紙とペンと確定申告(KAC4)

 二千字未満

 カクヨム三周年記念

 お題は『紙とペンとなにか』



 2019年3月15日。

 カクヨム三周年企画。その第四回目のお題が発表された。

 同時にこの日は、確定申告の期限であることを諸君はご存じだろうか。


 確定申告とは、前年の収入を申告し、それに対する税金を納める制度で、その申告受付の最終日が今日、3月15日なのである。

 多くの社会人は、これを会社がやってくれていて、自分でやることは無いのだが、私の様に自営業だったり、フリーランスで働く場合、申告が義務付けられる。

 当然、申告をしなければ追徴課税が発生し、余計に税金を納めなくてはならない。

 故に、私は今日、地元の税務署へと訪れていたのである。


 私が税務署に着いたのは午後の15時ごろ。

 税務署自体は17時までの営業であるが、確定申告の受付は16時までであった。かなりギリギリである。危ない危ない。


 ほぼ満車状態の駐車場になんとか車を停めると、そのまま税務署内に入る。

 中では申告に来た大勢の市民が膨大な資料を抱えて書類を作成し、職員がそれを補助する様に業務に追われていた。

 この時点で私は早くも帰りたくなる。

 なんで皆こんなギリギリに申告しに来るのか。もっと余裕をもって確定申告を終わらせるべきである。2月18日から受け付けているのだから猶予はいくらでもあったはずだ。阿保なんじゃないのか。スケジュール管理もできないのかこのボンクラ共は。と、自分の事を棚に上げ、整理番号を受け取って待つ事30分。ようやっと自分の番が回ってきた。


 簡易的な机の上で(郵便局なんかにあるやつ)、手渡された青色申告書類に氏名、住所、屋号(事業の名前)、職種、連絡先などを記入していく。


 そこで私の隣に可愛いお嬢さんがやってきた。

 周りをきょろきょろしている。どうやら職員に聞きたい事があるようだが、慌ただしく右往左往する職員は彼女に気付く様子もない。

 私はちょいと声をかけてみることにした。


 話をしてみると、どうやら去年事業を始めたらしく、確定申告は今年が初めてとの事。なにもわからない、なにを書けばわからないと言った状況であった。

 すかさず先輩風を吹かし、私は丁寧に記入事項を教えていった。

 なんでも、昨年カフェを開いたらしい。しかし帳簿はつけていなかったのか、大雑把にレシートなんかがレジ袋にまとめられていた。


 確定申告では、本人が使った金の大半は経費として落とすことが出来る。つまり、その分収入を少なくすることが出来、支払う税金を減らす事ができるのである。

 私も、友人との食事代なんかを友好費として、日々使うガソリン代なんかを移動費のくくりで申告している。なんともザルな制度であるが、それが法律なのだから仕方がない。

 私も役所から電卓を借り、その子の申告分を計算してやった。明らかに事業には関係のないようなレシートも混じっていたが、見て見ぬふりをした。


 いよいよ収入欄ではあるが、その子はなんと、3000万を超える収益を書いてみせた。カフェとはそんなに儲かるものなのか。試しに私が聞くと、駅前にあるそこそこ有名なカフェである。確かに、そこはいつも人が溢れていたのを思い出す。


 私もその子の手前、見栄を張って収入欄を一億と記入した。「ええー! すごいですねえ!」なんて言われちゃって悪い気はしない。

 こうして出会ったのもなにかの縁ですし、後日お茶でもと、連絡先を聞いたら快く教えてくれた。ついに私にも春が来たのだ。3月だし。


 書類への記入が終われば後はその情報を元にパソコン入力するだけである。

 私とその子は隣通しでパソコンに収入や、払った税金や、年金、保険料を記入していった。

 最後に出てきた一文で、私の顔は一気に青ざめる。


『あなたの支払う税金は38,565,523円です』


 私は職員を呼んで平謝りした。

 勿論、その子に連絡を送っても、今のところ返事はない。

 私は学習した。確定申告でふざけてはいけないと。

 諸君らもどうか、気を付けて欲しい。


 実話です。

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