三
第13話
ヒビキシステムが生まれたきっかけは、地球近くに生じた小惑星帯にある多数の天体に含有される
もっと子どもらしいものを欲しがればいいのにと母親から渋られつつも、散々ごねてねだって父の
もっとも、改ざんや悪用がされぬよう、印刷にはナノ・プライバシーと呼ばれる複製を不可能とする素材が使われており、厳密に言えば紙と呼ぶのは違っていたのだが。
今やシステム誕生のきっかけともてはやされ、入手も容易くなったものの、ネットパブリシャーで読むにはあまりに冗長にすぎ、読み手もほとんどいなかったその論文は当時、無限に広げられるはずの仮想領域の中でも、メモリの無駄遣いだと大半の部分が削除され、すべてを公開されてはいなかった。
そんな風に頑なである思考こそが愚かであると
「いつかあなたと一緒に研究がしたいって言っている覚に限って、勉強は問題もないし、
そう洩らした妻・
「論文に落書きをしているようだと晴香が言っていたが、一体どうしたんだ?」
「落書きって…ひどいなあ。音声認識も
「理論の確認?」
ナイルズの論文には無数の紙が差し込まれ、装丁も綴じ口も見る影なく、無残なほどに膨れ上がっていた。
「一体何を考えていたら、こんな有様になるんだ?」
火狩博士はそこここに散らばる紙と、部屋の隅にある中身の見える箱に整然と収められた、何かを構成していたらしき部品――そして不思議と母親よりも兄になついている、覚とは八つ離れた幼い妹・
ページを開けば余白と、足りない場所には、旧世代のリポート・パッドを引っ張り出してきたらしき、紙を挟み込んで作り上げた理論がびっしりと書き込まれ、通し番号が振ってあった。
最初の数枚に目を通し、衝撃に息を飲んだ。
それはセレドライトを用いての、壮大なエネルギー採集計画だった。
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