第二の人生は機械仕掛けで

青春禁止令

第1話「どうしてこうなった…」

「なあ」

「どうかしたか?」

「どうしてこうなったんだ?」


 人前にも関わらず欠伸をしてくつろいでいる女の子に、そう疑問を投げかける。

 よくわからないが隣で腹を出して掻いている女子力ゼロの女の子は神様のようだ。

 で、なんで俺が神様なんぞという理解不能な存在と話しているかといえば簡単なもので


「どうして俺は死んでいるんだ?」


 そう、なぜか俺は死んでいたのだ。

 いや本当になんでかは知らない。

 逆に問いたい。

 なんで俺死んだの?


 よく漫画であるように、俺の足元では頭から血を流して倒れている俺がいる。

 そんな死んでいるはずの俺は神様と共に宙を浮いて見ているわけだ。

 わけわかんねぇ……


「どうしてって、それは私がお前に飴玉投げたからじゃないか」


 そう言って神様は口に含んでいた飴玉をプッと吐き出す。

 吐き出された飴玉は地面に転がっている俺の頭に直撃、頭蓋骨を粉砕させた。


「――って、待て待て! これじゃ俺完全に死んだじゃねえか!」

「元から死んでるんですから良いじゃないか」

「いや現世に返してよ!?」

「むーりーでーすー」


 言って新しい飴玉を口に放り込む神様。

 はあ、と溜息を一つ吐いてから改めて地面の俺を見る。


 頭は完全にカチ割れており、脳みそみたいのが辺りに散らばっている。

 この場が夜中の公園だったから良かったものの、昼間の駅なんかでこんなことが起きたら大惨事だっただろう。


 ……と、死んでまで周りに気を使っている自分に対し改めて溜息を吐く。


「で、なんで俺は死んだんですか神様」

「おーやっとで聞いてくれたか」


 なにやら嬉しそうな表情を向けてきた神様は、地面に転がる俺の骸を指差す。

 どうでもいいけど喜々として死体に指差す女の子って狂気じゃね?


「お前は三年後、一人の女の子を救おうとしてトラックに轢かれて死ぬ!」

「……だから?」


 だからなんなんだ。


「うむ、そこに気付くとはさすがだな!」

「なんにも気付いてないんですけど」

「いやなに、ただトラックに轢かれて死ぬのならどこの世界線にでもあるポピュラーな死に方だからな。どうせなら面白い死に方にしてやろうと思って飴玉で殺したのだ!

 お前が人類史上始まって以来、初めて飴玉で頭蓋骨粉砕して死んだ人間だ! おめでとう!」


 おめでたくねえ!?

 というか理由が「面白くないから」って酷くねえか?

 これが神様がすることか?


「まあまあ、そう変な顔するな」

「いやスッゲー泣きたいんですけど」

「二年後リストラされて自暴自棄になって死ぬのが、リストラされる前に死ぬことに変わっただけだろう?

 そこまで大事ではないだろう」


 大事だわ!

 つか今なんて言った!?

 俺このままだと二年後リストラされのかよ。

 それで自暴自棄になってトラックに撥ねられるとか最悪だな!


「ああ大丈夫大丈夫。お前には私自ら新たな人生を提供したいと思っているからな」

「いや普通の人生歩ませてくださいよ」

「いいから聞け」


 これ以上ごたごた言っても現状が変わるわけでも俺が蘇るわけでもない。

 一旦黙って聞くことにした俺を見て神様は満足げに頷いた。

 わざとらしく咳払いをすると自慢気に話し始める。


「いやなに、お前が楽しい人生を送れるよう別の世界で新しい体を用意したのだ」

「チェンジで」


 聞くまでもなかった。

 どこだよ別の世界って、それ世界的に見ても生活水準が最高レベルの日本の生活捨ててまで行く所なの?

 検討もつかない場所に行くくらいなら日本に転生した方が数百倍良いに決まってる。


「あ、もう新しい体作ってるので無理だから」

「お前っ! 神様がなあ! 人の人生をなあ!」

「じゃ、来世頑張って!」

「ゆるさーんっ!」


 光が視界を覆っていくごとに意識が薄れていく。

 神様に殴ることすら叶わず、俺の体は意識とともに薄れていくのを感じる。


 ――あぁ、くっそ。



……



 覚醒していく意識の中で鳥のさえずる声が聞こえてきた。

 今までのが出来事が夢なんじゃないか……そんな風に思っていたが、どうやら違うようだ。

 日本語とも英語ともとれない声が周辺から聞こえてくる。


 頭を動かそうとするが、どうしても動けない。

 これはあれか。

 小説でよくある、赤子転生か。

 酷いもんを引き当てたもんだよ、まったく。

 こちとら前の親にも孝行できてなかったんだぞ、それなのに新しい親とか罪悪感酷いわ。


「■■■、■■■■■■■■■■」


 えらく若い声がする。

 目も見えないからわからないが恐らく十代の女の子の声だ。

 なんだ、俺は三十代にして姉ができるのか。


 そう思っていると、視界が開けてゆく。

 真っ暗だった世界は徐々に色を広げていき、遂に世界が見えた。


 ――と、同時に


《言語変換システム、起動。

 テスト……問題なし。

 アムネジア言語を日本語に変換完了しました。》


 文字が目の前に浮かび、脳に声なき声が響いてきた。

 なにが起こったのかと驚いていると先程の声が聞こえてくる。


「よしっ、成功! どう、見えてる?」


 目の前に日本人とはかけ離れた女の子が姿を現した。

 女の子は俺の面前で手を振ると満足気に離れていく。


(どういうことだ?)


 状況が掴めない。

 体を動かせるならもう少しどうにかできたかもしれないが、指一つピクリとも動かないのが現状だ。

 ただ瞳は動くようで、俺は周囲を見回す。


 窓から見える限り時間は昼時。

 どうやらここは女の子の部屋のようで、ファンシーな物で埋め尽くされていた。

 俺に手を振っていた女の子は奥のテーブルでなにか支度している。

 そして動けない俺。

 ますます状況がわからない。


 考え込んでいると再び女の子が俺の前までやってきた。

 手にはなぜか工具箱。


「ちゃんと直してあげるから待っててね」


 言われて――気付いた。


 肌の感覚がない。

 鼻呼吸ができない。

 瞼が感じられない。

 鼻口が感じられない。


 恐る恐る、瞳を下の方にやった。


 そこには鈍く輝く機械の身体。

 人型であるだけの鉄の塊。


 俺の第二の人生は、人で自体なかった。

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