track 20-エイリアン

アスファルトに落ちたナイフから火花が散る、火花はすぐには消えずその場に止まり、ジワリとその光を広げた。


「出番だよ」


僕の言葉に呼応するように光は輝く結晶のような塊になり、パキパキと音を立てながら大きくなる、炎のような暖かい光に辺りが包まれ、その結晶は次第に鳥のような形を形成していく。


「……行け!」


周囲の蔦が炎に包まれる、僕の異能で生まれた炎の鳥が辺りを焼きながら飛び回っているのだ。


「安心して、敵意の無いモノに火は点かない、君らが僕に手を出さなければ君らは護られる」


背後で震える男たちにそう告げると、僕は炎でできたトンネルへと足を踏み出した。


* * * * *


「君の『想像フォレスト』じゃ僕を石にする事はできない」


手の中で数枚の1万円札がチリになり、虚空からサングラスが出現する、思ったより高い消費だ。


「何故そんな連中に加担する、アイツらは異能を持っている人間を片っ端から狩っているんだぞ!」

「平和主義なものでして」


先に出しておいた拳銃を抜き、じんの方へと向ける。


「黙れ……!」


頭を押さえて苦しそうに言う、視界の端で植物の塊が炎に包まれるのを確認した俺は彼の無事を確認して一歩前へと踏み出す。


「痛むのか、異能の暴走だな」

「黙れ! 黙れ黙れ!!!」


キィンと高い音が響き空を切る音が迫る、飛び退くと同時に地面にいくつもの鉄柱が突き刺さり、地面を抉った。


「話し合いの余地無しってとこか」


銃声と共にじんの動きが止まる、数秒の沈黙の後、じんはその場へと倒れ込んだ。


「絶対に傷つけないけど確実に相手の動きを止める拳銃だよ、ここまで便利な妄想となると妄想税も中々高くなるよね」


俺は少し声を張って言う、近くで『ネコソギマターバップ』を使って身を潜めていたささくれさんが姿を表してじんの方へと歩み寄った。


「カゲロウデイズもこれで止まるのかな」

「さぁ、何せ暴走してるからね」


空を見上げると、ジワジワとこちらを照らしていた夏のような青空が少しずつ崩れていくのが見て取れた。


「とりあえず終わったみたいだね、それじゃあじん君を──」


同じく上を眺めていたささくれさんが先ほどまでじんが倒れていた辺りに視線を戻す、しかしそこには誰も居ないただの地面があるのみだった。


「どこ行ったんだ……?」


カゲロウデイズの空間が消え、ゆっくりと元の夕暮れの風景を取り戻す街に、ささくれさんの不思議そうな声が虚しく響いた。


* * * * *


「orangestar君の仕業だろうねぇ」


いつの間にか後ろを歩いていたATOLSさんが感心したように言った。


「そうだね、アスノヨゾラ哨戒班の応用だと思う」


それに返すささくれさんも冷静だ。


「で、ナユタン星人くんを連れて来て、何の用事かな?」

「いや、ちょっとナユタン君とそこのバックフジ君を会わせたくてね」


隣に立っていたナユタン星人さんをグイと押し出し俺の前に立たせる、ATOLSさんは興味のこもった声で俺に問いかけた。


「このナユタン君を見て、何か違和感は感じないか?」

「違和感?」

「そうだな、例えば、今まで見えていたものが見えなかったりとか」


そう言われて少しナユタン星人さんを観察する、本人はウンザリしたように目を逸らし、その場に立っていた。


「なんか……いつもより見易い……?」

「やっぱり、思った通りだ」


先を歩いていたささくれさんたちが怪訝な目線を送る、ATOLSさんはナユタン星人さんの肩に手を置いて声のトーンを低くして言った。


「君、ナユタン星人じゃないよね?」


数瞬の沈黙、ナユタン星人さんはその場でため息をつきフラリと前へと出た。

身構えるささくれさんたち、ATOLSさんはそのまま彼を見つめる。


「バックフジ君が『見易くなった』と言っていたのは、彼を覆っていたノイズが晴れたということ、発動している異能を見分けることのできるバックフジ君が何も見えなくなったと言うことは、彼は異能を発動していないということを意味するんだ」

「……じゃあ、この人は何者だと言うんだい……?」


ATOLSさんの推理に対してささくれさんが問いかける、ATOLSさんはニヤリと笑って続ける。


「紛れもなく、ナユタン星人さんだろうね」

「そうだよ、当たり前じゃないか」


そうか、異能か、と40mPが呟く、それに対してナユタン星人さんは悔しそうな表情を浮かべた。


「気付かれちゃしょうがないね、そうさ、僕は君らの知っているナユタン星人じゃない」

「何の目的で潜入した」

「勘違いしないでくれ、僕はスパイみたいな頭のいいことはできない、そういう事はアイツの担当だ、エイリアンの頭脳には勝てないよ」


深く息を吐き、彼は指で拳銃のような形を作りそれを自らのこめかみに当てた。


「君らの知っているナユタン星人はここにいる、アレは僕の異能『エイリアンエイリアン』で作り出された、もう1つの人格だ」


指をスッと下ろし、彼は廊下の壁によりかかりその場に座り込んだ。


「奴と会話できるようになって、僕は異能のことやら何やらを色々聞いた、だけどそれは僕自身のタチの悪い妄想だと思ってたんだ、けどある日自宅を異能対策部隊に襲撃されてね、そこから記憶が飛んで気が付いてみれば僕の身体を動かしていたのは奴だったんだ、奴は僕の身体の安全の為に全力を尽くしてくれていたが、どうもあの派閥の主義と僕の主義が合わなくてね、あの瞬間異能キャンセラーで奴の意識が眠って、チャンスだと思ったんだ」


ナユタン星人さんはある程度話して、そのままこちらを見ずに指だけを俺の方へと向けた。


「『ナユタン星人』がいつだったか言っていた、異能を持つ者と持たざる者の戦いは繰り返す歴史の中で度々起こっている、それを終わらせるのはいつも両者の間に立つ人間だと、それが今回は君なんじゃないかと」


視線が集まるのを痛いほど感じる、何なんだ、終わらせる人間? 俺に何ができるって言うんだ。


「僕はこの無益な争いを終わらせたくてここに来た、音楽は人を傷つけるものであってはいけないんだ」


次第にナユタン星人さんがグッタリしていくのが感じ取れる、これはマズいと思った矢先、彼の頭に生えていた触覚のようなものがピクリと動いた。


「まったくその通りですね、異能者同士で争っている場合じゃない」


彼の周囲に一瞬だけノイズが走り『エイリアンエイリアン』という文字が浮かび上がってフワリと溶けた。


「異能が……!」


俺の言葉に再びささくれさんたちが構える、しかしナユタン星人さんはスッと立ち上がってこちらに黙ったまま歩み寄った。


「『僕』がそう言うならボクは従うしかないです、もうあなたたちに対する敵意はありません」

「バックフジ君が戦いを終わらせる鍵だって話、何の根拠があるんだい?」


ATOLSさんに問いかけられ、彼はそっちの方を向いた。


「世界にはその動きを外から見守る存在があります、所謂高次元の存在です、ボクは異能で作り出された人格にすぎないのですが、異能の効果であなたたちより数段上の知覚を持っています、感じ取れるのですよ、高次元の存在が」


まさにエイリアンってところだねとささくれさんが呟く、そんなまさか……と返す40mPも半信半疑の様子だ。


「『僕』もだいぶ力を取り戻してきたようですし、ボクは彼に身体の主導権を返そうと思います、また必要があれば出て来ますので、これからもよろしくお願いします」


そう言ってナユタン星人さんはその場にドサリと倒れる、彼が起き上がるまでの十数秒、俺たちの間にはなんとも言えない沈黙が流れていた。


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ナユタン星人

異能

5-エイリアンエイリアン:自身の中に高度な知能を持ったもう1つの人格を形成する異能、異星人としてナユタン星人を名乗っているのは基本的にこちらの人格。

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