おとことおんな 2
藤村 綾
おとことおんな 2
「どうしてこんなにも、したいんだろう。ねぇ」
あたしはベッドの中でまどろみながら、横で並んで寝ている彼に囁くように問いかける。
部屋の調光は『おやすみモード』になっている。彼の部屋の電気は今時で、モードが『だんらん』『べんきょう』『しょくじ』『としょかん』そして、『おやすみ』モードがある。おやすみモードのスイッチを押す彼の指を目の端で捉えると、思わず、はぁ、はぁと息が荒くなり、彼は気がついてはいないけれど、あたしのあわいからはヌルッとした液体が滲み出てくるのがわかる。下半身が熱くなる。むずむずする。じゅんとしてくすぐったい感覚。
『おやすみモード』でも目が慣れてくると、ぼんやりと、彼の顔が薄く見えてくる。 何度も、何度も見ている顔なのに、ひどくいい顔だなと、毎回思ってしまう。
あたしの容貌は彼とは真逆で世辞でも綺麗とか、かわいいとかの単語は浮かんでこない。彼は決して顔のことは言わない。ただ、一緒にいるとひどくあたしを可愛がる。
「また、その話しなの?なんでって、んー、」
彼は言葉に詰まりながら何かを考えているような口調で次の言葉を探した。
「不思議だよな。俺もよくわからないんだよ」
腕を頭の後ろで組み、天井を見上げている彼。面倒な質問をしたことを後悔しあたしはそうっと目を綴じる。
彼があたしを後ろ向きにし、背中に唇を這わせる。
「あっ、あ、」
大きな手のひらがあたしの小ぶりの乳をやんわりと、揉みしだく。きつくではなく、優しく、撫でるように。乳首を指で転がし、背中にキスの雨を降らす。
抱かれるたびに好きになってゆく。怖くって、あたしは何度も彼の腕を掴み、爪を立てる。あたしの烙印を残したくって、きつく爪痕を残す。
どちらかといえば、あたしたちは、寡黙な方だ。けれど、ベッドに上がると、言葉などは要らない。要るのは、そこにある声と体温。シーツの擦れる音。肉体と欲望と、情熱だけだ。ベッドに上がるおとことおんなは男優と女優になる。綺麗になる。作り物の綺麗さではなく、理性をかなぐり捨てた、素のおとことおんなになるのだ。彼があたしの上で必死に腰を振る。あたしも抽送にあわせ、膣に力を入れ彼のものを離さまいと躍起になり、声をあげ、彼をあたしの中にとけ込ます。
彼の額から汗がポタポタと雨のように降り落ちてくる。
汗があたしの顔にかかり、それもまた欲情をそそるスパイスになる。セックスは愛し合う行為だと、彼とのセックスで初めて知り得た気がしてならない。全てが愛おしい。彼の全てが。もう、どうなってもいいくらいに……。
「あつーい」
バスタオルをひょいっと持ち、扇風機をつけ、リビングの椅子に座り、タバコに火をつける。
「すごい汗だね。早く汗さ、拭かないと、風邪ひくから」
「ん、うん、でも、だいぶ涼しくなったから、汗の量も半分になった」
「はははっ」
あたしは、小さく笑い、肩をすくめた。タバコの白い煙が部屋の中をゆるりと巡回し出す。おとことおんなが混じり合った匂いのする部屋があっという間に、タバコの匂いに変化した。生温い空気。外は激しい雨が降っている。
雨の音にかき消されながら、あたしは笑っちゃうくらい淫らな嬌声をあげた。
どうして、セックスの時って、あんなに声だすのだろうか。
誰にも教示してもらったことなどないのに。
平然とタバコを燻らす彼の息使いが整ってくるのがわかる。タバコを灰皿にもみ消し、あたしのいるベッドに潜りこんできた。
あたしは、すぐに彼の腕をとり、ねぇ、と、また話しかけた。
「ねぇ、どうしたらいいの?もっと、欲しくなるよ」
彼はあたしを見下ろし、白い歯をちらりと見せながら、声を出さずに目を細める。
大きな手のひらがあたしの髪の毛を梳きながら、優しく背中をさする。
肌と肌が密着しているとこんなにも安堵するのに、離れると不安で仕方がなくなってしまう。
もっと自分に自信が欲しい。
離れていても、毅然としていられる魔法がないかと考えるも、全く思いつかずあたしはいつのまにか、温かい胸の中。雨の音と、彼の心臓の音とのはざまでたゆたう人形になる。音は行ったり、来たりして夢の中のあたしはひどく笑っていた。
おとことおんな 2 藤村 綾 @aya1228
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