track 26-第2ラウンド
「第2ラウンドねぇ、増えたのは2人、いや、彼らを送り込むためにもう1人、それでも8対4ってところか、数の利はまだ僕らにあるみたいだけど?」
wowakaが分析を相手にぶつける、EZFGはせっかくの仕込みが台無しだというような不快な表情で指を鳴らした。
「ナンダ、もう気付かれたんデスね」
若干片言の日本語を話す青年が彼らの後ろに現れた、以前も見かけたorangestarとかいうやつだ、街の一角が丸ごと地中に埋まっているはずなのに、辺りに朝焼けのような光が差しはじめた。
「アリス」
ドスン、と音がして彼の背後に巨大な冷凍庫が出現する、その上に座った少女はニコニコと笑いながらこちらを見ていた。
「此処を荒らす事は許さない」
日向電工がそう呟き両手を地面につけた。
「此処はもう、ジベタ様の聖域だ」
辺りが淡く光る、また例の文字が彼の周囲に浮かび、街を覆っていた壁に奇妙な生物の絵が浮かび上がり始めた。
「ようこそ、流転輪廻のダンスフロアへ、ジベタ様の奇跡を体感せよ」
彼の腕に真っ黒な何かが纏わり付き、何かを形成していく、同時に壁の模様が次第に形となり、何かがそこに姿を現し始めた。
「『バケモノダンスフロア』」
いくつかの影がEZFGたちの方へ飛ぶ、同時に腕に真っ黒な何かを纏った日向電工が彼ら目掛けて駆け出した。
「日向電工! 相手には重力を操るヤツも居る! 気をつけろ!」
wowakaの注意が届くも、日向電工の身体がフワリと浮き上がる、しかし彼の上には既にwowakaが敷いたラインが通っていて、日向電工のダッシュは続行された。
「エターナルフォースブリザード!」
バキバキと音を立てて氷の道が相手に向けて伸びる、氷でできたボードに乗ったさつき が てんこもりとれるりりが俺に向けて親指を立てた。
「それじゃ、お先に」
れるりりの言葉と共にボードが落ちるように滑り出す、おそらくさつき が てんこもりの『オリジナリティ』でコピーされた相手の異能だろう。
「wowaka! 俺の位置をずらせ!」
「言うと思った」
『ずれていく』に巻き込まれる時のあの感覚と共に奴らの目の前にワープする、金属バットの一撃を叩き込もうとするが、物凄く硬い何かに阻まれた。
「スマホカバー、最強の硬度で中身を護る」
EZFGの援軍のうちの1人の男が翳したスマホに金属バットがしっかりと止められていた、俺は反撃を警戒して一度飛び退く、最強の硬度って、限度があるだろ。
「ハンディスキャナー、何でもお手軽にスキャンができる……君、もう一つ異能を使っているね」
背後から冷気を感じる、振り向く間も無くバタンと扉が閉じる音がした。
「それは既に見た、残念だったな……だがどうやってそんなもので俺の異能を見破った?」
『マトリョシカ』を使い冷凍庫の狙いを逸らした俺は、冷凍庫の上から援軍の男に話しかけた。
「簡単な話だ、僕のガジェットは何でもできる、チートなのさ」
wowakaの『ラインアート』が冷凍庫を締め上げ、バキンと音を立てて歪ませた、俺を冷凍庫の上から引き摺り下ろそうと後ろに回り込んでいた少女が悲鳴をあげて消え、冷凍庫が端から形を失い始めた。
「そうか、だったらお前からだ」
ホームラン予告の如く、バットで相手を指し示す、援軍の男はニコニコと笑いながら小さな機械を取り出し掲げた。
「後ろか」
『ラインアート』の道から飛び出した日向電工が彼らの背後に着地し、纏わり付いた何かで爪が鋭く尖った掌を振りかぶる、しかし先ほどそれを予測されてしまったため、彼に向けていくつものボトルが発射される、EZFG自身の異能で限界まで膨れ上がったボトルの襲撃だ。
轟音が壁で囲まれた空間に満ちる、耳を押さえながらも氷のボードで飛んできたれるりりたちが槍を投げつける、爆発力が割り増しされた槍が今度は二本だ。
「どうせ効いてないんだろ」
爆発の中心へと飛び込み金属バットを思い切り振り抜く、確かな手応えと共に誰かが宙へと放り出された。
「飲めば絶対に狙いを外さない、水素水ってすごいね」
「飲んでみても、普通の水だったよ……『ウタハコ』」
援軍の男の周囲に箱のようなものが生成され、一瞬で閉じ込めた。
「くるりんごのパッケージ、一丁上がり」
「卓上プロジェクタ、短距離でも大きく投影できる」
「そう来ると思ってた」
箱に足を乗せた暴走Pが後ろの方の壁を見た、ドーム状の壁に張り付くように座る援軍の男がICレコーダーを彼らに向けた。
「録音、そして再生」
先ほどの轟音が全く同じように再生される、しかしその音は一瞬でかきけされた。
「『ゴチャゴチャうるせー!』」
「君にその重力は届かない」
糸が切れたかのように落下を始める援軍の男、彼の周囲にまたあの箱が現れ、その箱はそのまま瓦礫の中心へと落ちていった。
* * * * *
「Neru君!」
トーマさんが叫ぶ、しかし俺の身体の下には無情にも血だまりが広がっていくだけだった。
「愚かだよ、僕が何をするか想像してきっと焦ったんだ」
少年が鼻で笑いながら俺の身体へと歩み寄っていく。
「そんな愚かな仲間を失った君は不幸だ、幸福であることが義務の僕の世界に、そんな不幸な君は要らない」
少年がトーマさんを指差した。
「だから、幸福じゃないなら、死ね」
辺りに静寂が訪れる、何も起こらない。
「何故だ、幸福でないはずなのに、何故死なない」
「君が定義した不幸は、愚かな仲間を失ったことだったな、だからじゃないかな」
トーマさんが笑いながら言う、少年は理解不能といった表情をした。
「僕の仲間は愚かでもなく失われてもいない」
少年のすぐそばの俺の身体の指先が動き、棘を掴み、身体を持ち上げ始めた。
「「トラップに嵌ったのはお前だ、うたたP」」
俺とトーマさんの声が重なり、俺の身体がフワリと霧散した。
あの時、俺は『ハウトゥー世界征服』を発動したまま「今からお前を斬りに行く」と宣言した、異能者を相手にこの異能を使うのは初めてだったが相手は上手く掛かってくれたらしく、少年の眼には普通に歩いて少年の元に向かう俺の様子が映っていたということだ、少年がデストラップに嵌めたのは、彼の頭の中だけの俺だったということだ。
「残念だったな、殺せなくて」
少年の背後で刀を振りかぶる、ガキンと金属が擦れる音がしてうたたPが屋上の縁の方へと転がった、間一髪で防御されてしまったようだ。
「あーあ、コレを防御に使う日が来るなんて、こんなに腹が立ったのは初めてだ、君たちは運がいい」
大きな切り傷が付いたギロチンの刃をその場に落としながらうたたPが起き上がる、俺の刀は刃こぼれしてしまって使い物にならなくなっていた。
「運がいいのか、そりゃ結構なことだ」
「そうだ、運がいい、この僕にゆっくりと処刑されるんだからな」
少年の周りに、ドス黒い影が広がっていった。
「第2ラウンドってところか、Neru君、気を抜かないようにね」
トーマさんが『バビロン』を発動しながら、いつになく真剣な声色で言った。
* * * * *
「じゃあ何だ、俺が信じて作ろうとしてきた「異能者の住みやすい世界」ってのは、こんな地獄みたいなものだってのか?」
いくつもの凶器を模った影が暴れる屋上を写す空撮映像、その周囲は度重なる爆発で火に包まれた商業ビルで囲まれていて、まるで世紀末のようになっていた。
目を覚ましたささくれさんたちが取り押さえられて出てきたじんさんは、テレビを見せられながらDECOさんの説明を受けて、愕然とした表情をした。
「どうやら、wowaka君のあの異能に眠らされた時に、うたたP君の異能も解除されたんだろう、じん君も一度あの影に殺された事があるんじゃないのかな」
ささくれさんがあくびをしながら答えた、ATOLSさんたちが戦っている時に起きたじんさんが混乱してぶつかった先にささくれさんが居たらしく、ベッドから落ちて最悪の寝起きを迎えていたようだ、それにしても昨日も一番早く寝て一番遅く起きたのに、よく寝る人だ。
「僕らの仲間があそこで戦っているみたいだ、君も手伝ってくれるかな?」
じんさんの頭の上に座るカフェオレのような生物が、彼の頭をペチペチと叩いた。
「あの最悪の『幸福』に、一泡吹かせようじゃないか」
そう言ってささくれさんはニヤリと笑った。
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日向電工
異能
10-バケモノダンスフロア:『アンダワ』で作られた地下空間でのみ有効、さらに自身が持つ異能をある特定の順序で使った後でないと発動できない異能。 地底人(ジベタ様)の力を借りて自身の能力を高める、また、召喚した地底人(ジベタ様)を自由に動かせるため、相手を拘束したりトラップを仕込んだりすることも可能だが、本人はあまり地底人(ジベタ様)に命令したがらないため、自身の強化がメインになっている。
くるりんご
自称さみしい人、素性は不明だが、誰かによく似ている。
異能
1-ガジェットチート!:自身が持つガジェットの機能を過大解釈して最強のガジェットを作り出す異能、電子機器やその周辺のツールもガジェットと定義しているため、スマホカバーや充電器なども対象になる。(作中でチート化したガジェット:スマホカバー/ハンディスキャナー/360度カメラ/卓上プロジェクタ/ICレコーダー)
cosMo@暴走P
異能
4-ウタハコ:相手をパッケージに閉じ込める異能、自力での脱出は不可能。
5-終点:範囲指定を必要とする異能に干渉する異能、範囲の「終点」を決め、そこから先に及ぶ異能の力を打ち切ることができる。
うたたP
異能
2(追加情報)-影から作り出された様々な処刑道具で相手を処刑する異能、この異能に処刑されても死なないが、異能者本人が掲げる「幸福」に対して疑問を持たなくなり、異能者に従うようになる。
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