って金をせびる気も毛頭無いし、新田の仲介を経て付き合う女などこちらから願い下げである。


「新田さん。朝から随分な言いようじゃないか。僕はただ、昨晩の夜更かしの代償を、こうして愚直に払っているだけだというのに」


僕、佐野優は極力やんわりと、若干のユーモアを混じえながらに反論する。

この友人、僕の数少ない女友達の1人である新田由利は、僕の人名録の中に置いて相当な危険人物に該当する。それゆえに、多くを語る際には一語一句にかなりの神経を使わなければならないのだ。

この女の逆鱗は、身体中のとある箇所についている。気を遣い過ぎるということはあるまい。しかしこの微妙な距離感も、だいぶ慣れが見え始めたようだ。


「夜更かしかい?何をしていたかは知らないけれど、あまり危なっかしい真似はするんじゃないぞ、佐野。特にこの近辺では」


「……」


僕は学生だ。僕は、市内の高校に通う普遍的な高校生だ。


しかしなぜだろうか。この女と出会ってから、僕は妙に息苦しい。息苦しいというよりは、生き苦しいと喩えた方が、幾分適切な気もする。


僕が通っている建物は、本当に高校なのだろうか。近頃、僕には何だかあの建物が、とてつもなく禍々しい、何やら不気味なものにしか見えないのだけど。


「そうだね。せいぜい用心しておくよ」


そう、僕は目の前の女に言葉を返した。


早く学校が終わればいいのにと思った。




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