ネタ出し用小ネタエピソード集

青森さん@カクヨムに移住

キャラ設定的なものレギー編

 舌がびりびりする。電気信号が強すぎる。また調律師に金を払わないといけない。鏡の前で大口を開けて、レギーは口の中を見ると、舌の側面が赤く腫れていた。歯にあたって炎症を起こしている。

 それ自体は生体反応として正しく身体が機能している証拠だ。

 だがそれにしても痛い。タバコを一口吸うたびに、細胞一個一個に針を刺して電流を流したように痛む。舌がしびれて口も利けない。

 つまり、痛覚が過敏すぎるのだ。

 口の粘膜は自己再生能力がある肉の部品だから、適切に管理すれば健康を維持してくれる。だがその奥のナノチューブとセラミックはそうはいかない。専門の技師に頼んで微調整しなくては。

 あー、と口を開いて、舌を左右に動かして炎症した部位を見る。どうやら奥歯で少し噛んでしまったようだ。

 簡単に言えば口内炎。

 これを治すにはほっとけば十分だが、口内炎の原因を取り除かないと同じことが起きる。

 取り急ぎ喉から顎を新品にしたので、神経回路が雑に組まれている。痛みはやたらと強いが、知らずに舌を噛んでも気づかない。

 とてもじゃないがこのまま生活する気はない。まず神経回路を調律師に見せて、そのあとは歯科医だ。顎のデザインは前と同じだったので、噛むとしたら歯が原因。

 レギーは首をひねり、かちり、と音がするまで首のあたりをよく揉んだ。神経回路をオフにする。痛みは無くなり、タバコの味も無くなった。

 マウスウォッシュで口の中を消毒して、軽く歯を磨いておいた。顔を洗って、わずかに残った生身である自分の目を鏡で見る。真っ黒な瞳。

 結っていた髪を下すと、窓から差し込む朝日を受けて光沢を放った。黒に見えるが、光を受けるとわずかに濃い緑が見える。切る手間もケアも必要のない人口毛だ。伸びたりすることもないので、髪型を変えようと思ったらすべて取り替えねばならないが、いまはこの濃い緑が隠れた黒髪が気に入っている。少しブラシを通すだけでヘアセットは終わり。簡単なものだ。時間のない朝にはちょうどいい。

 洗面所を離れて、軽くメイクをしてから簡単な朝食を準備し、味の感じない口でそれを食べた。

 時刻は朝の八時半。いつもよりちょっと遅い時間。

 玄関を開けると、通りはすでに動き出していて、鉄の階段を下りてレギーが通りに出たところで、同じアパートの住人が会釈をしてきたので同じく会釈を返しておいた。

 さて、仕事に行く前に寄り道をしよう。まずは調律師に頼んで神経伝達を適正値にしなくては。そのあとは歯科医に寄ってセラミックの歯を削ってもらう。このままでは味のない食事を続けることになってしまう。

 レギーはタバコに火をつけた。

 とうぜん、味はしなかった。

 

 

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