愚か者、夜を探して

りう(こぶ)

愚か者、夜を探して

 部屋は薄暗い。


(今日は曇りだったのだろうな)


 かろうじて雑然と散らかった部屋のものものが見えるのは、秋の情けか。もう午後の6時を過ぎている。

 万年床になってしまった布団で、私が目をさましたのはさっきだ。眠れないと思っていたが、眠りたくなかっただけで、朝方意識を失ってしまったらこのざまだ。今日も1日無駄にした。

 周りを見渡すが、私が本当に見たいようなものは何もない。

 見たいもの。

 それはたとえば、忘れてった服とか、飲みかけで洗ってないコーヒーカップとか。


(あるいはゴミですらいいのに)


 枕元に落ちている髪の毛を一本、拾う。

 黒に染めた方が似合うなんて言わなければよかった。あの子の髪か、私の髪か、見分けがつかない。

 髪の毛を、捨てるでもなく、元に戻した。

 からだを起こし、電気をつける。


(何か、しなくては。──休むことは、考えることと同様に、毒だ)


 家を出て、駐車場にある軽に乗り込み、エンジンをつける。それからしばらく、行き先を考えている振りをして、ぼーっとする。

 カーナビの光が私の顔を照らしている。

 何も思いつかず、私はエンジンを止めた。

 軽の中は、なんとなくシェルターのように暖かい。もう秋だけど。

 と、


(     )


 虫の声がする。



「日本人は虫の鳴く音を声として認識するんだってさ」

「なんて言ってる?」



 探していたものが、不意に見つかることが、ある。

 私は額をガラスに押し付け、熱い息を吐いた。

 夏は終わってしまった。

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愚か者、夜を探して りう(こぶ) @kobu1442

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