ミソヒトモジは魔法の呪文!?

天野 慶

第1話不思議なメール

 たっぷりの生クリームのうえに、葉っぱのかたちの薄いチョコレート、それからちいさなビスケットが3つ。

とろりとチョコレートソースがかけられていて、トッピングにはくだいたアーモンドと、スプレーチョコ。

 あざやかなグリーンのミントも、ちょこりんとのっかっている。


「うーん、もうすこし色がほしいなあ……。」


 あたしはたくさん仕切りのついたクリアボックスから、赤くてつややかなイチゴを2つと、これまたぷりぷりとおいしそうなサクランボをとりだした。

ケーキのうえにのせてみる。


「ここ……かな? うん! いいかんじ!」


 またクリアボックスをあけると、木工用ボンドをとりだして、イチゴとサクランボにぷにっとつけた。

ケーキにぎゅっと固定する。


「よおし、完成!」


 給食が終わって、昼休み。

 仲良しの女の子同士2・3人で、それぞれ決まった席や壁際に集まっている。男子は校庭でサッカー。

 夏の初めの、きらきらした日ざし。

 遠足も終わって、しばらく行事もないし、みんななんだかのんびりしている。


 教室の窓際、ロッカーの前が千晶ちゃんとみおりちゃんの居場所だ。

 いつも休み時間はその場所で、窓の外を見ながらふたりでまったりおしゃべりしている。

 千晶ちゃんもみおりちゃんも姫系コーデの女の子だから、窓際はそこだけ花でも咲いているみたいに、ふんわり明るいかんじがする。


「ちーちゃん! みおちゃん! できたよ~」


 あたしはさっき完成したばかりの、スイーツデコしたミラーを、ふたりの前にぱっとさしだした。

 ふたりとも本物のケーキが出てきたときみたいに、目をきらきらっとさせて、


「さすが、そよちゃん! すごい、本物みたい」

「かわいい~! もう、そよぎちゃんのスイーツデコは神級!」


 ふたりでミラーを持ちながら、ぴょんぴょんはねている。


「そ、そうかな。よかったあ」

「神級!」とまでほめられると、うれしいようなはずかしいような。

 なんだかテレれてしまう。


 勉強、ふつう、スポーツも、ふつう。

 顔だってふつう(だと思ってるのよ、美人ではないけれど、よーくよーく見たらかわいい、ってタイプのはず)のあたしの、唯一のとりえが、この<スイーツデコ>だ。

 スイーツデコをテレビの番組で見たとき、「これだ!」って思った。

 「わたしにはこれしかない!」って。いてもたってもいられなくて、次の日おこづかいをぜんぶにぎりしめて、材料を買いに走ったほどだ。


 幼稚園のころから、お人形遊びが大好きだった。

 洋風の豪華なおうちに、可愛らしい動物たちのファミリー。たくさん買ってもらって、いつもそれで遊んでいた。

 でも正しくいうと、お人形より興味があったのは、お人形用のちいさなちいさな食べ物だった。

 手のひらにいちどにぜんぶのってしまうほどの、フルコース。

 まぐろにサーモンにいくら、みんな小指のうえにのるほどなのに、新鮮そうにごはんのうえでつやつやしている、おすし。

 焼きたてのこうばしい香りのしそうなクロワッサンやバターロール。

 人形たち用のテーブルに、そんなかわいいごちそうを並べて、いつまでも遊んでいた。

 それから、細かな作業も大好き! 

 よくママから

「そよは手先が器用だね。性格はおおざっぱなのに。不思議」とほめられ(?)る。


 だから1年前、スーツデコを知ってから、ゲームもマンガもきっぱりやめた。

 そのかわりに、手を樹脂ねんどとシリコンとアクリル絵の具だらけにして、ちいさくて本物みたいなパフェやケーキや、マカロンを作るようになった。


「おいしそ~、たべた~い」

「4時間目に見たら、ちょうやばいよね。めっちゃおなかすきそう~」


 千晶ちゃんとみおりちゃんはビスケットやイチゴをつつきながら、ほんとに食べたそうにしている。


「なによりこのクリーム、すんごいおいしそう! コンビニのケーキじゃなくて、行列のできるお店の高級スイーツ、ってかんじ!」


 おお、みおりちゃん、いいところに気がついてくれました。


「あ、それはね、クリームにつかうシリコンを、ホワイトじゃなくてアイボリーにしてみたの。

 ただ白だとさっぱり系のクリームだけれど、ちょっとオフホワイトにしてみたらこってりしたとろけるクリーム! になったの。

自分でもよくできたな~って思った! このイチゴのつぶつぶもね……」


 あ、いけないいけない。スイーツデコの解説を始めると、とまらなくなってしまう。


「そよちゃん、ありがとう!」


 千晶ちゃんは大きな目をもっと大きく、きらきらさせながらあたしの手を握った。


「このミラー、千晶ちゃんとおこづかいをだしあって買ったの。

 あたしたちの友情のしるしにしようと思って。」

「ふたりで渋谷まで買いにいったんだよね」


 って、そのときの楽しかったことを思い出したのか、ふふって笑いながら千晶ちゃん。


「ずううううと大事に、ふたりで使うからね。ほんとにありがと、そよぎちゃん!」

「よかった、そういってもらえてわたしもうれしいよ」


 見かけによらず、すごい力でぶんぶん手をふりまわすみおりちゃんの勢いに、ふらふらしながらあたしは答えた。


 5時間目がはじまる前に机の上を片付けちゃおう、と席に戻ったら、机の中に入れておいたケータイがぶるぶるっとふるえた。


 5年生になって、やっとパパのお許しがでて買ってもらったケータイ電話。

 もちろんケータイもデコだらけ。

ピンクと白の2色クリームがふちどり、そのなかにこれでもか! とスイーツを盛り込んでみた。

 自分でいうのもなんだけど、こんなにかわいいケータイを持っている小学生って、わたしぐらいに違いない(えっへん)。


 学校ではほとんど電源を切っている。

 けど、今日はママが午後買い物に行くから、何かほしいものがあったらメールして、といわれて、新しいアクリルパーツをお願いしたんだった。

 きっとママからの返信だな……とあたしは、ぱくんっとケータイを開いた。

 ん?

 送信者には名前はなし。

 つまり登録されていない人からのメール。

 

 <件名;ひだまりに>


 変なメールかな、とも思ったけれど、件名にひかれて、ついボタンを押して本文開いてしまった。

 そこにはこんな言葉がならんでいた。


 <ひだまりに置けばたちまち音たてて花咲くような手紙がほしい>

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