track 01-異能社会

system message-名無しさんが入室しました

〈名無しさん〉

こんな過疎チャットによく入ろうと思ったな


〈名無しさん〉

クリエイター失踪事件に興味がありまして


〈名無しさん〉

でもここでの話題ってボカロPが次々に引退したり消息を絶ったりしてるって話だぞ?


〈名無しさん〉

それです!詳しく聞かせてもらえますか?


〈名無しさん〉

アレだろ?異能ってやつが出ちゃったから連れてかれちゃったんだろ?


〈名無しさん〉

出たよww


〈名無しさん〉

日本政府の異能差別は闇深すぎてほんと怖い


〈名無しさん〉

system message-この書き込みは規制されました


system message-名無しさんが退室しました

system message-名無しさんが退室しました

system message-名無しさんが退室しました


〈名無しさん〉

どうしたんですか急に


〈名無しさん〉

分からん、例の異能管理局に消されたんじゃね?ww


system message-名無しさんが退室しました

system message-名無しさんが退室しました


────────────────────────────────────

マンションの一室だろうか、やけに整った部屋だ。


歪んだ視界が元に戻った時にはそんな見知らぬ部屋にたどり着いていた。


「ようこそ、君がバックフジ君か、変わったユーザーネームだね」


椅子に座った男がクルリとこちらを向いた、大人しそうなインテリ系の青年だ。


「本当にランキング外のPが必要なのか?言っちゃ悪いけど異能なんて持ってなさそうだぞ」

「まぁまぁじん君、ランキング外からこの世界を眺めてる人だからこその異能なんてのもあるんだからさ」


そう言って男は立ち上がり、窓の方へと歩く。

湯気が立ち上るマグカップに口をつけ、中身を一気に飲み干した。

ゆっくりと回りを見渡す、冷蔵庫の前に箱買いしたであろうジュースが積んである、あれは……サイダー…?


「あの、確かじんさんでしたっけ……? あなた本当にあのボカロPのじんさんなんですか? それにそっちの人はナユタン星人さんですよね、どっちとも少し前から失踪してるって噂だったんですけど…」


俺の質問に対して全員が黙り込む、その中でナユタン星人さんがサイダーを開封する音だけが空しく響いた。


「君、異能については知ってる?」


1分ほどの沈黙を破ったのは最初から部屋に居た男だった。


「噂程度に聞いたぐらいです、実際テレビとかでも異能者が暴れてる様子を見てますけど…調べようとしても情報が少ないんで詳しくは知らないです」


男が俺の回答に対して何かを返そうと口を開きかけた時だった、先ほどまで男が触っていたPCが警告音のような音を短く鳴らす、それを聞いた男は深くため息をついた。


「すまないが、話は後になるようだ」


ワンテンポ遅れて玄関の方で爆音が轟く、衝撃と共に薄暗かった玄関に土煙と共に光が差した。


「異能者4名の反応を検知、うち3名は指定危険異能の保持者であることを確認、確保に移ります」


土煙の中に立つ影が無線機のような物に向かって話す声が聞こえた。

……4名!? なぜ俺までカウントされているんだ!?

疑問の答えを探す余地も無く次の衝撃が襲い来る、今度は窓側が爆破された、先ほどまで窓際に立っていた男はノートPCを抱えて窓から離れたソファの辺りへと避難していた。

さらに間髪入れずに部屋に8名ほどの特殊部隊のような格好の集団がなだれ込んだ。


「動くな、ユーザー名じん、ナユタン星人、そしてEZFGだな、お前らは国民の安全な生活を脅かす異能保持者として指定されている、そこのユーザー名バックフジにも軽度の危険異能の反応が出ている、同行してもらおう」


先頭の男が宣言する、またもや聞いたことのある名前が出てきて驚きのあまり乱入者たちから目を逸らしソファーの前でノートPCを抱えている男に視線を移してしまった。


「バレちゃしょうがないね……上塗り」


EZFGと呼ばれた男が銃を構える乱入者へ向けて手を翳し、横へ振る。

すると銃を構える手の辺りに真っ黒な線のようなものが浮かび上がり、乱入者たちの手首から先を塗り潰していった。

突然の出来事に特殊部隊の面々が慌てる、リーダー格の男が落ち着けと叫びながらも自分の手の線を拭おうと必死になっていた。


「……ブラフライアー…?」


頭の中に唐突に言葉が浮かんだ、先ほど謎のワープに巻き込まれた時も同じような感じで「ハウトゥワープ」という言葉が浮かんだ、さっきから何なんだこれは。


「やはり君は『観測者(オブザーバー)』だったか、とりあえずこの問題を片付けよう……消し去り」


何とも言えない不快な感情に襲われ、目の前の空間が一瞬だけ歪む、その直後、特殊部隊の手首から先を塗り潰していた線が一瞬で消滅した。

しかも塗り潰されていた手首や銃も一緒に消えているようだ。

手首から先を一瞬で切断された部隊のメンバーたちはあまりもの痛み故か断末魔のような悲鳴を上げる、血は流れていないようだがリーダー格の男ですらもその場にうずくまっていた。


「じん君、ナユタン君、バックフジ君、ここから逃げよう」


既にナユタン星人さんの肩に手を乗せたEZFGさんがこちらに手を伸ばす、しかし今までに感じた事のない恐怖感に俺は反射的にその手から逃げるように後ずさってしまった。


「あーあ、嫌われちゃったみたいだね、だからこの能力は嫌いなんだ」


空しく宙を掻いただけの手のひらを眺めながらEZFGさんが悲しげに言った。


「またどこかで会おう、一旦お別れだ」


そう言うと3人は虚空に吸い込まれるかのように消え去ってしまった。

それを眺めて呆然と立ち尽くしていると、背中に鋭い痛みが走る、抗う間もなく、俺はその場に倒れこんだ。


「危険異能者3名の逃亡を確認、異能保持者1名を確保しました」


右手にスタンガンを持った男が無線機に向けて報告をし、うずくまる8人の部隊を見下ろした。


「異能者め…好き勝手しやがって……」


男はそう吐き捨て、メチャクチャになった部屋を後にした。


────────────────────────────────────

EZFG

手の込んだPVで有名なボカロP、本作では多分頭脳枠。

異能

1-ブラフライアー:様々なものを「上塗り」「消し去り」することができる能力。ただ使うと周りの人間に嫌われる事がある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る