貰った恩はこう返せ

咲花 小春

第1話


いつからだろう。ひとりでご飯を食べることに何の抵抗も無くなったのは。東京に越してきた頃は、ひとりでご飯を食べることに抵抗があり、毎晩のように友達を誘って外食するのが当たり前だった。やがて、俺がしつこすぎたのか何かと理由をつけて断られるようになってしまった。徐々に都会の空気に置いていかれるような気がしてきて、同期達にも大層な差をつけられ、会社に行くのが億劫になった。そして、気づいたら自分から会社を辞めていた。あんなにひとりでご飯を食べることを嫌がっていた俺がコンビニで惣菜を買って、ひとりで家で食べることになんの抵抗も無くなった。なんの生活音もない、静寂な部屋の中で、テレビから聞こえる声だけが淡々と響いている。そんな毎日。


いつからだろう。ひとりでご飯を食べることになんの抵抗も無くなったのは。1人じゃ広すぎる家にひとりで住んでいる。両親は共に他界してしまった。35歳、独身。僕ひとりで住むには広すぎるのだ。昼間は会社にいるため、この家には夜寝るためだけに帰ってくる。今日だってまた残業で、夜更けまでに帰れる保証はない。掃除する暇も無ければ、してくれる人もいない。誰か僕の代わりに家のことをやってくれるお手伝いさんを雇おうか。金ならいくらでもある。僕1人じゃ当分使いきれないのだ。

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