愛と言うものについて
「と、言ったものの」
「いかがされましたか?」
「愛、とは何なんだ?」
思わず問いかけていた。実のところよく分かっていなかった。よく分からぬことを口にするな、とも思ったが。
「男と女が口づけすることでは」
リリスがそう答えてくる。
「そうか、それが愛する事なのか」
「多分、そうだと思います」
自信なさそうにリリスが呟くようにそう言ったのを聞き逃さなかった。
「待て、ひょっとして愛の意味も知らないのか」
「わ、分かりますとも。仲睦まじくすることですよ、多分」
「多分ってなんだ、多分って」
「それ以上の事を聞いていないので、けれど仲睦まじくすることで合ってますよ」
「本当か?」
「本当ですとも。少なくともわたくしはそう思います」
「まあ、いい。で、具体的に仲睦まじくするとはどうするんだ?」
その問いにリリスは少し考えた後、
「あ、そうだ。私の寮の部屋が個室なのです。初めはとりあえず一緒に住むことからはじめませんか?」
「そうなのか、偶然だな。俺の部屋も個室だが。一番奥の」
と、言った所で、あっ、と言われた。
「どうした?」
「奥の部屋の人は大金持ちという事でしたが、ヴェル様でしたか」
「大金持ち?ああ・・・」
言われて山ほどあるシルバーを思い出す。しかし出処の分からぬシルバーだしな。
「大金持ちだとして、ここに入る時に全部使ってしまったからな。資金はないぞ」
「それに関しては大丈夫です。わたくしが持っております。1000シルバーですが」
「1000シルバーで何が出来るんだろうか」
思えば買い物などしたことがなかったのでシルバーの価値はよくわかっていなかった。
いや、一度だけあったか。果物を買うのに3シルバー。生活必需品を購入するには更にシルバーが必要そうなことから1000シルバーでは何となく足りない気がする。
「まずいな」
「何が、でございますか」
「いや、手元にシルバーがないことだ。シルバーを稼ぐあてを見つけなければ。おそらく1000シルバーでは足りないはずだ」
「無茶な買い物さえしなければ大丈夫だと思いますが。幸い寮ではシルバーを必要としませんし」
「まあ、待て。仲睦まじく暮らすための最低限のことを考えてみよう。御飯がいる、服がいる、住む所がいる、いつまでも寮で生活が出来るわけではないから今から準備する必要がある」
「それは、そうですが。家に帰ればもっとありますよ。ファフニル様も持っておられるかと」
と、言われ、しまった、と思う。
「あ、父の名前は出さないでほしい。理由は聞くな」
聞くな、というよりは分からなかった。何故そこまで隠すのか。
「分かりました。まあ、尋ねられて困る名前だとも思えませんが」
「そうなのか?」
思わず尋ねていた。
「ええ、ヴェル様のお父様は魔王軍参謀、軍師ですよ」
「んんん!?」
初耳だった。そもそもそれを何故リリスが知っている。
「わたくしもお父様からしか伺っておりませんが、そういうことらしいです。何故懇意にしているのかは分かりませんが」
「そうだったのか」
知らなかった。しかし自分の息子に隠す程なのだから、よほど聞かれたくない事情があるのかもしれない。
「まあ、この事は内密に」
「はい。けれどヴェル様はご立派ですね。お父様の力を借りずお金を稼ごうと言うのですね」
「あ、うん」
───頼れば良かったかもね。
そりゃ、シルバーのあてもあったかもしれない。
いやいや、今からそんなことでどうする!
「取り立てて今すべき事はシルバーを稼ぐこと、だ。だが自分が出来ることは限られているしな。薬草とか、売れないかな」
「本当に効き目があれば売れるかもしれませんよ」
「そうか、魔王軍には医学に精通している部隊でもあるのか?」
「医学?さあ、それは分かりませんが。所謂傷薬でございますよね」
「そうだ、傷薬だ。そういえば、君の手も豆だらけだったな。まずそれを治せそうな薬から調合してみるか。ちょっとこの森で薬草を探してくる」
そう言って、風の魔力を足に込め薬草がありそうな所を探しにいこうとする。
「あ、ちょっとヴェル様お待ち下さい!」
「ん、どうした?」
「わたくしも付いていってもよろしいでしょうか」
「リリスは、寮で待ってなさい。朝になるだろうし寝ていていい」
正直知識のない者を連れて歩いても仕方のないことだ。そう思い言うが、
「いえ、付いていきます」
「うーん、ドレスが汚れるかもしれないしな。やっぱり一度帰りなさい」
せっかくの美しいドレスが台無しだ。
「代わりの物もあります。ですから大丈夫です。荷物はまた後日届きますが」
どうすれば説得出来るのだろうか。
「わかった、今日のところは一緒に帰ろう。薬草は後日探しに行く」
説得は諦めて一緒に戻ることにした。
「分かりました。それで、部屋はどういたしますか?」
「どう、と言うと?」
「わたくしの部屋を使うか、ヴェル様の部屋を使うか、ですわ」
「お互い個室なんだから別々に使えばいいじゃないか」
「仲睦まじくするためには一緒に暮らす必要がございます」
「いやいや、個室にした意味が無いだろう。ゆっくり休める環境なのだからお互い別々に過ごすべきだ」
「そこまで仰られるなら。ただ、出来うる限り一緒にいること、これは約束です。愛し合う者同士常に一緒にいなければ」
「そうなのか?まあ、分かった。出来うる限り一緒、な」
「はい」
そう言って、寮まで戻る。人の気配はなかった。皆就寝しているのか、それとも部屋で過ごしているのかそこまでは分からなかったが、外にいる気配はしない。
静かに階段を上がり、寮の奥の部屋に行く。
「そういえば」
寮の廊下で別れようか、という時声をかけてくるリリス。
「どうした?」
「水浴びの時間も決まっていましたわね。まあ、川から流れてくる水なので実質井戸水と変わりませんが」
「そうなのか、まあ、明日入ればいいか」
「いえ、今なら誰もいませんし一緒に入ればよろしいのでは?」
「そうか、じゃあそうさせてもらおうかな」
その提案に乗ることにした。まあ、別に問題のある事でもあるまい。
「けれど少し恥ずかしいですね。ヴェル様に裸を見られるのは」
リリスが少し顔を赤らめて言うので、
「そうなのか?ならばやはり別々の時間で」
「いいえ、ご一緒に」
やけに真剣な声で言うので、少し戸惑ったが、
「そうか?ではお言葉に甘えて」
「寮の外に水浴び場はございます。では参りましょう」
「ああ」
言われるままに水浴び場まで行くのであった。
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