第24話 嵐呼ぶ剣の舞姫

 その駐車場は広く、市街は地下にあるため、その一帯には目立った建物はない。利用者は少ないようで、〔ユナイテッド〕とレヴェッカ達のジープの他には乗り捨てられたようなトラックや乗用車などが幾つか見受けられる程度。他に目に付くものといえば、そこに地下市街へ続く階段がある事を示す看板と手摺、あとは等間隔に立っている外灯ぐらいのもの。


 そんな駐車場で、5体の怪物モンスターが咆哮を上げる。


 真っ先に動いたのは――ソンベルス。


 ランスがこの機に自分を狙ってくると予想していたのだろう。魔法陣が消失すると同時に素早いバックステップの連続で更に大きく距離をとり――先程と同じように己の周囲に五つの魔法陣を展開する。


 レヴェッカは、チッ、と舌打ちし、掌と甲に複雑精緻な魔法陣が刺繍されている手袋を両手に嵌めつつ、既に前に出て臨戦態勢のティファニアとフィーリアの背中に向かって、


「次が出てくる前に片付けるッ!」


 そして、右手に愛用の得物――〔平行銃身上下二連中折式猟銃型衝撃杖リンスレット・シルヴァンス〕を召喚した。それから、


「ランス君! 偽翼竜コウモリのほう任せてもいいッ!?」

「了解」


 ランスは彼女達の協力者として要請を受諾する。レヴェッカは、これまで沈黙を貫いていたランスが無視せずちゃんと返事をしてくれたので、ほっ、と安堵し、


「質問があります」


 続いたそんな言葉を意外に思いつつ許可した。


「支配から解放するすべはありますか?」

「死よ。それ以外にない。あの呪法の事は知ってる。対となる牙を体内に打ち込んで支配するの。その牙が、命令に逆らえば苦痛を与え、支配者が死亡すれば道連れにする」


 ランスは簡潔で明快な回答に感謝を伝えた。


 こちらに向かってくるのは、頭の大きなステゴサウルスの背びれを3列の鋭い突起に変えたような有棘型バーブドと通称される陸亜竜3体。偽翼竜2体は力強く羽ばたいて既に舗装された地面から離れている。だが――


「――スピア」


 【精神感応】によって意思の疎通は刹那で行なわれ、一瞬で飛竜から翼竜へ形態変化したスピアは、ぐぐぐっ、と両脚をたわめてランスがその背に飛び乗るなり大跳躍。


 比類なき強靭な脚力を更に霊力で強化して敢行したジャンプの勢いのまま羽ばたいて急上昇。


 あっという間に先に飛び上がった偽翼竜2体に追いつき――追い抜き様に躰を、くるっ、と捻って空飛ぶ怪物モンスターへ背を向けた瞬間、そこから銀槍を手にしたランスが偽翼竜ワイバーンに向かって跳躍した。


 ――ヅドンッ!!


 捷勁法〝発勁〟の応用――霊力を練り上げて昇華させた純粋な破壊の力である『勁力』を穂先の一点に集中して繰り出された刺突は、偽翼竜ワイバーンの生体力場を易々と貫いて比較的柔らかい顎下から抉り込まれ脳へ達する。更に、その勁力の一部を衝撃に乗せて浸透させる事で脳の機能を完全に破壊した。


 上昇中だった偽翼竜は予期せぬ静かな死を向かえ、慣性と重力が拮抗して束の間、ふわり、と空中で制止する――その時、顎下に深々と突き刺された銀槍に左手だけでぶら下がっている格好のランスは、もう1体の偽翼竜に向かって右手を伸ばし、グッ、と空を掴んだ。


 上を取って眼下を睥睨するスピアに、下方から追いつき噛み付こうと大きく口を開けて牙を剥く偽翼竜――その口が、見えない巨大な手で鼻っ面を鷲掴みにされたかのように、ガチンッ、と強引に閉められる。ランスの【念動力】だ。


 驚愕に支配された偽翼竜は無様に慌て、スピアの前で無防備な姿を晒し――クルッ、と前方宙返りしたスピアの尻尾攻撃、縦回転〝竜尾衝〟の直撃を受けて頭部を破砕され、首から下はもの凄い勢いで地上へ打ち落とされた。




 防御系法呪【守護力場フィールド】を発動させたレヴェッカ、ティファニア、フィーリアを目掛けて進む3体の陸亜竜ダイナソー――その先頭の1体に、落下してきた頭部がない偽翼竜の死骸が激突して押し潰す。それに驚いた2体が棹立ちになった。


 驚いたのは三人も同じだが、


『――ナイスアシストッ!』


 レヴェッカ、ティファニアが声を揃え、フィーリアが無言で飛び出した。


 空を飛ぶ偽翼竜ワイバーンの躰は、陸亜竜ダイナソーと比べれば軽く、脆い。ただでは済まなかったようだが、先頭を進んでいた陸亜竜は降ってきたそれに押し潰されてもまだ生きていた。


 フィーリアは聖人セイントの脚力でいっきにその陸亜竜との距離を詰めると、その勢いのまま、クルクルクルッ、と回転して〔閃く轟雷の砲剣トニトゥルス〕に遠心力を乗せ、無詠唱で付与系法呪【バイブレーションソード】を発動。グンッ、と背を反らすような体捌きでその軌道を横回転から縦回転へ変化させ、超音波で微細に高速振動する大剣を陸亜竜の頭部へ叩き込んだ。


 ズドォンッ、と砲弾が直撃したような轟音が響き渡る。


 切断するのではなく打撃武器として用いられた大剣が、陸亜竜の特に硬い部位の一つである頭部の硬皮を叩き割り、体内へ浸透した分子の結合を崩壊させる超振動が体液を介して伝播し、脳を含む全身の血管を破裂させた。


 見た目以上の甚大なダメージを内側に与える一撃によって先頭の1体が止めを刺されたその時、わずかに出遅れたティファニアが、棹立ちになっている陸亜竜の片方へ砲弾のような速度で一直線に距離を詰める。


輝く炎熱の攻盾ウルカヌス〕が拳を護るように可動し、


「【紅の尖突剣クリムゾン・ジャマダハル】――実行せよエンフォースッ!」


 棹立ちから両前足を地面に着こうと下りてきた陸亜竜の頭部、その下顎へ、地を蹴る右足から振り上げた右拳までが一直線になる美しいアッパーカットで、攻盾拳の先に封霊莢カートリッジ1発を消費して出現した透明度の高い炎を圧縮成形した二等辺三角形の刃を突き刺す。


 その直後、ドゴォオォンッ!! と爆音が轟き【紅の尖突剣】を打ち込んだ反対側から紅炎プロミネンスが噴出し、その超高熱と衝撃波で頭部の上半分が消し飛んだ。


 その一方で、レヴェッカがもう1体の棹立ちになった陸亜竜を狙う。


 それは、一見すると全長およそ120センチの彫刻エングレーブが美しい銀色の平行銃身上下二連中折式猟銃。だが、その正体は最新型の〔衝撃杖ブラスティングロッド〕。機関部だけではなく銃把グリップから銃床ストックにまで施された彫刻は、美しい紋様に偽装された魔法陣。


 レヴェッカは、その猟銃型衝撃杖をへの字に折って機関部を開放し、装弾ショットシェルのような上段の〔術式回路サーキット衝撃ブラスト〕を抜き取り、〔術式回路サーキット弾丸ブレット〕を装填。それを手馴れた所作で素早く行ない、カチッ、と元に戻すとセレクターで発砲するのを上の銃身に切り替え、膝射姿勢で構え、引き金トリガーを絞った。


 ドンッ、と純粋な破壊の力に変換された霊力を圧縮成形した光弾が撃ち出され、対物ライフルから発射された50口径弾と同程度の速度で飛翔したそれが陸亜竜の口内へ飛び込んだ――直後、指向性を持った破壊エネルギーが突き抜け、脳幹を破壊された巨体が地響きを立てて地に伏す。


 それと、ランスに仕留められた偽翼竜の墜落がほぼ同時だった。




 空中でスピアに拾われたランスはそのまま仕掛けようとたが、ソンベルスは六つの非固定兵装アンロックユニットを上方に展開している。不得手な空からでは上手くいきそうにない。


 そこでその背から飛び降り、本領を発揮できる地上へ。スピアは空で待機してもらい、地表が間近に迫ったところで【落下速度制御フォーリングコントロール】を発動。レヴェッカ達の近くに軟着陸した。


「はははっ、まさか秒殺とはッ!! その様子では小手調べにもならなかったようだなッ!?  ――ではこれならどうだッ!?」


 わざわざランス達に聞こえるよう声を張り上げるソンベルス。その周囲に展開されていた五つの魔法陣――その外側に更に10の魔法陣が出現した。


 召喚されてその中に姿を現したのは、数体の偽翼竜ワイバーンと陸亜竜は有棘型バーブドの他に、双角型デュアルホーン鎚尾型ハンマーテイル…………


「――動物園かッ!?」

「動物園にはいない。剥製があるのは博物館」

「そんな事言ってる場合じゃないでしょうッ!?」


 ランスは現状を極めて危険だと判断したが、《トレイター保安官事務所》の三人は違うようだ。かなり余裕があるように見える。


「どう数えても、あいつが腰に提げてる呪物フェティッシュと数が合わねぇぞ?」

部品パーツに加工されてあの鎧に組み込まれている、とか?」

「そんな事より、今はこの絶体絶命の危機をどう脱するかを考えなさいッ!!  ――って、ランス君ッ!?」


 前に出て左手を横に上げ、身振りで下がるよう指示する。その時、ランスの胸中にあったのは疑念だった。


(使うよう仕向けている……のか?)


 それは下策のように思える。他に理由があるのかもしれない。


 だが、例えそうだったとしても、この数、その上、時間が限られている現状でこちらがとれる手段は限られている。


 全ての魔法陣が消失し、15体の大型モンスターが解き放たれた――その瞬間、ランスは余計な考えを捨て、この圧倒的に不利な状況を打破するための力を行使する。


 右手に銀槍を携えたまま〝来い〟と念じたランスの左手に現れたのは――血の色をした呪槍。


「我が敵に見せしめろ、――〔串刺す狂王の威ガズィクルベイ〕」


 真名を唱える事によって秘められた力が解放され、周辺一帯の大気が震撼するほどの莫大な霊気が呪槍から迸る。


 それを逆さに持ったランスが勢いよく穂先を地面に突き刺した瞬間、太さ、長さ共に対象の体格相応の杭が16本、ズドンッ、と同時に地面から突き出し、担い手が敵と認識している存在を直下から貫いた。


 地面からそそり立つ巨大な15本の杭には、飛び立つ間もなく貫かれた偽翼竜も含めて15体の大型モンスターが串刺しになっている。


 そんなおぞましい光景の中で血に濡れていない杭は1本のみ。


 やはり、〔串刺す狂王の威〕の能力を知らなかったり失念していた訳ではなかったらしく、ソンベルスはそれが発動する直前に大跳躍し、その勢いを加速させる形で発動させた【飛行フライ】で急上昇。真上へ逃れたため他の杭が発生する事はなく、伸長して敵を貫かんとしたが攻撃範囲外まで逃げ切られた――が、


「はっはっはっ!! 凌ぎ切っ――ぐおぉッ!?」


 風を操り無音で飛来した白い翼竜の存在に気付いた時にはもう遅い。


 反撃する暇を与えず、スピアは縦回転〝竜尾衝〟でソンベルスを叩き落した。


「ぉあああああぁ――――~ッッ!?」


 六つの菱形の装甲アンロックユニットが間一髪で割って入って装着者を護り、ソンベルスは巨大な杭の林の合間に大砲で射出された砲弾ような速度で地面に激突し、轟音と共に粉塵が舞い上がる。


 今は上手く意表をけたが、相手は制竜者ドラゴンスレイヤー。万が一を想定して追討ちをかける気満々だったスピアを止め、ランスは手にしている呪槍を引き抜く――それに連動して16本の杭が地面へ引っ込むように消え、その付近で串刺しになっていたモンスターの10トン前後と推定される巨体がソンベルスの上に落下し積み重なった。


 常人であればそれだけで圧死していただろうが、


「ぬぅおぉおおおおおおおおおおぉ――――~ッ!!」


 ソンベルスはそれらをまとめて撥ね退け、宝具と思しき剣身だけで2メートルはあり盾ほども身幅がある大剣を一振り。それで生じた衝撃波で自らが召喚したモンスターの亡骸を吹っ飛ばした。


 〝控えろ〟と念じて呪槍を異空間に収納したランス、レヴェッカ、ティファニア、フィーリアは、投石器で発射された岩のように飛来する巨大モンスターの死骸を回避する。


 一方のソンベルスは、そうして確保した広い平面に、これまで以上に巨大な魔法陣を中央に一つ、その周囲に五つ展開した。


 その周囲の魔法陣の中に姿を現したのは――


 とぐろを巻く大蛇竜ナーガラージャ


 翼手、翼足、更に背中の一対、計6枚の翼を有する怪鳥竜ガルーダ


 九つの首を持つ多頭竜ヒュドラ


 年経て怪物モンスター化した植物が竜の姿をとった擬竜樹プラントドラゴン


 退化した小さな翼手を持つティラノサウルスのような魔恐竜タイラントレックス


 どれもこれも竜族ドラゴンすら屠るという化け物ばかり。体長は最低でも20メートルを超え、大蛇竜に至っては、とぐろを巻いて魔法陣の中に収まっていはいるが、伸ばせば100メートルは下らないだろう。


「今度は量より質?」


 軽口を叩いたレヴェッカの頬に一筋の汗が流れる。


 そして、ソンベルス自身が中に入っている中央の魔法陣に姿を現したのは、背中に一対の皮膜の翼を備えたリザードマンのような形態の巨大な飛竜。その特徴は――


破壊を創造する滅魔竜ジェノサイドドラゴンの眷属……ッ!?」


 フィーリアが愕然とし、


「あいつ、マジで制竜者ドラゴンスレイヤーだったのかッ!?」


 ティファニアが驚きの声を上げた。


 そして、ランスは――


「早く速くはやく、ただはやく在れ、――〔貫き徹す虹擲の穿棘ティタノクトノン〕」


 右手で銀槍を振りかぶり、真名を唱えて秘められた力を解放した。




 ――あれに何かをさせてはならない。


 破壊を創造する滅魔竜ジェノサイドドラゴンの眷属の偉容を目の当たりにした瞬間に閃いた直感に従って、ランスは迅速に行動する。


 魔法陣おりに閉じ込められて身動きできない今こそ、支配している制竜者ソンベルスが指示を出していない今こそが好機ッ!


 迸った莫大な霊気が集束して長大な光の槍と化し、敵、味方、人、竜族、怪物が揃って意表を衝かれ驚愕する中、ランスは渾身の力で投擲した。


 中央に魔法陣えんが入った事で周りの五つは外接しておらず、その隙間を抜けて光の大槍が不可視の境界を破砕して突き進み、


「グルォオォオオオオオオオオオオォ――――~ッッッ!!!!」


 舐めるなッ! と言わんばかりに咆吼した滅魔竜の眷属が、竜族ドラゴンの権能を行使して盾状の障壁を展開。危なげなく受け止めた。


 竜族の権能と結晶化した奇蹟が衝突し、激しくせめぎ合う。


 だが、この時点で既に勝敗は決していた。


 〔貫き徹す虹擲の穿棘〕の能力は、永続的な加速。担い手が呼び戻すか標的を貫通するまで加速し続ける。


 つまり、最強種である竜族にも限界はあるが、放たれてしまった結晶化した奇蹟には上限がない。今は拮抗していても、いずれ必ず神器の運動エネルギーが竜族の防御の権能を上回る。


「何をしているッ!? そんなものとっとと打ち砕けッ! それでも破壊を創造する滅魔竜ジェノサイドドラゴンの眷属かッ!!」


 そうとは知らず、振り返って見上げ、押され始めた相棒の姿を目の当たりにして檄を飛ばす制竜者――この時、既にもう一組の人と竜は次の行動を起こしていた。


「グルァアッ」


 滅魔竜の眷属は、直上から急降下してくる翼竜スピアの存在に気付いたようだったが身動きが取れない。そこで頭上にも障壁を展開する。


 しかし、全力降下パワーダイブの勢い、遠心力、自重……乗せられるものは全て乗せた浴びせ蹴りのような縦回転〝竜尾衝〟がそれをガラスのように粉砕し、生体力場をぶつけて相殺し、滅魔竜の眷属の頭部にスピアの尾の先端部が叩き込まれた。


 滅魔竜の眷属の生体力場のほうが強力で威力を削がれたが、それでもそのダメージは無視できるものではない。眼前の脅威に対して集中していた意識が痛みで乱され――その瞬間、威力を増し続けていた光の大槍が正面に展開されていた障壁を突き破った。


 光の大槍が滅魔竜の眷属の胸部を穿ち、貫き徹した際に生じた凄まじい衝撃波によって、背中に開いた巨大な射出口から中身が外へ撒き散らされ、皮膜の翼が千切れ飛ぶ。


「はぁッ!? そ、そんな……~ッ!? そんなバ――」


 こんな結末は想像だにしなかったのだろう。目の前の光景に唖然呆然とするソンベルス――その無防備な後頭部に、前傾した低い姿勢で音もなく影のように駆け寄っていたランスの飛び後ろ回し蹴りが突き刺さった。


 まるで滑走路から離陸する飛行機のように、跳躍というより常人の目には留まらない速度での疾走によって生じた浮力で、ふわり、と舞い上がるように繰り出された蹴りが、ゴッ、と直撃し、千切れたというより切断されたかのように兜を被った頭部がね飛び転がっていく。


 勁力を帯びた蹴り足を振り抜いた勢いのまま、クルクルッ、と回転して着地したランスは即座にその場からの離脱を図り、それとほぼ時を同じくして首の断面から間欠泉のように血が噴き上がった。


 頭部を失った躰が前のめりに倒れ、ランスの【念動力】によって空中で押さえ込まれていた六つの非固定兵装アンロックユニットが鎧の各部に戻って接続される。


 そして、人の支配下に置かれていせいで本領を発揮できなかったドラゴンの亡骸が崩れ落ち、轟音を響かせた。




 レヴェッカの言葉通りなら、ソンベルスが死亡すれば支配下にある残り5体の大物モンスターも道連れで命を落とす――はずだったのだが、


『ギャシャグォオオオオオォ――――~ッッッ!!!!』


 そんな様子は全く見られず、咆哮の大合唱が大気を震撼させた。


 それどころか、5体の大型モンスターはこれまで自分達を呪縛してきた者と同じ人間に向かって強烈な敵意を向けていて、そんなちっぽけな存在よりも遥かに脅威であるはずの他4体には目もくれない。


「おいレヴィッ! 話が違うぞッ!?」

「えぇ~と…………あれぇ~?」


 ランスが胸中に止めた言葉をティファニアは口に出し、レヴェッカは困惑を露わにする。その一方でフィーリアは――


「【超電磁投射砲リニアキャノン】――実行せよエンフォース!」


 怪鳥竜ガルーダに向かって〔閃く轟雷の砲剣トニトゥルス〕を構えた。


 撃発音声トリガー・ボイスで魔導機巧が作動し、仮想砲身が展開され、剣身が強力な磁力を帯び、何所からともなく取り出して放り投げた直径20ミリほどの飛翔体たまが強電磁界に捕らわれて二又の根本の空間に浮き、周辺の空気を巻き込むような高速で回転し始め――


「――フッ!!」


 発射の意思を引き金として、鋭い呼気と共にフィーリアの固有法呪が発動。音速の7倍ほどで射出された霊威を帯びた特殊鋼の実体弾が、飛び立とうとした怪鳥竜ガルーダの生体力場をぶち抜いて爆発したかのようにその巨体を飛散させ、付近にいた4体の大型モンスターを揺るがす程の衝撃波が生じ、その雷鳴のような轟音が遥か遠くまで響き渡った。


「生体力場さえ徹せれば肉体そのものは脆いとは言え、怪鳥竜ガルーダを一撃、か……」

「これでまだ全力じゃないってんだから恐ろしい――ってフィー!?」


 蓄霊槽マナ・バッテリーに蓄えられていた自身の全保有霊力に等しい霊気を全て使い切り、手早く予備の蓄霊槽マナ・バッテリーに交換するなり駆け出すフィーリア。ティファニアとレヴェッカが慌ててその後に続く。


 今の砲撃で4体の大型モンスターの敵意はフィーリアに向けられたが、


 ――ゴォオオオオオオオオオオォッッッ!!!!


 怪鳥竜がいなくなったため、敵の攻撃が届かない高度そらから一方的に竜の吐息ドラゴン・ブレスで攻撃を仕掛けると、怪物共の敵意はすぐスピアに移った。


「ランスくん、その手……ッ!?」


 三人が向かったのは、大きな陸亜竜の死体の陰で衝撃波をやり過ごしたランスのもと。そして、フィーリアが目を向けたのは、〔串刺す狂王の威ガズィクルベイ〕の使用に続いて〔貫き徹す虹擲の穿棘ティタノクトノン〕を投擲した後から、だらんと力を抜いて躰の脇に垂らしたまま動かそうとしないランスの両手。


「ひょっとして、宝具からの霊気マナの逆流で……?」


 細かい訂正はせず、首肯するランス。


 それこそが、銀槍を投擲してもまだ呪槍、斧槍、他にもう1本保有していながら、ソンベルスを討つのに槍ではなく蹴り技を選んだ理由だった。

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