銀河文明観察官
サイノメ
第1話 観察官、任命される
上を見上げると、蒼い空の向こうに微かに輝く星が見える。
わかってはいるが、ここは
この空もフォログラによる疑似投影にすぎない。
ここは地球星系政府所有のドッグステーション「A.r.k(アーク)」。
話によると地球で3番目に大きな大陸と同じ大きさとして設計されたという話だが、故郷星への帰還もままならず、500年以上前の歴史情報の多くが散逸してしまった現在においてはA.r.kの意味の詳細や、地球で3番目の大陸の具体的な大きさのなんて誰も知りはしなかった。
そんなとりとめのない事を考えながら、オレはだだっ広い総合レクリエーションスペース内を走るリニアプレーンから空を見上げていたのだが、不意に隣の席に座る男が声をかけてきた。
「おいおい、寝てるのかよ。もうすぐ降りるぜ?」
「わかってるさ。アド。」
オレは手をひらひらと振りながら答えた。
隣に座っていたアドニアスはオレの古くからの友人であり、今回のミッションにも共に参加する。
ほりの深い顔立ちにやや癖のある赤い髪。長身痩躯で陽気な伊達男。家柄も代々政治家や将校を輩出してきた言わば完全無欠のエリート。
それがアドニアスの一般評価なのだが、どうにも抜けているところがあり、放っておけないというのが、我ら友人一同の評価である。周りが率先してフォローしてくれるてのが、アドの人徳なのかもしれないが。
「コウタ。もしかして、
ほら調整に失敗すると日に10数時間も寝てしまうと言うじゃないか。」
アドが真面目な顔で心配しいる。
基本的にイイ奴なんだよな。だから抜けていてもフォローしたくなる周囲の気持ちもよくわかる。
「いつもの事だよ。アド。空見ていただけ」
「なら良いんだが、今日は重要なミッションだぞ体調を万全にしてくれよ」
……重要なミッションね…。
「今日は任命式だけだぞ。出発はまだ360時間以上も先の話じゃないか。」
「任命式だって重要なミッションだ。晴れて俺達はこのミッションの専従として認知される訳だしな。」
やっぱり抜けているというか気まじめと言うか…。
確かに天文学的な倍率をくぐり抜けて訓練生となり、
訓練の最中に様々な理由から脱落した者の少なくなかったから、ある意味、今日の任命式が一つの目標であるのかもしれない。
ただ、オレ達が訓練を受けてきたのは、その先にあるミッションを完遂する為なのだから、オレとしては特に感慨は少ない。
「ともかく式典中に居眠りとか問題行動はしないでくれよ。」
「しねえよ!ってかいつオレが問題行動起こしたよ!」
思わず向きになって言い返したが、アドはニヤリと笑っていた。
…オレは一本取られた様だ。
「第1観察班、班長。コウタ・リノ・アイギス大尉相当観察官。」
長い式典も中盤に差し掛かり、任命者の読み上げが行われていた。
ミッションに参加するのは現地要員だけでも数百人に及ぶ為、各セクションの代表者のみが読み上げられていた。
志願した当初ただの歴史科の学生だったオレが大尉ってのも複雑な気分だ。
大暗黒期以降、歴史科の研究はデーターベースや文章を検索する文献主体から、現地で調査を行う現場主体に変わっており、オレもスクール時代に何度か廃棄惑星での調査に参加した事もあるが、大尉で班長ってのは意外だった。
聞き間違いかと思って、壇上のバカでっかいフォロモニターに目を向けると、オレの画像が名前と役職、階級付きで投影されている。大尉相当にして班長で間違いはなさそうだ。
映し出されている画像は立体ではなく平面とはいえ、オレの顔は特徴が薄いのがよく分かる。黒くて癖の無い髪は今よりやや短いが結構前に撮った画像だししょうが無い。
人には典型的なモンゴロイド系の顔と言われる。しかし、混血を繰り返し、人工授精も一般化している現代でも本当にモンゴロイド系と呼ばれる人がいたら、オレの碧色の目を見てモンゴロイド系では無いと言うと思うが。
「最後に艦長として、アドニアス・ウィル中佐を任命する。また中佐は地球標準時間明日12:00をもって大佐に昇進する為、現場の最上位階級者として指揮官の任にも併せて就いてもらう。」
これには会場がどよめいた。
アドは名門の生まれとは言え、歳はオレと同じだし、元々軍属では有るが実戦経験は無い。オレ達より年上で実戦経験がある少佐や中佐はそれなりにいるのに、それを差し置いてアドが艦長にして現場最高指揮官に選ばれるのはさすがに不自然だ。
実際に近く座っている航海士長となったエレノ・リーン少佐は声には出さないものの相当不機嫌な顔をしていた。
「静粛に。これは本ミッションの特性上、従来の枠にとらわれない柔軟な発想の出来る若者に指揮権を持たせるという委員会の意向を汲んだものであり、ベテランの諸官をないがしろにしたものではない。
むしろ貴官達はウィル艦長のもと、存分に職務を全うしミッションに貢献してもらいたい。」
ミッションの統括指揮官である大将の発言により、ひとまずは落ち着いた様にみえるが、不満が解消したわけでは無いようだ。
粛々と式典は進行したが、ミッション遂行に不安を感じた者はオレを含めそれなりにいる様だった。
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