赤い靴と運命の書

@kigumi_neko

第1話

昔々、ある少女が居ました。

彼女は奥様に買ってもらった赤い靴を大事にしていました。

ある日、少女は具合の悪い奥様を放って舞踏会に出かけました。

すると、少女の足にみるみるおかしなことがおこりました。

勝手気ままに踊り始めたのです。

畑も墓地も、いばらの道も通り越し。

来る日も来る日も彼女は助けを求めました。

ある時、役人に助けを求めた少女は、とうとう足を靴ごと斧で切り落として貰い、全ての罪を懺悔しました。

そして、教会に引き取られ、子どもたちと共に幸せに暮らしましたとさ。



エクスたち一行はある想区に辿り着きました。

そこは平和な雰囲気の漂う街。

エクスたちは久々にトラブルもなく、そこで過ごしていました。

そんなある日。

-街-

「なんだか今日はみんな忙しそうね、何かあるのかしら」

レイナが不思議そうに言いました。

確かに街の様子は騒々しく、たくさんの人がある方向に向かっていました。

「まさか、ヴィランが現れたから避難の準備、とかじゃねえよな。それだったら嫌だぞ、俺」

タオが不安そうに眉を寄せています。

「さすがにここでは介入っていう介入はしてないはずだよ。ヴィランは現れないと思うけど…。何かお祭りでもあるんじゃないかな」

エクスが言いました。

「そうだといいんだけどなあ…」

また、タオが不安げに呟きました。そのとき。

「新入りさん、当たりですよ」

パンをもぐもぐと食べながら、シェインが話に割り込んできました。

「シェイン!どこに行ってたの?」

レイナが問います。

「まあまあ、落ち着いてくださいよ、ほら、パン、みんなの分もありますよ」

と、シェインはどこから出してくるのかパンをぽんぽんと出してきます。

「おっ、美味そうじゃねえか!」

がっつくタオ、

「じゃあ、僕も」

続くエクス。

「ほらほら、いっぱい貰ってきましたから。『焼きすぎちゃったの〜』ってそこのおばさんから話を聞くついでに。こんなにあって食べきれるんですかね」

シェインがみんなにパンを勧めます。

「なら私も…、じゃない!そう、シェイン、エクスの言うことが当たり、っていうのは?」

見事なノリツッコミを決めたレイナ。ちなみに彼女もパンをひとつ貰い、もぐもぐと頬張っています。

「あ、そうそう。まあ、正しくは今日は聖餐式って言って、宗教がらみの儀式の日なんだそうです。パンを命にたとえて、ぶどう酒を血にたとえて分けるらしいですよ。その昔、宗教の教祖様?が処刑されることになり、その処刑前日に行われた晩餐の日に行われる儀式らしいです。どうです?けっこう聞き込みしたんですよ?」

シェインが解説をしている間にもみんなパンを熱心に食べ続けます。

「…って!聞いてるんですか!せっかく説明してるのに!」

「おう、聞いてる聞いてる。なんだっけ、パンに血を塗って神に差し出すんだっけか」

タオがもしゃもしゃとパンを頬張りながら言います。

「単語だけ入ってただけでも良しとします…。タオ兄はいつも何もかも間違えてるので…」

シェインが呆れながらため息を吐きました。

それを聞いてタオは少しむっとした顔になりました。

レイナは、シェインの言葉を聞くと、

「私は聞いてたわよ。…ねえ、ところで、どうせならもっと貰いにいけないかしら…?」

と、やや興奮気味にシェインに問いかけました。

シェインはそんなレイナに少々引いているようでした。

「レイナ…食い意地張りすぎだよ…」

エクスがレイナをなんとかシェインから剥がします。

「く、食い意地!?私がそんな、食い意地なんて…」

「説得力ないぞ、お嬢。まあ、でもお嬢の意見には賛成だな。パン美味いし。」

意地を張るレイナに鋭いツッコミを入れるタオ。しかし、二人とも考えていることは同じのようでした。

「わかりましたよ…。向こうの教会でいっぱい配っているようなので、行きましょう」

こうして、シェインを先頭に4人は教会へ向かうのでした。


-教会前-

「おおーっ、人いっぱいいるなあ」

タオが感心しながら人の列を見ます。

教会の前にはパンを貰う人の列が長く続いていて、なかなか中に入れそうにありませんでした。

「ほんとね、人が…、ん?待って、あれって…」

レイナがふと違和感に気がつきます。

「あそこ、列に紛れてるのって…、ヴィランじゃないの…?」

レイナの指差す方向には確かにヴィランの姿がありました。キョロキョロと、何かを探している様子です。

「なんでヴィランが…」

エクスも嫌な予感に鳥肌が立ちます。と、そのとき、

「ど、どいてくださいっ、通してくださいいいっ!!」

「うわあっ!?」

エクスが向こうからやってきた何かにぶつかり、突き飛ばされました。

「大丈夫ですか?新入りさん」

シェインが心配そうに、尻餅をついたエクスの顔を覗き込みます。

「僕は大丈夫だけど…」

と、ぶつかった『何か』に視線を移します。

そこには赤い靴を履いているのにもかかわらず、黒い靴を持った少女がいました。その間に、騒ぎに反応したのか、ヴィランがこちらへ近づいてきます。

「やああ、来ないで、来ないでええ!」

どうやら、少女はヴィランにその言葉を発しているようでした。

「まさか、ヴィランたち、この子を狙ってる…?」

レイナが素早く感付きます。

「よし、とりあえず行くぞ!ヴィランをぶっとばせ!」

タオが叫ぶと同時に4人はヒーローとコネクト。

戦闘態勢に入りました。


「これで大丈夫か?」

タオが言います。

「大丈夫です。この場にはもうヴィランはいません」

シェインが簡潔に報告します。

エクスは、先ほどの少女のもとに駆け寄りました。

「君、大丈夫だった?」

エクスが差し伸べた手を取り、少女はしっかりと頷きました。

「本当にありがとう…。おかげで助かったわ…」

少女はそう言うと、これまで我慢していたものを一斉に出すように、安堵のため息を吐きました。

「でも、なんでヴィランに追いかけられてたんだろう…」

エクスは考えていました。

「あ、それなのだけど…」

とだけ言うと、少女は俯きました。

「何かまずいことでもあるんですか?」

シェインが問います。

「…その、運命の書に書かれてないことをしようとしたからかな…って…」

「えっ!?」

4人の驚きの声に少女は驚き、ぺたん、と尻餅をつくのでした。

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