まほうじんの描き方。

天井カラシ

第1話 伝説は色あせて

 新人魔法探求者、サイガは積み上げられた歴史の前で呆然と立ち尽くしていた。


「おーい、新人。 出すのはいいけどちゃんと仕舞えよー」


 司書のおっちゃんが声をかけてくるのも気にせずに、本を読み続ける。 

 かれこれ三か月の間、毎日言われ続けているような気がするが、俺は目もくれず、返事もせずにひたすら積まれた本の中で糸口を探していた。


「『爆裂魔法による熱の拡散についての実践とその考察』か、ってこれについて何回書けば気が済むんだイオクラテスって学者の野郎」


 などと、爆裂魔法の権威にぶつぶつと文句を垂れながら、乱雑に積まれた本の山の上に積む。

 また別の山に手を伸ばし、しばらくページをめくった後その本も先ほどと同じように山の一部になる。

  

 魔法学者になって新魔法式を構築し、世の中で認められるという夢を追いかけて探求者になって三か月。

 俺は現実という壁にぶち当たっていた。 


 探求者と言っても後方支援があるわけでもなし、魔法式はとうの昔に探され尽くされているのが現実だった。

 応用とか改善といった道は残されていたが、全く新しい魔法式などやはりありはしないのだと俺は思い知っていた。


 そもそも、一番最近に全く新しいとされる魔法式が発見されたのは今から254年前とまだ各国が魔法によって直接戦争していた時代の話だ。

 その時発見された一定空間の超圧縮と解放の魔法によって大戦は終了し、それまで戦いで使われていた魔法は生活の中で応用されるように進化していった。


 しかし、あくまでも応用と改善の積み重ねであり、純粋な学問としての魔法は大戦終結から進歩していなかった。

 

 俺自身も大学の魔法史で習っただけで、それまで魔法がどのように発見されていたのかさえ、ノートの上の知識でしかなかった。

 

 新魔法式の探求を始めるきっかけは単純で、魔法学の成績が他より良かったから、魔法学の分野で何か新しいことをやって有名になりたいというものだった。


 俺も卒業した友人のクルスが務めている大手の魔法誌の出版業者に入れる程度の成績はあった。

 落ちこぼれがとんでもないことを言い始めたわけではけっしてないのだ。

 しかし、大学の教授たちは、


「せいぜい目を皿にして探すことだな。そうだな、身体強化の魔法でもかけてやろうか?」


 と、バカにするような発言をするだけで探求を応援する言葉など一言もかけてこなかった。

 

 卒業してすぐのころはクソ爺どもに負けてなるものかと思い、過去の文献を漁りに漁って新魔法式の糸口を探していた。

 が、膨大な魔法書の量と大戦後の魔法探求の規制により新魔法式への道のりは大変に険しいものだった。


 「せめて、大戦前の魔法式の探究書でもあればいいのに」


 ため息をついたところで大戦以前の探究書は、平和な現在においては危険な魔法を生み出す恐れがあるとして禁書に指定されていた。

 現代で魔法式を改変することができるのはそういった禁書を読む権利を持つ、国家魔術師のトップぐらいで、大学を出たばかりの新人には到底手が届かないものだった。

 しかも、国家魔術師は大戦から続いている魔法使いの家系が世襲しているため、努力すればなんとかなるというものでもなかった。

 

 それでも、諦めようとは思わなかったし、何よりこのまま停滞したままではいつか魔法は衰退していくだろうという危機感があった。

 

 実際、魔法界でも工学や薬品調合学の生活分野での台頭により、魔法の使われる場面が奪われつつあることを問題視する意見もあった。

 そこで、薬品調合学や建築工学などと併用することによる効率化など、生き残りの道は考えられてきたが、少しづつ魔法は唯一ではなく代替可能な古い技術になってきていた。

 

 魔法の衰退がゆっくりと進んでいく中で、探究の道も閉ざされたまま俺はその日暮らしを続けながら孤独な闘いを続けていた。

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