在りし日の絆
ゆめりん
序章 プロローグ1
それは、ある男の初陣の事。
その戦において、勝利は約束されていた。何故なら数にしてこちらは千。それに引き換え、敵は遠征の疲れもあり、二百。
数の利あって、地の利もあり。文字通り必勝に疑いの余地はない。
必勝の陣を引き、その先に立つはヴェラハルト、と言う男であった。
この男はある辺境の国の領主であった。度重なる重税に領民が我慢の限界を訴えてきたのだ。その領民の気持ちを汲み取り、剣を持ち立ち上がった。そう、今で言うところの正義の味方である。
彼を動かしたのは「義」の心、そして領民を思う心である。その優しき領主は、掲げる。我に正義あり、と。そして魔王軍に一人挑むことを決意する。魔王軍といえど辺境の名も知らぬ人物が赴任してきている今こそが勝機。
名も無き人物に後れは取らぬ。機先を制しまずは勝利を。そして周囲の領主達を味方に引き入れ、反・魔王軍を作り上げるのだ。ヴェラハルトはそこまで思いをめぐらせていた。
ヴェラハルトは馬上において剣を掲げ、後ろにいる兵士たちに大声を上げた。
「今回の戦は必勝なれど、油断はならず。敵は魔王軍なり!」
その声に呼応するように兵士たちが大きな声を上げ、戦場は独特の熱を帯びていく。この熱は果たして何から生まれるものなのか。
ヴェラハルトは思う。お前たちの気持ちが痛いほどよくわかる、と。重税に苦しみ、喘いで来、そして我慢の限界において発されたこの気運。これを分からずして、何故にお前たちの領主でいられようか、と。
熱い、お前たちが発し高まる士気が熱い。剣を握る手が少し汗ばむのをヴェラハルトは感じていた。そして同時に確信する勝利と明るい未来。
そんな期待を膨らましながら、ヴェラハルトは軍を進める。そして兵士たちがそれに続く。その足取りは当然軽かった。誰もが勝利を疑わないからだ。
対峙する敵は二百、その陣構えは立派なれど、ヴェラハルト軍から見ればとても小さなものに見えた。
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