Everything is Its Right Place

常磐かがみもち

Cube.

 物はなるべく適切な場所に配置するよう心がけている。正しい場所に、正しい物を。

 ところがこんな単純なことが今は厄介極まりなくて、無論、本だとか資料だとか雑誌だとかは本棚に入れておけばいいし、零点三ミリの黒ボールペンやポケモンの十五センチ物差しなんかはペン立てか引き出しにでも放り込んでおけばいいことは容易に想像がつくと思うのだけれど、あるいは忘れられて化石のようになった冷蔵庫内の小瓶なんかも、配置が適切でなくなったのだからとっとと廃棄してしまうのが世の為だと思いたいのだけれど、地面から五センチ程浮遊する立方体の正しい置き場所を知っている人がいたら、是非とも教えてほしい。


 実際問題、この立方体からは微かに何らかの音が聞こえてくるものの、我慢できない音量では全く無いし、話しかけてきているわけでもないし、変形して悪のロボットと戦ったりもしない。

 大きさは一辺十センチ五ミリで、ペン立てに突き刺さっていた物差しで分かる範囲では完全な立方体であった。色は金属光沢をたたえたいぶし銀で、ペン立てに突き刺さっていた零点三ミリの黒ボールペンで叩いてみたところによれば概ね金属然とした硬度を有してい様子であった。

 恐る恐る触ってみたが取り立てて何も起こらず、二重のビニール袋に封印してゴミ箱への投棄を試みたが、気づけば部屋の何処かに我が物顔で落ち着いているというのを繰り返すこと数度。

 どういう基準なのかは皆目検討もつかないが、多少動かした程度では勝手に移動することはなく、当人に確認をとったわけではないもののインテリアとしての活躍を所望しているのかもしれない。


 聞こえてくる音は波の音や鳥の声などの自然音響系から、昨日車内で聞いたラジオや流行りのアイドルソング、海外のグラインドコアまで様々で、体感としての音量は概ね一定、つまり、耳を近づければ種別が把握できるようなボリュームである。

 重さは殆どなく、ひっつかんで投げてみたが着地せず、着地地点上空五センチで浮遊する。壁や天井にはぶつかるが、からん、と乾いた音がするばかりでうんともすんともいわない。


 一度、親しい友人に見せようとしてみたが、彼を招き入れた時にはどういうわけだか忽然と消え去っており、新しい同居人を紹介することは遂に叶わなかった。友人は「疲れているのだろう」というような顔をして帰っていったが、その後、衣装箪笥の中に鎮座しているところを発見した。人見知りを抱えているのかも知れなかった。


 暫くすると、勝手に移動しているというようなことも出てきたが、実害もないので矢張り放っておいた。

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Everything is Its Right Place 常磐かがみもち @kagamimochimochi

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