三章 プロローグ2

一方その頃、リリスはジークフリートに連れられて輸送部隊に連れて来られていた。


目の前に整列させられた兵士たちがおり、ジークフリートとリリスがその前に立っている状況だ。


「これから輸送部隊の部隊員となるこちらの女性、リリスが加わることとなる。お前達待望の女性部隊員だ」


ジークフリートがリリスをそう紹介し、兵士達からは、


「うひょう、女だぞ!」


「やった」


「うおおお、流石隊長殿!」


等といった声が聞こえてくる。その声に戸惑いを隠しきれないリリス。


「じゃ、挨拶を」


ジークフリートに促されるまま、リリスは一言、


「リリス、と申します。これからよろしくお願いいたします」


そう言っただけで、


「いやあ、よろしくされちゃうよ」


「歓迎するとも」


兵たちから歓迎の声が聞こえてきて少し照れくさくなるリリス。


「さて、色々教えることになるが、まずはそうだな。お前達、誰でもいいからリリスと戦え。勝ったやつには褒美としてリリス教育係をやらせてやる。お前達好みに色々教え込める、いい話だろう。ただし負けたやつは厳罰として素振り一日な」


「いやあ、流石に女性相手に負ける気がしませんよ」


とある兵士がそういい、練習用の槍を持つ。


「リリスも練習用で悪いんだが槍、持ってもらえるか。こいつらの相手をしてやってほしい」


「分かりました」


そう言い、リリスも練習用の槍を取ってきて構える。


「まあ、あまり本気になっても悪いからよっと」


相手の兵士が軽く槍でつついてくる、それを払い除け首筋に槍を当てた所で勝負ありと宣言される。


「まあ、お前ら女と侮ってたら遅れを取るぞ」


ジークフリートが腕を組みながら声を荒げた。


「確かに、ならばこれならどうでしょうか。隊長は何も一対一とは言ってない。一人では手におえなさそうだし、ここは全員で行かせてもらいましょう」


兵士の一人がそう言い、兵士全員が槍を構える。


数にして100はいるだろう。だが、リリスはなんとかなると思っていた。個々の実力は大したことはないはずだ、と。


だが、その考えはいとも簡単に崩されることとなる。


「前衛、長槍で構え。中衛、後衛で遠距離攻撃だ。練習だから投石で構うまい。全軍突撃」


兵士がそう掛け声をかけた瞬間怒涛の如く兵士がリリスめがけてなだれ込んでくる。


一人、一人と槍を払っていくが、いつしか囲まれてしまっていた。


「さて、こうなれば勝負ありだが、どうするリリスさん」


「どうもこうもありません。ここから勝つだけです」


そう言って闇の魔術を展開する。


まずは正面を切り崩し、そこから、と考えていた所、腕の辺りに痛みが走った。


「勝負あり、ですね。僕の弓矢が命中したようだ。練習用ですが本番なら死んでいた」


腕を抑えながら苦悶の表情になるリリス。


「まあ、一騎当千なんて今の時代じゃないよ。いかな速度もこれだけの槍に囲まれれば幾らか遅くなる。さて、リリスの教育係を射止めたのは」


ジークフリートがちらりと横を見やる。


「ああ、僕はエドワードと申します。以後お見知りおきを。さて、これから教育係をするわけですが、リリスさんは料理は出来ますか」


「ええ、まあ」


「そうですか、ならばまずは昼食作りからお願いしましょうか。ああ、僕のだけでいいですよ。貴方の手料理を食べてみたい」


見ればエドワードは優男だった。魔族だが、その口調は温和。どこも害はなさそうだった。


が。


しばらく付き合っているうちにその認識の誤りを痛感することとなる。


やれ昼飯を作れ、練習はこうしろ、これでなければならない。輸送にかかる費用、見積もりに計画、日程の組み込み。しかし素人目にみても杜撰だった。こんなものでいいのだろうか。


だから夜、ジークフリートに直接尋ねていた。


このままエドワードについていていいのか、と。


「まあ、しばらくは好きにさせてやるさ。だが、あいつら。ヴェルファリアとミリアが帰ってきたらそうはいかんだろうよ」


そう言うのみであった。


「では、それまでしばらく我慢しろ、と」


「そういうことになるな。ま、個々の戦いと対複数の戦いでは上手く戦えなかったろう。そこを体感してもらいたかっただけなんだがな。まさかここまで動けないとは思わなんだ」


思い返せば常に一対一での戦いをしていたように思う。対複数を相手にした訓練はあまりしてこなかった。


「ゲオルギウス、お前の父は一騎当千の槍使いだった。いずれそこに到れるかもしれないがな、今はまだ早かったようだな。まあ、しばらくは地道に基礎を固めて輸送部隊に慣れて行ってくれ。各地反乱も特にないようだし、もうしばらくは時間があるだろう」


「わかり、ました」


「まあ、エドワードは悪いやつじゃない。良い奴でもないけどな。心は許さぬことだ」


「はい、私にはヴェル様がいます」


「なら、いいんだがな。さて、もう夜も遅い。寮に戻って休むことだ」


「はい」


しかし、この平穏にも似た日はそう長く続かなかった。

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