スペースウォーリアー短編集

パンプキンヘッド

古き力の伝説

「これは……騎士?」


 私は息を飲んでそれを見つめた。

 私の知っている限り、それはまるで古代に活躍した騎士の姿に他ならなかった。

 全身を怪しい輝きを放つ白金色の金属製の装甲で覆われ、背中には、風がないにもかかわらず、まるでなにかの生き物のようにはためいている緋色のマント。

 頭頂部には鳥の尾のように柔らかくたなびく羽飾りを立て、面貌を鉄仮面で覆われたそれは、私が子供の時分に母が子守歌代わりに語って聞かせてくれた古代に戦いを演じた騎士の姿に他ならなかった。


「しかし……」


 そう。しかし、だ。

 それは私の知っている騎士のそれとは大きくかけ離れた部分があった。


 全高にして4mはあろうかというそれは、私の知る騎士の大きさとは大きくかけ離れていた。


『これは誰が着ているのだ?』


 私は疑問を抱かずにはいられなかった。

 私の知る限り、全高4mを超える人種は存在しない。

 あの巨人族であるギガースでさえ、全高は3m前後のはずだ。

 そして、それは私の疑問に答えるように、私のほうに一歩足を踏み出した。

 重々しい金属製の響きを放つ足音は、決して軽快さはなく、むしろその装甲の重さを誇示するかのように、私の心に深く響き渡った。

 一歩。そして、また一歩。

 それは徐々に私のほうに歩いてきた。私が呆然と見上げているのをまるで楽しむかのように。

 一瞬私の心に恐怖の感情が沸き起こり、そして、この場から去りたい衝動に駆られ咄嗟に数歩後ずさった。

「おい、お客人が怖がっているだろう。もういい、その鎧を解いてみな!」

 私の後ろに控えていた男  名前をシエルドという商人だが  は、その騎士のようなものに向かって笑い声を滲ませながら叫んだ。

 すると騎士は動きを止め、そして一瞬激しく光ると、その姿は眩い光の粒子となって霧散した。

 後には、荒い息をつき片膝をついた少年の姿があった。


 私がこの騎士との対面のために惑星クースクを訪れたのには理由があった。

 私の専攻は考古学だった。その中でも、かつてこのオルタナス銀河に栄えたとされるバヤータ文明に関しての研究を専門としており、それに関しての博士号も取得していた。

 それは私がまだ十代半ばの頃のことだ。

 私は街中の古物屋を巡るのを趣味としていた。古物といっても、武具や防具などの類で、その精巧さに子供ながら心惹かれていたのだ。

 そしてとある古物屋で一つの古物を見出した。

 それは湾曲した刀身を持ち、持ち手の部分には奇妙で精巧な細工物が施された剣だった。

 刀身を鞘から出して見せてもらうと、普通の金属とは違う、光の当たり方でまるで七色の輝きに変化するような色彩を放ち、それは私の心を深く魅了した。

 私は店主にこの剣のことについて聞いてみた。

 店主は答えた。

「それはバヤータ文明の遺産だよ。知ってるか? バヤータ文明。かつてこのオルタナス銀河で栄えた文明さ」

 私はバヤータ文明に興味を抱き、店主を質問攻めにしてみせた。

 どんな文明だったのか、いつから興っていたのか、そして、何故滅んだのか。

 だが店主は私の質問に答えるほどの知識は持ち合わせておらず、私は落胆する結果になった。

 しかし店主は、

「なんならその剣、手に入れておいてもいいんじゃないか? そんなにバヤータ文明のことが知りたいのなら、それくらいの遺産を手に入れておかないと、調べるにしてもわからないことだらけだろう。安くしとくよ」

 私はこの店主の言葉にも一理あると考え、剣の値段を聞いてみた。

 それは子供の小遣いで買える額ではなかったが、幸い私の貯金を使えば払えそうな額だった。

 そして私はその剣を手に入れると、それ以後バヤータ文明について調べられるだけ調べようと奔走した。


 大学は古代史や考古学を専攻し、そのための文献を幾つも紐解いた。

 遺跡や遺産の話を聞けば、他の惑星でも飛んで行った。

 そして、私がバヤータ文明の遺産の剣と出会ってから二十年を越えようとしていた時、一つの噂話が私の耳に飛び込んできた。


 惑星クースク。


 オルタナス銀河を二分する勢力である、ダルシア銀河帝国とゾディアック神聖教国の中間に位置する星団国家、トリープ連合国家の中に存在する小さな星系の中の惑星の大陸に、どうにも普通では考えられないものが存在している、というのだ。

 それは全高4mほどの鎧で、どういった人種が着けていたのかは謎だが、着用することができ、またその力を得たものは、様々な力を発揮するのだという。

 これだけ聞けば、よくある与太話、都市伝説の域を出ないが、私の興味を惹いたのはもう一つの文献によるものからだった。

 その文献には、バヤータ文明時代の研究施設と実験的戦場に関する記述が記されており、その中で、惑星クースクの位置座標と、そしてその大陸の名前、フェルドミナ大陸を指すであろう大陸の存在が記されており、そこで行われていた兵器の実験とその顛末が描かれていた。

 兵器はどうやら様々な種類に及ぶが、特に鎧の開発に重点が置かれていたようだった。

 それは人を遥かに凌ぐ大きさを誇り、そして様々な特殊な力を駆使し、敵を排除する様が描かれていた。

 また、同時に目標物である生物兵器の開発についても記されており、その生物兵器が実験という名目で大陸各地に放たれ、そして兵器の実用試験という形で生物兵器と鎧達が戦いを演じたことも描かれていた。

 それはまさに、現在の惑星クースクの状況にも即していた。

 惑星クースクは他の星系同様、外宇宙の文明と連絡を持ち、様々な技術的、文化的交流を持っているが、このフェルドミナ大陸はその生態系の危険性を指摘され、外部からの接触はかなり限定的な状態に置かれていたのだ。

 そのため技術レベルはさほど高くなく、産業革命程度の技術程度しか有しておらず、そのせいで怪物と呼ばれる生物たちとの戦いにおいても、決して楽なものではないということは耳にしていた。

 その中で囁かれる巨大な鎧の噂。

 その時私は、ある種の確信を抱き、旅支度をはじめた。

 

 私の勤める大学がある惑星トリープから惑星クースクまでは、シフト5の宇宙船で行っても二週間かかる。

 運悪くその時はシフト3の宇宙船しか手配できなく、私は三週間をかけてこの旅程を行くこととなった。

 その間、惑星クースクに近づくほどに、その鎧や大陸の情報について知ることが多くなっていった。

 その鎧は特定の者にしか装着できないことを、そして幾つか種類があり、それぞれに特殊能力を持ち合わせていることを、そして、様々な理由によりフェルドミナ大陸が、決して安全ではない、ということを。

 惑星クースクについた私は、まずフェルドミナ大陸に渡る手段を考えてみた。

 幸い、大学の研究者としての地位が私の身分を保証してくれたおかげで、大陸に入るためのパスは発行されることとなった。

 だが、クースクの健全な者たちから言わせれば、フェルドミナ大陸に渡るのは酔狂なことでしかなく、私をフェルドミナ大陸に送り届けてくれそうなものを探すのには骨が折れることとなった。

 そんな時だ。


「外からの人。あんた、フェルドミナ大陸に渡りたいんだって?」

 とある酒場で、すでに難航していたフェルドミナ大陸に渡る算段を考えていた私の横に、日に焼け、よく太った壮年の紳士が腰かけた。

 着ているものは決して悪くなく、そして、いくらか装飾過多とも思えるような宝石や装飾品を多数身に着けてはいるが、その笑顔は決して人の悪そうな感じはしない。

 私は、フェルドミナ大陸に渡れないもどかしさも手伝ってか、その問いに手短に答えた。

 だが紳士は、

「なんなら、私が連れて行ってもいいですよ。もちろんそれなりの対価は頂くが、私もビジネスであそこに渡るんでね。悪くない話だとは思いますが?」

 その言葉に私は驚き、そして一も二もなく話に乗った。

 紳士の名はシエルドといった。フェルドミナ大陸とは以前から交易で何度も行き来しており、そのための船も持っているそうだ。

「だが、なんだってあんな所に、外からの人が興味を持ちなさった?」

 シエルドの疑問はもっともで、私は簡潔にこれまでの経緯を話した。すると、

「ははぁ……あの鎧について調べているんですかい。私にしても、あれは奇妙なものだと思っていますよ。なにしろ、今までそこになかったものが、眩い光と共にいきなり現れるんですからね! えっ? 見たことがあるのか、ですって? もちろんですよ! こういった仕事に就いていると、中には滅多にお目にかかれないものも目にすることができる。もちろん、その鎧についても知っていますし、むしろ、知り合い、と言ってもいいですかね」

 私は奇妙な感覚に囚われた。知り合いって?

「いえ、その鎧の所有者が知り合いなんですよ。以前私のところで働いていた奴なんですが、なんですか、あるときそれと遭遇して、鎧の所有者になっちまったとか。いや、話だけ聞けばどっかの与太話なんですが、実際その鎧が出現し、それを着用する様を目にすると、どうにも本当のことだとしか思えないじゃありませんか」

 私はこの話に興味を惹かれ、激しく興奮した。

 鎧の所有者と会えるかもしれない!

 私はシエルドにいつ大陸に渡れるのかを尋ねた。

「明後日には船は出ます。なに、せいぜい二週間の船旅です。焦ることはない。ただ……」

 そこでシエルドは言葉を切った。

 私は不審に思い、ただ、だからどうなのか、と聞いてみた。

「ただですね、あっちに渡ってからは用心しておいたほうがいい。決して治安がいいわけではないし、なにより、街から一歩外に出ると、どういった怪物どもと出くわすかわかったものじゃない」

 シエルドは、やや苦い顔で答える。

 どういった危険があるのかはわからないが、彼のような交易商人さえも怖気つかせるなにかが、あの大陸にはあるのだろう。

「ただ街の中にいさえすれば、衛兵が守ってくれますし、犯罪にでも巻き込まれない限りは安全ですけどね」

 シエルドは、手にしたグラスを呷ってそう答える。

「じゃぁ、明後日、この街の港の第三桟橋に船が止まっていますんで、それに乗り込んでください。“グレート・シエルド号”。それが船の名前です」


 それから二日後、私はシエルドの言葉通り、第三桟橋の“グレート・シエルド号”を訪ねた。

 そこではすでにシエルドが待っており、私は一等船客としての待遇を受けながら、二週間の船旅を楽しんだ。

 空は蒼色から橙色に代わり、そして星々をちりばめた藍色へと変わり、緋色の輝きを放ち、また蒼色になる。

 それを十四日繰り返し、私は無事、フェルドミナ大陸へと辿り着いた。

 最初に着いた街は、大陸の西部に位置するアーモラという港町だった。

「ここは、西の大陸との玄関口ですよ。商業が栄えていますが、漁業も盛んで、結構美味い魚料理が食えますよ。どうです、今晩大陸に到着したのを祝い、酒盛りでも」

 シエルドの言葉に、私は喜んだ。

 シエルドはもちろん、あくまでゲストである私を楽しませよう、という意味合いで言った言葉だろうが、私はその待遇を素直に喜んだ。

 そしてその夜は、私とシエルド、そしてシエルドとの取引き相手だろうが、同じような商人を囲んだ、楽しい宴を楽しみ、翌日の旅程に備え英気を養った。

「問題はここからですよ。街の外は、決して安全ではないのでね」

 翌朝、朝食を食べながら、シエルドは私にこう告げた。

 どの程度の危険が待っているのか、私には皆目見当がつかなかったが、シエルドは、

「だが、ちゃんと護衛は雇います。たぶん安全に次の街に辿り着けるでしょう。任せてください」

 そう言うと、お付の者を数人呼んで、幾つかの指示を出すと、朝食を続けた。

 そして、この街を旅立つための準備が整えられた。

 私は騎乗用の馬を貸し与えられた。

 幸い、私は今までの経験から騎乗することができ、他の者たちも、その多くは馬に乗っての旅路となった。

 シエルドの隊商は、荷役馬や馬車に商品や荷物などを積むと、アーモラの東門を潜り、街道を辿りながらフェルドミナ大陸の中へと進んでいった。

 シエルドの話によれば、目的の街、マーロウに着くのは、三日の旅程を要するという。 

 私はこの旅の無事を祈らずにはいられなかった。


 最初の日はこれといったこともなく過ぎていった。

 二日目、先行していた斥候が、シエルドの元に馬を馳せて戻ってきた。

「ダメです。この先に、トゥロムがいます。迂回路を通るか、いなくなるまで待たないと」

 私はこの聞きなれない名前をシエルドに聞いてみた。

「トゥロムは、全高4mほどの人型の怪物です。決して頭は良くないが、剛腕を持ち、そして狂暴です。私たちを見つければ、喜んで襲ってくるでしょう。ここは、遠回りでも迂回路を行きましょう」

 こうして、私たちはさらに半日を要して迂回路を辿り、そして元の街道に戻った。

 その晩、隊商は街道横の草原にキャンプを張った。

 その中で、シエルドは私に語って聞かせた。

「ここも以前は、ある程度の安全性があったのですが、ある日から怪物たちの活動が活発化しましてね。お蔭で隊商も命がけですよ。でも私たちの荷物がなくちゃ、立ち行かない町や村もある。命が危険だからって、決して辞めることはできないんでさぁ」

 火酒を携帯用のカップに注いで、それを一気に飲み干すシエルドの横顔には、なにかしらの誇りが感じられた

 三日目の朝、私は隊商の一人の大声で目が覚めた。

「襲撃だ! 警備兵、応戦しろ!」

 寝ぼけ眼の私は、事態を上手く処理できず、右に左に視線を泳がせた。

 するとそこには、1mほどの、肌は土気色で、目と鼻と頭がやたらと大きく、そして不気味にもわらわらと隊商内を闊歩するヒューマノイドの姿が多数あった。

「警備兵! 隊商内への侵入を許したな! これは減給ものだ!」

 シエルドの怒鳴り声が聞こえてきたので、私は急いでその方に駆けつけた。

「お客人、怪我はないですかい?」

 私は怪我はないが、なんだアレは、と尋ねた。

「アレですかい? アレはコートラッドと呼ばれる邪鬼どもでさぁ。こうやって集団で隊商や旅人を襲いやがるんです。なぁに、一匹一匹は大して強くない。戦士たちがいれば撃退してくれますよ」

 そう話している最中も、コートラッドの一匹が私のそばに現れ、その錆びついた剣を振り上げたが、シエルドの手にした剣で胸を貫かれると動かなくなった。

「こんな時にあいつがいてくれたら……」

 シエルドは、私を守りながら剣を手に周囲を警戒しつつ呟いた。

「お客人、あんたが会いたがっていた奴ですが、マーロウの私の倉庫で待機させています。いえ、すでに先に伝令を走らせておいたんですよ。その伝令がやられていなきゃ、街に着けば会える手筈です。だから、お客人、必ず生き残りましょうや!」

 シエルドの気迫に押され、私も自らの剣に、若かりし頃初めて手にしたバヤータの遺産の剣に手をかける。

 私だって決して剣の扱いは上手いほうではない。

 だが、この状況でお荷物になる気もない。

 私の決意が伝わったのか、シエルドもニヤッと笑い、

「お客人、あんた、いい剣を持っているじゃないですかい。それはバヤータの遺産、いわば幸運の守り神だ! きっと生き残れますよ! そして、その願いを叶えるんです!」

 警備兵に蹴散らされ、すでにコートラッドは敗走に移っていた。すでに私たちの周りにはその姿はない。

 私は、なんとか生き延びることができたのだ。


 マーロウに着いたのは、すでに午後を過ぎた時刻だった。

 私は、シエルドの案内してくれた倉庫へと赴いた。

 そこは、幾つもの木箱が山積みにされ、また樽なども置かれた、比較的大きな倉庫だった。

 内部に入ると、薄暗い照明の中、なにか、木箱とは別のなにかの姿がそこにあった。

 それは、私が探し求めていたものだった。

 騎士……鎧。

 それはまさに、噂通りのものだった。

 全高にして4m。その騎士然とした姿は、現代の金属とは違う光沢を放つ金属で覆われており、そして、その面貌は鉄仮面で隠されていた。

 私はシエルドに、これはすでに着用している状態なのか?と尋ねた。するとシエルドは、

「ええ。というか、着用している状態じゃないと、こいつは現れないんですよ。こいつに話しかけてみてくださいよ」

 シエルドは半笑いを浮かべながら、私に答える。

 私は、恐る恐る、騎士に声をかけた。

 すると騎士は一歩、また一歩と前に歩き出した。

 その重く金属的な足音に私は恐怖を覚えると、数歩後ずさったが、その姿を見ていたシエルドは、

「おい、お客人が怖がっているだろう。もういい、その鎧を解いてみな!」

 そう笑い声を滲ませて叫ぶと、突如として騎士は激しい光を放ち、そしてそれは細かい光輝く粒子となって霧散すると、後には、荒い息をつき片膝をついた、歳の頃なら十七、八の少年の姿があった。

「ゲール、大丈夫か? お前があれを呼び出すのに体力を消耗するのはわかっていたんだが、このお客人がどうしてもって言うからな。遥々、外の惑星からきたお客人だけに、無碍にもできんしな」

「ケッ!シエルドのおっちゃんは、いつもそんな感じだな。俺の身にもなってくれよ」

 ゲールはそう言い放つと、息を整え立ち上がる。

 改めてその容姿を見ると、なかなかの好男子で、私は、たぶん女の子には人気があるだろうな、と心の中で思った。

「アンタか、この鎧のことを知りたいってのは?」

 ゲールの問いに私は頷き、シエルドの時同様、簡潔に今までの経緯を話した。

 それを聞くとゲールは腕組みして、

「いやぁ、そんな大層なものじゃないよ、これは。ただ俺にしてみれば、いい相棒が手に入ったくらいにしか思っちゃいないし、シエルドのおっちゃんたちの役にも立つんで、一石二鳥ってとこかな?」

 私は、この鎧をどこで手に入れたのかを尋ねた。

 だがゲールは、

「どこって……よく考えたらどこだろうなぁ……あれは俺が帰らずの森を彷徨っているとき、穴倉に入り込んだらなにかの空間に出て、そうしたらこいつがいて、俺に話しかけてきたんだ。俺と契約したいってな」

 私はゲールの言葉をメモに取る。これはなかなかに興味深い情報だ。

「でも、もう一度俺がそこに行ったら、穴倉なんて無くなってて。鎧を手に入れたら、もう穴倉は用なしなのかもな」

 その話を聞き私は多少の落胆を覚えた。その穴倉さえ見つけられれば、より多くの遺物が見つけられたものを。

 だが、どうやってこれを呼び出し、着こむのか?

 私はゲールに聞いてみた。

「これ。これに、出てこいという気持ちを込める。そうすると光の粒子が集まり、そしてこいつが後ろに現れる。それと一緒になろうと思えば、いつの間にかこいつと一緒になっている、という感じかな」

 ゲールは、左手に着けているブレスレットを私に見せる。

 確かにそれは、私の剣同様、精巧で奇妙な細工と不可思議な光を放つ輝く金属でできていた。

 これが、あの鎧を呼び出す鍵か……?

 私はゲールにこれをもっとよく見せてくれ、と頼んだ。だがゲールは、

「ダメなんだ。どうしても外せない。俺が水浴びをするときも、寝ているときも、こいつを外そうと何度もいじってみたが、どうしても外れないんだ」

 私はその話を聞くと、またもや落胆することとなった。やはり、あの鎧が選ばれたものにしか使えない、という話は本当なのだろう。

 ふと、私はあることに気がついた。

 私はゲールに、この鎧の名前を聞いてみた。

 この騎士の名はどういうものなのか、と。

 するとゲールは、我が意を得たりという笑みを浮かべると、得意げに話しはじめた。

「それなら知ってるよ。もちろん、こいつの名前もあるが、他の鎧達もひっくるめて、こう呼ばれているんだ。“エルダー・ダイン”。こいつが俺に語りかけたんだ。『我は“エルダー・ダイン”だ』てな。俺はどういう意味かと尋ねたら、こいつは答えたんだ。『それは“古き力”という意味だ』ってね。古き力ってどういう意味かよくわからないけど、俺はそういう名前なんだと受け入れた。俺は ユール”と呼んでるけどね」

 “エルダー・ダイン”……“古き力”……

 それがこの騎士の名前。

 いや、この騎士の他にももっと多くの騎士がいるのだろう。それら全てが“エルダー・ダイン”なのだ。

 私はこの伝説にも伝えられる太古の騎士を実地で研究すべく、しばらくこのフェルドミナ大陸に駐留することにした。いつしかこの騎士の謎を解いてみせる。


                           古き力の伝説(END)

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