track 22-正体不明

「あーらら、一本無駄にしちゃった」


壁に突き刺さった鉄パイプを眺める男、どこかで見たことがある気がする。


「落ちていく鉄パイプを引きつける程の磁力まで作れるなんて、水素水はすごいね」


思い出した、あの時はヘルメットを被っていたからすぐに気付けなかったが、俺はあの人に一度会っていた。


「君はあの時の、異能酔いは大丈夫だった?」


彼は、オワタPは猫耳のような癖毛を揺らし、こちらに視線を移した。


「珍しいじゃないですか、暴走P、あなたがこんな場所に顔を出すなんて」

「こんな時代だ、居場所を守るためなら多少力づくなこともしなくちゃいけないでしょ。 彼らがチカラをつけたらいよいよ僕たち異能者は終わりだ」


DECOさんの呼びかけに答えながら虚空からペイントローラーのようなものを取り出す「暴走P」と呼ばれた男。

先端が黄色と黒で塗り分けられたそのローラーはあのMVで見たアイテムそのものだった。


「そこのバケモノも、そこの連中も、ヒトから盗んだモノを振りかざして、あろうことか僕らオリジナルに牙を剥こうとしている」


ローラーを使いヘッドギア男や刀を持った戦闘員を指す暴走P、ヘッドギア男は新たに器具を取り出して首に押し当てる。


「させるか!」


無数のボトルが飛び雷のような閃光が走る。

しかし遅かったのかヘッドギア男の周りの空間に無数の穴が空き、ボトルがデタラメな方向に飛びまくった。


「なるほど、あの薬物で異能を無理やり起動しているということか」


オワタPが興味深そうに言い、手を男に向けて翳した。


『霊喰永夢』


男の動きがピタリと止まる、いや、それより──


「異能が戻ってます! 今なら──」


俺の言葉を聞くや否やピノキオピーが駆け出す、その先に40mPの『キリトリセン』の穴が開き、ピノキオピーがヘッドギア男の背後に現れた。


『からっぽのまにまに』


からん、と音がして再びピノキオピーの姿が消える。

ピノキオピーがこちらに戻ってくると同時に上空からヘッドギア男目掛けて無数の岩が降ってきた。


「ラクガキストか、完全に殺しにきてるね……僕も巻き込まれちゃうところだった」

「ピノキオピーさん、あの容器は」

「全部じゃないけど、いくつか空っぽにした」


『スレッドネイション』

『サイバーサンダーサイダー』


細いワイヤーが岩を押さえつけ、無数のボトルが岩を粉砕する。


『初音ミクの消///』


再び異能の表示が見えなくなる、同時にガスの抜けるような音がして土煙の中から何かが飛び出した。


「待て!」


EZFGさんが『スレッドネイション』の糸の上を走りながら追う、建物の上に立つ2人の元へ飛びかかったヘッドギア男が今度は刀身の長い刀を取り出した。


「やっぱりロストワンの号哭です、って事はあの人たちも!」


後ろでNeru少年が叫ぶ先ほどの戦闘兵が持っていた刀も異能由来のものだということだ。


「効かないよ」

「上塗り!」


黄色と黒の壁が出現すると同時に、ヘッドギア男の足が真っ黒な空間で塗り固められる。


「ニセモノに負けてられるか」


EZFGさんが言うと同時に、彼を掠めたヘッドギア男の刀が文字のようなオブジェクトとなってパラパラと崩れ去る、跳躍して足場代わりに着地した暴走Pが作った壁も、触れると同時に端から文字になって崩れていった。


「面倒な異能だな」


オワタPがリボルバー式の拳銃を取り出し、ヘッドギア男に向ける。


「そいつは僕らが片付ける」


オワタPが引き金を引く、拳銃は乾いた音を出すだけで何も起こらなかった。


「余計な事をするな!」


EZFGさんがオワタPの拳銃を叩き、文字の塊にして崩してしまう、オワタPは心底面倒そうな顔をして一歩下がった。


「これ以上暴れられたら、修復も面倒なんだよ」

「こっちの目的はこの研究所の成果とシステムを全て破壊すること、じんさんを助けたい君にとっても、それはすごく都合のいいことだと思うけどなぁ」


再び取り出した拳銃をヘッドギア男に向けるオワタP、それを睨みつけたEZFGさんが口を開いた。


「まるでじんさんの居場所を知っているかのような口ぶりだな」

「知っているさ、なぜなら……」


オワタPが指を鳴らす、辺りを包んでいた謎の感覚が消え去り、また文字列が見え始めた。


『架空の有名P』


「こうして『消失』を解除している合間を縫って、建物の内部を探してくれていたからね……そして、彼の居場所は」


オワタPがこちらを指差す、同時にすぐ隣にナユタン星人さんがワープをしてきた、隣にはじんさんを背中に担いだささくれさんが居る。


「ナユタン君、どういうつもりだ?」

「事情はいずれ説明します、今はそいつをどうにかするべきでは」


『複製:ワー//※■ワ×プ』


ガスが抜ける音と同時にノイズが混じった異能が視える、ヘッドギア男の姿は「上塗り」の直上から消え、俺たちの遥か前の地面に移動していた。


『複製:ジ─』


異能の名前が表示されきる前に、グラリと目眩が襲う、異能酔いだ。

地面に膝をついた俺の目の前にヘッドギア男が現れる、まずい──


「間に合って良かった」


突然現れて、灰色の線でヘッドギア男を拘束したwowakaさんが笑った。


「wowakaさん、どうして──」


俺の問いかけを無視してwowakaさんは辺りを見渡して深く息を吐いた。


「ドンパチは終わりだ」


彼の頭上に不思議な模様のハート形のオブジェクトが現れる、見たこともない異能だ。


「全員──」


ハートの一角が欠ける、辺りに一瞬の静寂が訪れた。


「眠れ」


辺りを包み込む大音響、高音と低音が混ざり合い、すべてを搔き消すような音、事態を把握しようとするが、強烈な眠気に襲われる、意識が遠のく。


落ちるような感覚の中、俺が最後に見たものは、身体が溶けるように形を失っていく、ヘッドギア男の姿だった。


* * * * *


「相変わらず、デタラメな威力だな」


メガネの青年の背後に現れた長身の男が言った、小脇に同じく大柄な男を抱えている、気を失っているようだ。


「僕自身ですら異能の影響を受けるのに、それでも何事もない君も、そこにいる君たちも、十分デタラメだと思うよ」


建物の上を見る青年、その視線の先には、口元を押さえた仮面の男が立っていた。


「異能を食いちぎられるなんて初めてのことだよ」

「こっちこそ、一口で限界が来るほど味の強い異能は初めてだよ」

「ゴチャゴチャうるせーで打ち消せなかった音の異能も初めてだ、異能が食べられた範囲の内側にいて運が良かった」


長身の男が、片手に持ったバットを男たちに向けて睨みを効かせた。


「アンタ等が消したがってたモノはもう消した、もうここに居る理由は無いだろうけど、まだ暴れるつもりなら俺が相手をする」


先ほどまで仲間のために暴れまくっていた男が隣で死んだように眠っているのを見下ろして、猫耳のような癖毛を揺らした青年がため息をついた。


「異能のデータが無くなったなら確かにもう用は無いね、帰るとするか」

「がるなん、一緒に来ていいって言った条件、忘れてないよね?」

「アレやると仕事減るから嫌なんだけど」


仮面の男に、睨まれる、青年はため息をついて手を目の前に翳した。


「『大丈夫だ、問題ない。』」


辺りに散らばった瓦礫が空を飛び、パズルを組み立てるかの如く建物や塀の形を取り戻していく、十数秒もすれば辺りはそのまま元通りになっていた。


「俺らも帰るか」

「そうだね、にしてもハチ君、今回は随分と大きな拾い物だね、本当にその人も異能者なの?」

「俺がコイツを見たとき、コイツの周りに牢屋の扉がいくつも浮いていた」

「それは異能者で間違い無いかもな」


全てが何事も無かったかのように片付いたその空間から、4人の男が姿を消した。


───────────────

オワタP

異能

2-すごいぞ!水素水:手持ちの水素水の効能をでっちあげるとそれが全て本物になる、ボトル一本につき1つの効能を付与できる、持ち歩くには不便。


3-霊喰永夢:過去の出来事を任意で消し去ることができる、動いたという出来事を消し去れば少しの間だけ動きを止められる。


4-ロシアンルーレット:生死を賭けたロシアンルーレット対決を強要する異能、弾が一発だけこめられたリボルバー銃が出現し、順番に撃つが、後は逃げればどうなるか覚悟してもらうだけ。


5-架空の有名P:自分で考えた設定を付与した人型の異能生物を召喚して自在に動かすことができる、自律思考をさせることもできるので、潜入捜査なども可能。


6-大丈夫だ、問題ない。:怪我や物品の損傷、建物の損壊などの状況を任意で巻き戻すことができる。 本人としてはあまり使いたくないらしい。


cosMo@暴走P

ハイテンポな曲が人気のボカロP、リズムゲーム等でボス曲を担当することもしばしば。


異能

1-ラクガキスト:先端が黄色と黒で塗り分けられたペイントローラーを召喚する、空中に壁を作ったり描いたものを召喚したりできる。


2-初音ミクの消失:中規模の範囲から「初音ミク」が歌う楽曲を元にした異能を完全に停止させる異能、もちろん味方も巻き込むため、作戦に「初音ミク」の楽曲を使った異能が織り込まれてる場合は断続的に使う必要がある。


3-sadistic. Music∞Factory:周囲の異能を無尽蔵に食べ続ける異能、食べた異能を取り込むなどという効果は持っていないが、攻撃だろうとなんだろうと無効化することができる。


EZFG

異能

5-magician's operation:触れた異能を文字にして分解させる異能。[operation]モードに切り替えると相手の異能を無理やり操作する事ができるが、激しい焦燥感に襲われるためよほどの事がない限り使われることはない。


ピノキオピー

異能

6-からっぽのまにまに:容器等に触れて音を出すとその容器の中身を空っぽにすることができる、音さえ出せればどんな容器でも対象になる。


wowaka

異能

5-アンノウン・マザーグース:巨大なハート形のオブジェクトを出現させる。「眠れ」と言うとハートの一部のパーツが欠け、周囲に超大音量のノイズを撒き散らす。

音の聞こえる範囲にいる全てのモノが眠りにつく、生物なら眠り、機械ならシャットダウンする。なお、本人にも効果はあるが、効果を無理やり跳ね除けている。

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