第62話 碧天祭 波乱の幕開け 

 週末はリノンと共にグランディアのあちこちを観光し、そして、週が明けた。


 今日から壁天祭が始まる――というか、


「ランスさぁ――んっ! スピアちゃんとパイクくんも、一緒に見ようよぉ――~っ!」


 もう開会式が始まっていて、グランディア四大大祭の舞台であり『聖地』とも称される浮遊島オルタンシアの大円形闘技場で、選手である各国を代表する学生達の入場行進が始まっていた。


 今、リノンは、遊びに来ている同級生の友人達――シュノー、アイリーンと一緒に、ミューエンバーグ邸の庭に面した居間リビングで開会式の様子をテレビで見ており、興味がないランスは、声をかけてきたシュノーに手を振り返して昼食の下準備に戻る。


 蛇足かもしれないが、興味がないならと少女達がランスに作業を押し付けた訳ではない。少女達は手伝いを申し出たのだが、人手が必要な程の作業はなく、開会式の様子が気になるようだったので、ランスが居間リビングへ戻るよう三人をうながした。


 本来であれば、地元の名士として招かれている両親と共に貴賓きひん席で観覧する事ができたのだが、静養を理由に急遽きゅうきょ碧天祭の手伝いボランティアなどの予定を全てキャンセルしていたため、今回は自宅のテレビで見る事に。だが、リノンに残念がっている様子はない。むしろ、子供達だけで取り留めのない会話をしつつテレビを観て楽しんでいる。


 ちなみに、この『テレビ』というのは通称で、正式名称は『霊波式テレビジョン受像機』。


 占い師の道具のような大きな水晶玉の中に見たい場所の光景が浮かび上がり、それ同士をつなげればその中に相手の顔が浮かび上がってタイムラグなしに通信可能な宝具――〔遠見の水晶玉パランティア〕を研究して開発された霊装で、見たい場所を見る機能はないが、複数のチャンネルが存在し、霊波に変換され伝送された光学像が透明なシリコンの板に再生される。


 オートラクシアで開発された電波式、ケーブル式のテレビジョン受信機テレビ白黒モノクロだが、こちらは彩り豊かフルカラー。非常に高価な品だがミューエンバーグ邸には複数あり、その中でもリビングのものは一番大きくたたみ一畳いちじょうほどもある。


 ――それはさておき。


 現在、ランス、小翼竜スピア小地竜パイクがいるのは、表からは見えず、かつ景観を邪魔しない中庭の一角にあるバーベキュー用のスペース。


 足元にはタイルが敷かれ、屋外なのに大型のグリル、レンガ造りのコンロが二つ、石窯いしがま、アイランドキッチンのような調理台と流し台シンクまで揃っていて、特に理由もなくその横に〔汎用特殊大型自動二輪車ユナイテッド〕がめてあり、みなを見守っている。


 ランスがその調理台でせっせと調理しているのは、グリルで焼く肉と付け合わせの野菜、それと揚げ物フリッターのタネ。


 何故そんな事をしているのかというと、観光へ出かけるたびにお昼ランチを用意してくれたリノンへのお礼。それに、先日、ランチ中の会話で、スピアとパイクが調達してきた食材をどう料理して食べるのかという事が話題になった際、流れでいつか振舞うと約束していたのでちょうど良い。


 調理台の上にいるパイクは、いた野菜の皮や切り落とした根、取り除いた種など生ゴミとして捨てる部分をモサモサ食べて片付けてくれている。


「しんせ~ん」


 感想が味についてではなく鮮度についてなので、たぶん美味しくはないのだろう。


 無理にゴミ処理のような真似をさせるつもりはなく、【精神感応】でそのむねは伝えてある。それでもみずから手に取って食べているものを取り上げるつもりもない。


 そして、スピアはというと、二つあるコンロの一方で、時おりまき足しくべ、わざわざ普段の飛竜形態ではなく翼であおぎやすいよう翼竜形態になってパタパタ風を送り、炉に向かう鍛冶師の如き真剣な面持ちで絶妙な火加減を維持している。


 そのコンロで作っているのは、大きく切った肉、野菜類に香草を加えて水からゆっくり煮込む料理――ポトフで、その都度一食分の材料で作るより、中にリノンが入れるほど大きな寸胴鍋に大量の具材を投入して作ったほうが美味しく、収納した物がその時の状態のまま変化しない〔収納品目録インベントリー〕にしまっておけばいつでもどこでも出来立てが味わえるので、山篭り中に作る事はまずない料理だが、この機会に作っておく事にした。


 その隣のコンロには、フリッター用に半分ほどまで油を注ぎ込んだ鍋がセットしてあり、薪は組んであって準備は整っているが、まだ火はけてはいない。こちらも焚火の達人スピアに任せる事になるだろう。


 そして、戦神に仕える巫女の装束を纏う麗しき乙女の姿はこの場にない。


 『蔵書部屋』は文字通り蔵書のための部屋であって、人が寝起きしたり飲食したりするための部屋ではない。ご隠居達の願いを聞き入れて天空城の主でいる事を承諾した今、いつまでそんな蔵書部屋で寝起きや飲食しているのか――ミスティからそういった旨の指摘を受けて、今更な気はしたが私室を設ける事になり、城館地下にある無数の部屋の中から適当に一部屋選んだ。


 そんな訳で、今朝ランス達が出かける時、ミスティはその部屋の掃除をすると言っていたので、そろそろ模様替えでもしている頃だろう。ご主人様のお役に立ってみせます、と表情の変化はとぼしいながら張り切っていた。


 そんな万能の神器は、飲むのも食べるのも好きらしい。ポトフはこのままスピアに任せておけば安心なので、そのろうねぎらうためのものを含めて作り置きをあと何品か――ランスがそんな事を考えていたその時、


「ランスさん、大変ですッ!」


 リビングで少女達が騒ぎ出した。


 リノンが左右に大きく開け放たれているガラス戸の所まできて声を張り上げ、シュノーとアイリーンまでがその両隣で、はやくはやくっ、と手招きだけではなく全身を使って呼んでいる。


「…………」

「がう?」


 ランスとパイクは顔を見合わせて首を傾げ、〔ユナイテッド〕と凄まじい集中力を発揮しているスピアはそのままに、リビングのほうへ歩いて行く。


 リノンは、そんなランスをかし、そして、テレビのほうを指差して言った。


「――魔族ですっ! 魔族たちが開会式にあらわれて……っ!」




 ――魔族。


 それは、魔王に従属し一度は世界を支配した者共。


 呪われし災厄の力――『魔法』を行使する種族。


 勇者達によって魔王が倒された後、広大な海で外界から完全に隔離された土地――『最果ての島アーカイレム』に封じられた民族。


 邪悪な存在、諸悪の根源……


 世間での認識はだいたいそんなところだろう。


 だが、ランスは師匠から、おくする必要はない、とこう教えられた。


 ――〝彼らは人だ〟と。


 程度の差こそあれ、森羅万象にあまねく宿る力の根源――『霊気マナ』。


 マナが呼吸や飲食などにより生命体に取り込まれ、体内で精製・蓄積された生命エネルギー――『霊力オド』。


 この体内霊力オドには、【地】【水】【風】【火】……など、その者が生まれ持った性質によって適性とされる属性が存在する。


 そして、明らかに異質な、ランスやレヴェッカのような極稀ごくまれに現れる適性とされる属性がない無属性とも違う、陽と陰、光と闇、清と濁……そのように言い表されるほど性質が他と全く異なる事から別のものであるとして『魔力』と呼ばれるようになった特異な霊力を宿す者達――それが『魔族』だ。


 今、テレビの向こう側――大円形闘技場にいる女性レポーターが、その場の騒然とした状況を伝えるべく真剣な面持ちでマイク片手に話し続けていて、開会式の会場に現れた魔族達、その代表が発したものだという言葉を繰り返している。


 それによると、彼らはアーカイレム島を中心とした数百の島からなる首長国連邦『リーベーラ』が誇る最高学府、『国立魔法学園』を代表する生徒達で、碧天祭に参加するためやってきた。そして、お互いに過去の遺恨を水に流し、この世界で生きるものの一員と認めてもらい、仲間入りする事を望んでいるらしい。


 事実、時おり別のカメラが捉えた魔族だという者達の姿が映し出されるのだが、引率の教師らしき人物を除けば全員が十代と思しき若者で、その学園のものと思われる揃いの制服を身にまとっている。


 彼らのほとんどは、ヒューマンやネフィリムのような人類、ルーガルーやバステトのような獣人と変わりないが、中には、怪物モンスターのホブゴブリンやオーガと同一視されて迫害され追放されたとわれる民――頭部に角を有する有角人種ホーンディアンや、植物系人種でありながら火と鉄に親しみ迫害され追放されたと云われる民――褐色の肌と白い髪に長耳が特徴的な『スヴァルトアールヴ』と思しき者の姿が見受けられた。


「ねぇ、今年の碧天祭……どうなっちゃうの?」


 二人いると言っていた兄達で歳が近い男性に慣れているからか、リノンよりも気安く接してくるシュノーが問えば、あとの二人も心配そうな視線を向けてくる。


 それに対して、パイクがテレビを観やすいよう抱っこしているランスの答えは、


「おそらく、どうもならない。このまま開催されて、競技が行われる」


 予想外だったのか、拍子抜けしたのか、少女達は目をパチパチさせ、


「どうしてそう思うんですか?」


 顔を見合わせた後、代表してそう訊いたのはリノン。


「それは……」


 実は今、ランスの目の前には、自分にしか認識できない仮想画面ウィンドウが表示されている。


 そこに映し出されているのは、全金属飛行船の乗降用階段タラップを下りて続々と、そして、堂々と、浮遊島リザにある空港へ降り立つ魔族達の姿。


 これは、魔族の出現を知らされた直後、彼らが入国した際の状況を表示しろ、と天空城の主としての権限をって管理者に思念で命じた結果。


 更に、この全金属飛行船の持ち主が誰かと質問し、この国が所有するものだという回答も得ている。


 現在テレビに映っている会場の様子からして、事前に知らされていた者は少ないだろう。だが、知っていた者達にとっては、この混乱は予想されていたものという事になる。


 これだけの事をするには関係各所へ手を回す必要があるはず。ただ碧天祭を潰したいだけならここまで手間をかける必要はない。それ故に、その者達は碧天祭が開催される事を望んでいると考えられる。


 ならば、何がどうなろうと、結局、式は続けられ、開会が宣言され、碧天祭は実行される。その者達が描いた計画の通りに。


 とはいえ、天空城に関連する事は秘匿しなければならないため、それをそのまま伝える訳にはいかない。


 では、どう答えれば少女達に理解できて納得してくれるかと考え……


「碧天祭の実行委員会は、この日のために時間とお金をかけて準備してきたはずだから。利益を得るためにも、失敗で終わらせて損失を出すより、経緯はどうあれ成功で終わらせたいはず」


 それに、と言ってランスは目をテレビに向け、


「今のところ、魔族の学生達は真面目に参加しようとしているように見える。けど、ダメだと断ったら、会場に居座られて進行を邪魔されたり、暴れられて来賓や観客が巻き込まれ怪我をしてしまったりするかもしれない。それなら、参加を許可するほうがずっとましだ、と考えると思う」


 商家の娘さんリノンはそのほうが納得しやすいかと金銭の問題をからめて説明すると、シュノーもそれで納得したようだった。


 しかし、アイリーンは、納得していないというより不安そうな面持ちで、


「でも、今はまじめに参加するつもりでも、競技中にあばれだしたら……」

「学生とはいえ、各国を代表する程の実力者が揃ってる。その時は皆で力を合わせて倒せば良い。もし学生達には無理だったとしても、グランディアには保安官の総本山ピースメーカーと聖竜騎士団がある」

「――それに! ランスさんと、スピアちゃんと、パイクくんがいるから大丈夫っ!」


 リノンがそう続けると、パイクが、がうがうっ、と頷き、アイリーンはそれを見てほっとしたように表情を緩める。


 ――グランディアの象徴たる媛巫女の登場によって、事態が急転直下の様相をていしたのは、そのすぐ後の事だった。




 グォオォオオオオオオオオオオォ――――~ッッッ!!!!!!!!!!!!


 何の前触れもなく、数十、あるいは数百かという遠雷の如き竜族ドラゴンの咆吼がとどろき、天空に浮かぶグランディア全体を震撼させた。


 長く尾を引いたその余韻が溶けるように消えると、次いで訪れたのは耳が痛くなりそうな程の静寂。


 碧天祭開会式の会場である大円形闘技場にいる人々も、乱入した魔族達も、ミューエンバーグ邸にいるリノン達も、今この時、この天空都市国家にいるほぼ全ての人々は息を飲み……


 チリィイィ――…ン


 涼やかな鈴のを聞いた。


「…………」


 ランスは、いったいどこから聞こえてきたのかと音の源を探し……目を向けたのは、ミューエンバーグ邸の居間リビングに設置されている大型テレビ。


 そして、大円形闘技場にいる各国来賓の、観覧席を埋め尽くす観客達の、入場してきた代表選手達の、魔法学園の生徒達の……全員の視線が吸い寄せられるように向けられたその先は、最も高い場所にあり他の者が近寄れない最上級の特別観覧席。


 そこへ、効果的に施された化粧によって弱さと取る者もいる幼さが塗り隠され、美麗かつ神秘的な装束を身に纏い、結い上げられた長く艶やかな黒髪に飾られている鈴の音を響かせながらしずしずと姿を現した絶世の美少女、その人物こそ――


(竜の巫女、か……)


 竜達の咆吼によって作り出された静寂の中、言葉を失っている人々へ向けて放たれた〝竜を統べる者ドラグナー〟の凛とした声が大円形闘技場に、テレビを通じてグランディア中に響き渡り……


「…………」


 媛巫女の姿を確認したランスは、見るべきものは見たと判断し、パイクと共に、スピアと〔ユナイテッド〕を残してきたバーベキュー用のスペースへ。


 リノン、シュノー、アイリーンは、まばたきを忘れたかのように見入っていて…………リビングからランスとパイクの姿が消えている事に気付いたのは、生の中継ライブ放送が終了してからの事だった。




 いつの間にかいなくっていたランスの姿を庭のバーベキュー・スペースで見付けた少女達は、空腹感もあってそちらへ移動する。そして――


「――えッ!?」


 ランスは、三人からもたらされた情報に、思わず驚きの声を漏らした。


この料理これは『フリッター』じゃない……ッ!?」


 自分が手にしている容器ボールに満たされた衣液ころもえき――全卵たまごと水をよく混ぜて小麦粉をいたもの――に目を向け愕然とするランス。すると、母親を手伝って料理をすると言う少女達は揃って頷き、


「フリッターのころもって、小麦粉を牛乳でといて、そこにメレンゲをいれるんです」

「水じゃなく牛乳? ……『メレンゲ』って?」

「たまごの白身をあわだて器でよぉ~~くかきまぜると、わたみたいにフワフワのモコモコになるんです。それがメレンゲ」

「白身をよく掻き混ぜると……じゃあ、黄身は?」

「ソースをつくります」

「あっ、うちはメレンゲをつくってから黄身もいれる!」

「お砂糖をちょっといれると、おかしみたいになっておいしいよね」

「砂糖? お菓子?」


 ランスは困惑した。


 この料理は師匠に教えてもらったもので、その時、こう言っていた。


 〝毒のない植物と昆虫はたいていこれで美味しくかつ安全に頂ける〟と。


 本当に、同じ料理の話なのだろうか?


(……いや、そう言えば……)


 確か師匠は、食材をそのまま油に投入した時や、粉だけまぶしてげた時も『フリッター』と言っていた気が……。という事は、


(油で揚げた料理全てをそう呼んでいたのか……)


 師匠は料理人ではない。食事は、強い躰を作り、それを維持するために必要な作業で、美味ければ良い、という人だった。


 おそらく、今までフリッターだと思っていた料理は、牛乳を飲む習慣がないので水を使い、メレンゲとやらを作る手間を省くために全卵を投入した師匠のオリジナルで、リノン達が話しているものこそが本当の『フリッター』なのだろう。


 スピアが薪に点火し、たくみに火力を調節し、もういい塩梅あんばいに油が温まっている。


 ランスは、これからこの料理をどう呼べば良いのだろう、などと考えながら衣液の中から取り出した食材を手慣れた様子でそっと熱い油の中へ。


「ランスさんが使ってるそれって、『おはし』ですか?」

「オハシ?」


 リノンの視線が向けられているのは自分の右手で、ランスは手にしている細い2本の棒を開いたり閉じたりしつつ、


「師匠は、アールヴの薬剤師が使っていたピンセットだって言ってた」

「そうなんですか? わたしがおみやげでもらった朱色のおはしは、ニライカナン大陸のちかくにある『オーヤシマ』っていう島国でつかわれている食器だ、って」


 お父様がそう言っていたらしい。


 それらが同じ物なら、調理だけではなく食事でも使うので、ピンセットよりそう呼んだほうが良いだろう。


 ランスは、わずかな音の変化を聞き逃さず、鍋に【念動力】で液体だけとおさない不可視のフィルターをし、オハシで油の中から薄く衣をまとった食材を取り出した。


 【念動力】の蓋で余計な液体あぶらが落ちるためカラッと仕上がったそれらを、次々と大きな木皿に並べて行く。


「あれ? これってひょっとして……?」


 そう、と頷くランス。それらはリノンが気付いた通り、共に観光で行ったルルディ、その浮遊島を南北に分ける山の中で幼竜達が採ってきてくれた山菜ときのこなど。


 下ごしらえした食材タネは全て〔収納品目録〕に収められていて、仮想操作画面で次のタネを選択し、衣液の表面を指定して取り出すと、出現した食材が、とぽんっ、と沈み、ランスはそれを箸で取り出して油の中へ。


 そうやって次々に揚げ、先に出来上がったものが食べ頃の温度になったところで、まず、今も付きっ切りで火の調節をしてくれているスピア、それから、他にする事がなかったからだと思うが、生ゴミとして捨てる前に片づけてくれたパイクにも食べさせる。


「んまいっ!」

「んま~いっ」


 酒以外でパイクの口から、んまい、が出るのは珍しい。やはり、下ごしらえの段階で切り落とした部分は美味しくなかったようだ。それと比べているからそこ、より一層美味しく感じているのだろう。


 粉末状の海の塩と数種の岩塩、それにしぼってかける柑橘類も数種用意してあるが、幼竜達は始め何も付けず、飽きてきたら味を変える。なので、少女達にもまずは出来立てをそのまま勧めると、


「おいしいっ!」

「なにこれっ!? サックサクっ!」

「わたし、もちもちのフリッターより、こっちのほうが好きかも」


 本物のフリッターの食感はもちもちらしい。やはり、これは別の料理だと考えたほうが良さそうだ。


 メニューは他に、スピアのおかげで美味しくできたポトフ、小さく刻んでカリカリに焼いたベーコンと粉チーズとオリーブオイルをかけた数十種類の野菜を使ったサラダ、グリルで作ったローストビーフ……などなど。飲み物は、ミューエンバーグ家のメイドさん達がいろいろ用意してくれた。


 アイランドキッチンのような調理台の上に所狭しと並ぶ大皿料理の数々を見て、少女達は作り過ぎだと呆れていたが、余ったら〔収納品目録〕にしまって後で食べるつもりなので問題ない。


 食べたいものを好きなだけ自分の皿に取り分けるビュッフェ形式と、盛り付けみためを気にしないワイルドな料理はなかなか好評で、食事が美味しくて楽しいと気分が良くなり少女達の会話も弾む。


 そして、自分で食べるよりスピアとパイクに食べさせているほうが多いランスが、あの生の中継ライブ放送をほとんど見ていなかった事を知ると、三人は口々に見聞きした事を話し……


 彼女達の感想を除外して要約すると、媛巫女は、代替わりして初の碧天祭でイレギュラーな事態に際しても動じる事なく、そのつるの一声でリーベーラ国立魔法学園の生徒達の参加を認めさせ、見事な差配さはいでその役目を果たして見せた、との事。


「…………」


 その姿に感動し、憧れや尊敬の念を抱く少女達の側でそれを口にする事はない。


 しかし、ランスだけではなかったはずだ。


 その様子を見て、結果を知って、『予定調和』という言葉が脳裏を過ったのは……

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