告白
二千字未満
https://www.youtube.com/watch?v=ZkGvIoXcQ-w&index=22&list=PLEcOCM3isWx__aziWMIMFc-DaFaWCOE0F
〇
『ハイ負けー、行ってきなよ』
私は手に持ったトランプのジョーカーを見た。
カードは涙でぼやけて見えている。
私たちがやっていたのはババ抜き。
当然最後にジョーカーを掴んでいた私の負けだ。
ただのトランプなら負けても泣きはしない。
だが、この勝負にはあることが賭けられていた。
『はやく○○に告ってきなよ!』
○○君、彼はこのクラスで一番冴えない男である。
運動はできないし、勉強もできない。
友達もいないのか、いつも一人で座っている。
何を考えているかわからないし、
おまけに顔もいつも無表情で微妙だった。
要するに『罰ゲーム』だ。
私達はやりたくもない告白を賭けていたのだ。
ちょっとした遊びのつもりだった。
まさかこの人数で本当に負けるとは。
「本当にやらなきゃだめ?」
『当たり前でしょ。帰っちゃう前に行ってきなよ』
私は告白なんてしたことがない。
したくもないし、負けてもするつもりはなかった。
でも、友達たちの顔はそれを許してくれそうにない。
早く行きなよ、
から、早く行けよ、
に表情が変わってくる。
仕方がない。
クラス内でハブられるのは御免だ。
覚悟を決めて立ち上がり、
○○君に話しかけた。
「○○君、ちょっといい?」
私が話しかけると、○○君はポカンとした表情で
私の顔を見返してきた。
「○○君、いま付き合ってる人とかいるの?」
私がそう言うと、いつもは無表情な彼が、
顔を赤らめて照れていた。
大して話したことのない私からでも、
いきなりこんな事聞かれ、状況を察したのだろう。
『いや、今はその、いないですけど』
私はそれを聞いて振り返った。
友達たちは必死で笑いをこらえている。
このリアクション。満更でもなさそう。
もしかしたらOKされてしまうかもしれない。
そう思って私は失礼だけどゾッとした。
なるべく断られるようにしよう。
「えっと、○○君、私の事あまり知らないよね」
『ううん、ずっと、見てた。その、かわいくて』
おいおいおいおい、何言っちゃってんだ。
これはやばいぞ、私は思わず苦笑いした。
「へ、へぇ。そうなんだ」
『ところで、僕になにか用なんですか?』
私は振り返り友達たちを見ると、
早く言え、とジェスチャーしてくる。
まったく他人事だと思って……
もし、OKされちゃったら素直に謝ろう。
私は覚悟した。
「あの、無理にとは言わないよ?
全然断ってくれていいんだけど……」
『うん、なに?』
「私と付き合ってくれないかな……」
嘘とはいえ、私は好きだとは言えなかった。
その言葉を言う事に、罪悪感を感じたからだ。
○○君の顔を見るとすごく嬉しそうだった。
『あの、僕でよかったら……』
バン!!
○○君が返事をしようとした時、
勢いよく机が叩かれた。
叩いたのは、クラスの人気者、△△君だ。
○○君と比較するのが失礼なくらい、
△△君は勉強も運動もできたし、人気だった。
なにより、イケメンで女子の憧れであった。
△△君はいきなり立ち上がるなり、
私のところにずかずかと歩いてきて、
いきなり私の手を取った。
『お前が好きだ! 俺と付き合ってくれ!!』
いきなりそう言われて私は顔が真っ赤になった。
手を握られている事も意識しちゃって、
恥ずかしくて△△君の顔も見返せない。
でも返事をしなくちゃ……
「はい、喜んで」
当然断る気などなかった。
断るわけがない。
この学校に彼以上の男がいるというのか。
私は○○君の顔をチラッと見た。
口を開けてショックを受けている。
『悪いな○○、この子、俺がもらうから』
△△君は私の手を引いて廊下へと出て行った。
〇
廊下に出ると△△君は私の手を放した。
私は今起きた事を整理するので精一杯だった。
私と△△君が付き合うだなんて……
想像しただけで顔がにやけてくる。
見ていた友達達になんて言われるだろう。
やっぱりうらやましがられちゃうのかな。
でもきっと優しい△△君だもの。
私を守ってくれるよね。
「あの、△△君?」
『ああ、ごめん急に手引っ張って』
「ううん、いいの、それより私が好きだって本当?」
私は確認したかったのだ。
だって、あまりにも信じられないことだったから。
『あ、ごめんそれ嘘。罰ゲームなんだこれ』
その言葉を聞いて私は固まった。
『ごめんごめん、驚かせちゃったね』
「え……あ……」
『だからさっきの忘れて! じゃあね』
△△君はそう言って帰っていった。
私は怒る気にも、悲しむ気にもなれなかった。
ただ△△君が人気な理由がわかった気がした。
彼の後ろ姿を眺め、
ひたすら自分の行動を恥じた。
私はこれ以来冗談で告白をすることはなかった。
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