田吾作どん、食べちゃダメ?

黒幕横丁

プロローグ

 日本のとある山の奥深くに【ごくもり】という、それはそれは恐ろしい森がある。

 そこには様々な魑魅魍魎達が蔓延り、それぞれの種族ごとに集落を形成し、住み着いていた。そのためか、人間はおろか動物さえも立ち入ろうとはしない。興味本位で立ち入ろうものなら、彼らにその肉体丸ごと食べられてしまうという言い伝えがあった。

 そんな獄の森にある日、人間の男の赤ん坊が、森の入り口に捨てられていた。それを森の長である“鬼の一族”の村長が見つけ、すぐにその場で赤ん坊を食べてしまおうと考えた。

 しかし、問題が一つ。赤ん坊の体は小さく、一族で食べるには明らかに量が少なかったのだ。

 そんな時、村長は考えた。


『このまま育てて、大きくなってから皆で食べてしまおうじゃないか』と。


 一族である村人は全員、村長の考えを快く承諾し、赤ん坊に《田吾作たごさく》と名付けた。おいしく頂くために去勢手術まで施し、大勢で食べられるサイズになるまで大切に育てることになった。


 しかし、田吾作を村人総出で育てること数年、突如ある大問題が発生した。

 それは田吾作にかなりの愛着が湧いてしまい、村長を含め、村人たちが食べたくても田吾作が可哀相で食べられなくなるという事態に陥ってしまったのである。


 しかし、食べたいのは変わりないので、村人たちは皆して困ってしまった。

 そこで村の決まりとして《田吾作自身が食べてもいいよと言った場合のみ、皆で食べてやろう》というのが作られることとなった。

 このお話はそんな環境下で育ち、様々な魑魅魍魎たちのターゲットとして生きる田吾作の物語。

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