第44話 こんな事もあるのか
飛行に適した翼竜形態でなくとも、生体力場を有する上に風を操る
――到着したのは、一部の建物が崩壊している犯罪多発地区にある貧民街。
助けを呼ぶ声は、幼い少女のもので、倒壊した建物の中にいる兄を助けてと涙ながらに声を上げている。
突如飛来したドラゴンの姿に、泣く子は黙り、無事な人々は蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、ランスとパイクはその少女の傍らに降り立った。
少女の兄は生存しており、負傷してはいたが、傷口の【洗浄】、【念動力】での接骨、【縫合念糸】で傷を全て縫合し、【応急処置】で錬成したフィルムを張り付けて処置完了。【空識覚】で全身を診察した結果は、異常なし。後遺症や傷跡は残らないはずだ。
そのついでに他の負傷者達の処置も手早く済ませたちょうどその時、どこかへ行っていたスピアが戻ってきた。本来の大きさである20メートル超の飛竜は、その両手でそれぞれ
【精神感応】で尋ねると、その2名はこの惨状を作り出した犯人らしく、屋根から屋根へ移動しつつ戦闘を繰り広げて被害を増やしていたので捕まえてきたとの事。
ランスとパイクは、意識を取り戻した兄と寄り添う妹から伝えられた感謝の言葉に一つ頷いて踵を返し、スピアは迷惑な2名を死なない程度に軽く握り潰してから被害者達の前にポイと投げ捨てた。
――到着したのは、豪邸が立ち並ぶ高級住宅街。
敷地内には幾つもの死体が転がっており、広い庭では、綺麗に敷き詰められた芝や庭園の草花を蹴散らして激しい戦闘を繰り広げる二人の男の姿が。
そのどちらも召喚術士らしく、彼らが振るう大剣と斧槍は、理不尽から身を護るための武器に変化する
「ヒャッハァ――――~ッ!! オラオラどうしたッ!? 早く行って護ってやんねぇと、大切なお嬢様がケダモノ共に喰われちまうぞぉッ!」
下衆な笑みを浮かべた斧槍のチンピラがピアスをした舌を出して
「貴様ァッ! そこを退けぇえええええぇッ!!」
大剣の青年が怒りの咆哮を上げて斬りかかる。
助けを求める声は、その大剣の青年が向かおうとしている邸宅の中から。しかも、一つや二つではない。
スピアの背から飛び降り【落下速度制御】で扉がぶち破られた玄関前に音もなく着地したランスは、射殺されている男性を飛び越えて邸宅内へ突入した。
襲撃者達は『男は殺し、女は犯せ』と命令されているのだろう。それを忠実に実行しようと、
彼らは自分と関係のない犯罪者。殺傷許可のない犯罪者は、可能な限り逮捕して裁判を受けさせ罪を償わせなければならない。
ランスは〝閃捷〟で音もなく屋内を駆け巡り、その不意を
2階は襲撃者と思しき男達の死体のほうが多い。それは、傷だらけで意識を失っている護衛と思しき女性が奮戦したからだろう。
部下をけしかけて十分に消耗したところで襲い掛かり、その意識が飛ぶまで
それ故に、他の男達と同様、不意を衝いた一撃で己の身に何が起こったのか理解する間も与えずあっさり意識を刈り取れたが、そうでなければ倒すのに他より少し時間が掛かっていたかもしれない。
「あ、
最後の二人は、うつ伏せに昏倒した男の躰を突き飛ばすように脇へ押し退けて寝室の隅へ逃げ、露わになっている肢体をお互いで隠すように身を寄せ合っている若々しい母親と十代半ばの可憐な娘。
「スパルトイです」
娘の問いに、レベル表示の〔ライセンス〕を見せながら答えて踵を返し、
「スパルトイが何故、今ここに?」
広い寝室から退室する直前に投げかけられた母親からの問いに、
「助けを求める声が聞こえました」
振り返らずそう答えて部屋を後にする。
表へ出ると、庭ではまだ斧槍のチンピラと大剣の青年が戦闘中で――銀槍を召喚したランスはチンピラの背に向かって殺気を放った。
チンピラはなかなかの反応を見せて側方へ大跳躍。着地と同時に振り返り、
「なんだテメェ? どこから湧いて出たッ!?」
「…………」
ランスは答えず、大剣の青年に向かって顔を小さく横に振り、『行け』と促す。
「――感謝するッ!!」
迷ったのは一瞬。銀の槍を携え〔
「させるか――チッ!」
それを阻もうと動いたチンピラをランスが阻む。
「邪魔だッ!!
チンピラが乱入者に向かって突進しながら両手で斧槍を振りかぶった――その瞬間、ドヅッ、と響いた打突音は一度。穴は二つ。両肩を打ち抜かれたチンピラの手から力天使型聖魔が変化していた斧槍が離れ、岩が風化して崩れるように空中でサラサラと消え去った。
長物の長所はその
「……はぁっ? 何だこれ? 何だこれ? 何だ――ブフゥッ!?」
茫然自失の
――到着したのは、都心部にあるエルハイア警察本部。
助けを求めていたのは、負傷した
ランスが情け容赦のない不意打ちで、正面しか見ていない犯罪者達を後ろから音もなく順に蹂躙して行った結果分かった事だが、警察本部を襲撃したのは麻薬カルテルの兵隊だった。
現在、都市のいたる所で発生している事件を解決するため、事務と無線担当を除くほぼ全ての署員が出払っている。それを見越して好機だと判断し、署内の保管庫に収められている犯罪者やそのアジトから押収した大量の麻薬や武器弾薬を強奪する、という
あと一歩のところで想定外の人物の横槍がなければ、それは成功していただろう。
ランスの迅速な応急処置によって新人女性刑事の相棒は一命を取り留め、他にも助けを求められて処置を施していく――その間、いけない遊びを覚えてしまったスピアとパイクは、もう完璧に〝
後になって悔やむ事になるとは思いもせずに……。
救急隊が到着したので後を任せ、処置に急を要したためその暇がなく、結局、名を名乗る事もせず警察本部を後にしたランスが目の当たりにしたのは、破壊の限りが尽くされた凄惨な戦場のような光景。
犯罪者の移動手段を奪う事になり、修行にもなる。だからこそ多少のやり過ぎには目を瞑ってきた。だが、これは違う。一目見て分かった。移動手段を奪うためでも修行のためでもない。
警察本部前で燃え盛る車輌の残骸と立ち昇る黒煙をバックに、これは遊びや悪ふざけでやって良い事なのか、悪い事なのか、と〔万里眼鏡〕のプレートを上げて瞬きもせず、じぃ――――~っ、と目で問うてくるごしゅじんを前に、スピアとパイクはおろおろ
ランスは、怒ってはいないし、叱るつもりもない。だが、良くない事をしたら、どうすべきだったのかを教える、または一緒に考える必要がある。
故に、悪いと思っていて反省しているなら、もう言う事はない。
「きゅう――~っ」
「がぅ――~っ」
怒っていないと分かった途端、スピアとパイクは一転して勢いよく飛び付くなり肩までよじ登り、左右からごしゅじんの頬へ頭をグリグリすり寄せて甘え、ランスは苦笑しつつその背を、ぽんぽんっ、と撫でる。
ここが最後だったなら、クオレとソフィアを乗せた〔ユナイテッド〕が追い付いてくるまで、このままたわむれていられたのだが、
『――ごしゅじんっ』
幼竜達は、ピクッ、と頭を上げて同じほうへ顔を向け、ランスは一つ頷いた。
――到着したのは、都心に程近い住宅街。
今そこは、決闘の
普段は交通量が多い広い道路、その中央で真っ正面からぶつかり合っているのは、どちらも2メートルを超える巨躯の、岩のようにゴツゴツした鱗に覆われた
その闘犬人の義腕には魔導機巧が内蔵されており、火弾を発射し、火炎を放射する機能が備わっている。対戦中の蜥蜴人は火属性への耐性が高く効果が薄いと分かってからは使用していないが、それまでに、その2名のせいでクラッシュした事故車輌や街路樹が燃えていて、すぐそこの7階建て
よく言えば伝統を感じさせる趣があり、悪く言えば古いその建物には、どうやら火災対策が足りていなかったらしく、増す一方の火の手は上へ上へと伸びて既に全階から煙がもうもうと噴き出している。
そして、助けを求める声は、マンション5階の角部屋、そのベランダにいる赤ん坊を抱いた熟年女性と、マンションの前で消防隊員に引き止められていなければ今にも火の中に飛び込んで行きかねない様子の女性のもの。
逃げ遅れ、火と煙に追われてベランダに追い詰められた二人は、助けに行こうとしている女性の息子とベビーシッターらしい。引き止めている消防隊員が片手に買い物袋を提げているのは、彼女が放り出したものを拾ったのだろうか?
――何はともあれ。
消防の
スピアとパイクは全属性の適性を獲得しているものの
赤ん坊を抱いている熟年女性を抱いてベランダから飛び降り、【落下速度制御】でゆっくりと降下し、家族を再会させて救助完了――そう思ったのも束の間、
「――ごしゅじんっ!」
「―――~ッ!?」
ランスは、バッ、と勢いよく今飛び降りてきた5階の部屋を振り仰ぐ。
幼竜達が生体反応を感知したのは5階のあの部屋のみ。室内は既に火と煙で様子を窺う事ができない状態だったが【空識覚】で確認した。故に、要救助者を見過ごして置き去りにしたなどという事はあり得ない。
だが、スピアが『いる』と言うからには、まだそこに助けを求める者がいるのだ。
「…………ッ」
ランスはその場から大跳躍し、更に捷勁法の〝踏空〟で透明な足場があるかのように空中を蹴って5階のベランダへ。そこから屋内へ突入した。
「…………」
【念動力】で煙と炎を押し退けつつ【空識覚】で探す。この部屋は、バスルーム、トイレ、洗面所、寝室やリビングなど複数に分かれており……やはり
どういう事かと怪訝に思いつつ、ならば、と【空識覚】の範囲を狭めて精度を上げ…………
「――――ッ!」
ランスは、横手の壁に駆け寄ると、抜き放った自前のサバイバルナイフに勁力を通して突き立て、豆腐のように
手抜き工事なのか、こういう工法なのか、建築に関する知識がないランスには分からないが、外壁とこの部屋の壁の間にはわずかな空間があり、サバイバルナイフを納めて四角く切り抜いた穴からその中を覗き込むと、
「ミィ~っ」
そこには、闇の中に差し込んだ光を見上げる愛らしい顔立ちの小さな子猫の姿が。
まさか、助けを求めるもう一つの声というのが、薄汚れた生後数週間と思しき白猫のものだったとは……。
こんな事もあるのか、と〔万里眼鏡〕のプレートの下で目をパチパチさせたランスだったが、強まりつつ迫る炎の気配が呆気に取られている事を許してくれない。
「お前、何でこんな所にいるんだ?」
ランスは、子猫の首根っこをつまんでひょいと抱き上げ、負傷していないか調べつつ訊くが、子猫は、ミィ~っ、と鳴くばかり。スピアとパイクのように教えてはくれない。
ここに空間転移したのでもなければ天井裏から落ちてきたとしか考えられず、【空識覚】で調べてみると……
「…………」
天井裏は、既に煙と熱気が充満している。この子猫は、幸か不幸か、この隙間へ落ちていたからこそ助かったのだ。
ランスはこの子猫の親兄弟、その冥福を祈り、猫の家族、その唯一の生き残りを
そして、弱っている子猫に負担をかけないよう【落下速度制御】でゆっくり降下し――その最中、視界に飛び込んできた光景に、思わず、うっ、と呻きを漏らした。
それは何故か?
ランスは、スピアとパイクに、消防の車輌が通れるよう邪魔な車を退けてほしいと頼んだ。
その結果、ランスから見て左側では、10メートル超の
それは、遊び心や悪戯心が発揮された結果ではない。幼竜達なりに無用な破壊を行わないよう配慮した結果だ。
その証拠に、大きいままでは自分達が邪魔になってしまうからと気を利かせ、虎ほどのサイズになって【落下速度制御】で軟着陸したごしゅじんの許へ駆け寄ったスピアとパイクは、ほめてもらえると思って期待にお
そんな幼竜達に対して、ランスは――
「ありがとう」
背中に下ろしているフードの中に子猫を移して両手を空けてから、手段はどうあれ頼み事をしっかり達成してくれた事について感謝を伝えながら幼竜達をわしゃわしゃ撫で――内心、もう少し詳しく指示を出すべきだった、と反省した。
――何はともあれ。
あとは火事の原因となった2名の異種族を排除するのみ――と思っていたのだが、
「――貴様がそのデカいトカゲ共の飼い主だなッ!?」
火事の原因の片割れ、というか、原因そのものである義腕の闘犬人が怒声を張り上げつつ歩み寄ってきて、
「見ろ、あの
そう言って、路面で這いつくばるように平伏している蜥蜴人を指さした。
どうやらリザードマンにとって、ドラゴンは特別な存在らしい。
戦闘を邪魔された事、そして、力を認めた強敵の不甲斐ない姿に、闘犬人は怒り心頭といった様子で、
「そのトカゲ共を連れて
「――わぁあああああぁッ!?
「あァッ!? ――ゴフゥッ!?」
ランスに向かって
高い放物線を描いて宙を舞った闘犬人が、信号機に、ガンッ、とぶつかってから、ドサッ、と路面に墜落する。
「今ヒトを撥ねたぞッ!! 運転する者が優秀なら事故など起きないんじゃなかったのかッ!?」
分かりにくいが顔を青くして喚く
〔はい。今のは
「交通事故じゃなく殺人事件ッ!?」
流石にクオレはまだ平気そうだ。しかし、後ろのソフィアは目が
クルーズ・フォームは一番楽に長く乗っていられる形態だが、バイクは曲がる際に車体を傾ける。急激な加減速と右折左折で振り回され続けるのは成人男性でもキツイ。体力のないソフィアなら尚更に。辛い、苦しいと泣き言を漏らさないだけでもたいしたものだ。単にそうする力が残っていないだけかもしれないが……
――何はともあれ。
ソフィアと子猫を休ませるためにも、両者にはもう少し辛抱してもらい、速やかにその場を離脱するランス達。
その後すぐ、邪魔な車が退かされた事で通れるようになり、最大の障害だった異種族達が無力化され、それを警官達が取り押さえて逮捕した事で、近くまで来ていながら手を
クオレは小型無線機を持っている。列車で移動中にランスが帝国軍人から拝借して渡しておいたものだ。そして、ディランも持っている。それは
二人は、いざと言う時にはそれで連絡を取り合う事にしていたそうで、
「お前の頭の中はどうなってるんだ?」
彼の仲間のものと思しき
ランスは〔ユナイテッド〕を〔
運転席にはディラン。後ろの座席にクオレとソフィア。後部の荷物置場の約半分はテーブルと警察無線を傍受するなど情報を収集するためのものと思しき機材で占められており、残りの狭いスペースに、ランス、スピア、パイク、それに子猫が納まっている。
「状況を把握しているのか?」
後ろの機材を見てクオレがそう訊くと、ディランはハンドルを握ったまま肩を竦め、
「おおよそは。だが、正直なところ、狐につままれたような気分だ」
「どういう事だ?」
「ほぼ同時刻にエルハイア中で事件が多発し、警察だけじゃ対処しきれず軍の駐留部隊までが動員された。その時点で既に混乱していた状況が、突如ドラゴンが出現した事で更なる大混乱に陥った。その挙句、――事態は早々に収束へ向かっている」
「はぁ?」
ディランは、同情するように苦笑してから、
「自力で法呪・練法を使えない帝国国民にとって、『ドラゴン』とは、人には決して勝つ事ができない、軍を総動員しても追い払うのがやっとという存在だ。そんなのが頭上を飛び回り、気まぐれに降りては火を噴いて辺りを火の海にしている。しかも、1体だけじゃなく2体もいるともなれば、怖いものなしのギャングやマフィアだって逃げ出したくもなる。チンピラに毛の生えたような犯罪者達なら尚更だ。標的を見失った傭兵や殺し屋、賞金稼ぎがそんな中をうろつく理由はない」
「要するに、善良な市民だけではなく、無法者達までもがドラゴンを恐れて屋内や地下へ避難した結果、街は静かになった、と?」
「ただのバカや頭がおかしい奴はそのまま騒いでいたようだが、流石に数は少ない。それに対して、仕事
狼の群れの中の羊だ、と言って犯罪者ながら憐みを禁じ得ないといった表情を浮かべるディラン。
「まさか、君はこの結果を狙って動いていたのか?」
クオレとソフィアは振り返って、ディランはバックミラーに映る少年スパルトイを見詰める。
それに対して、食品と食器類を収納している〔収納品目録〕からお
「いいえ」
あっさり首を横に振った。違うのか? と驚いたように重ねて訊いてきたクオレに、はい、と答える。
事実、助けを求める声に応え、スピアとパイクに連れ回された先々で成すべき事を成しただけだ。
その結果が敵への奇襲となり、『
何故なら、達成すべき目的――受けた依頼は『ソフィアの護衛』であり、事態の収拾でも、事件の解決でも、クレイグ・ハミルトン博士の野望の阻止でもないからだ。
――それはさておき。
ディランの話の中に
事実とは違うが、実際に車輌を爆発炎上させて火の海を作り出していた。故に、『火を噴いて辺りを火の海にした』という不正確な情報が広まってしまったのは分かる。だがしかし、少なくとも一度は警察官に〔ライセンス〕を提示し、竜飼師だと名乗ってスピアとパイクは
スピアとパイクの事だけに確認しておく必要があると判断し、疑問をそのままディランに伝えると、
「そういう報告はあったが、誤情報だと判断された」
そんな答えが返ってきた。なんでも、誤情報だと判断された理由は二つ。
その一つは――
「
パイクは言うまでもなく、スピアも翼竜形態ではなく、〝爪〟を使いこなす修行のためにずっと『飛竜』形態で飛び回っていた。
それに、思い返してみると、幼竜達が破壊の限りを尽くしていたその時、自分は救助活動を行っていて側にいなかった。余人がそうする理由を知るはずもなく、目撃者達にはドラゴンが暴れているようにしか見えなかっただろう。
そして、もう一つは――
「エルハイアの《竜の顎》を介して、
声には出さず、あっ、と思って取り出した〔ライセンス〕の表示を身分証明書に変更して確認すると、職業の欄や資格や免許などの欄に『竜飼師』の文字はない。
当然だ。認定書を授与されてからまだ更新していないのだから。
とはいえ、確かに提示したのはスパルトイの〔ライセンス〕だが、グランディアの竜飼師協会のほうには問い合わせなかったのだろうか? それに、どういう問い合わせ方をしたのだろう? 確かな証拠はなくとも、グランディアであれメルカ市であれ、自分が2頭のドラゴンを連れているという事は良くも悪くも知れ渡っている。故に、証言は得られるはずなのだが……
「…………」
ランスはふと、目の前にある機材を見て思った。――ひょっとして、これを使えば軍、警察、マフィア、ギャング……その他諸々、無線を利用している全ての組織に対して情報操作を行えるのではないか、と。
「ところで、君は何をしているんだ?」
テーブルの上の木皿を指さしているクオレに問われたランスは、浮かび上がった疑念の事などおくびにも出さず、おもむろに背中に下ろしているフードの中から子猫を取り出した。
クオレとソフィアが目を丸くし、その中の居心地がよかったのか、抗議するようにミィミィ鳴く子猫をテーブルの上に乗せ、
「ほら、水だぞ」
木皿の中の水を勧める。すると、よほど喉が渇いていたのかものすごい勢いでピチャピチャ飲み始めた。
「
「んん~……、あぁ~……、まぁ、遠い祖先は同じだという話を聞いた事があるような、ないような……」
『猫』とは、時にバステトの蔑称として使われる。もちろん、相手の意図次第では悪い意味にならず、ソフィアにそんな意図がないという事は分かっているのだが、それでもどう反応すれば良いのか分からず……
「かわいい……~っ」
そんなクオレをよそに、ソフィアは興味津々な様子で座席の
「ソフィア ちっちゃいクオレたべる?」
ごしゅじんの肩の上でその横顔に、ぴとっ、と躰を寄せているスピアが訊くと、顔を引きつらせるクオレの隣で、ソフィアはとんでもないと言わんばかりにブンブンと音が聞こえそうなほど勢いよく首を横に振り、
「おっきぃ~クオレたべる?」
ごしゅじんに抱っこされて膝の上でリラックスしていたパイクが、じゃあ、と放った問いに、
「そういえば……猫は食べた事ないな」
『ねこ……』
「ミャゥっ!?」
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