第2話


その夜、私は雑誌を見たり、友達と携帯でメールをしたりしていた。

私は、彼におやすみなさい、のメールをしておいた。

彼はバイトの日だから今日はメールが来ないかもしれない。


私もそろそろ寝ようかと布団に潜り込んだときだ。

「何しに帰ってきやがった!!」

という怒号が聞こえた。


ちょっと怖かった。

今、家は私とママだけだからだ。

明日は週末で、出張からパパが帰ってくるけれど、パパがいないと、不眠症ぎみのママは早くから睡眠薬を飲んで眠ってしまっている。


まるで自分が怒鳴られたようにビクビクしながら、私は窓をそっと開けた。

私の部屋の窓からちょうどシンさんの家の玄関がよく見える。

声の元は、隣の家だった。

あまり顔は見たことはないが、シンさんのお父さんの声みたいだ。


シンさんが帰ってきたのだろうか。

バタンと玄関のドアを閉められて、家から押し出されていたのは、やはり、シンさんのようだった。

ようだった、というのは、シンさんがすっかり変わっていたからだ。


髪の毛は金髪で、高そうな毛皮のコートを羽織っている。

黒いサラサラの髪と、爽やかな笑顔はどこにいってしまったのか、シンさんはどこかひねた感じがする人になっていた。

テレビで見たことがある、ホストの人のようだった。

実際そうなのかもしれない。


家を出てからのシンさんに、何があったのだろう。

帰ってきたシンさんが、どうしてあんなに怒られなくちゃならないのか、それは他人の私にはまるで分からない。


けれど、危険な香りのする(どんな香りかわからないが)シンさんと関わるのはよくなさそうだと思えた。


前に、パパがニュースを見ながら「どんな人間も、始めはみんな小さな赤ん坊なのになぁ」とつぶやいたことがある。

私はそれをぼんやり聞き流していた。「みんな」に私自身が含まれているなんて思いもしないで。


その時、シンさんが私の視線に気がついたのか、振り向いた。

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