第2部

エピソード7 シーサイドだよ! 全員集合!

7-1 海だよ、要兄!

「うっみだああああああああああああああ! 海! 海だよ、要兄!」

 夏、太陽、砂。そして一面の海。揺れる情熱の赤ビキニ。全身で飛び跳ね、長いポニーテールを思いっ切り靡かせて、余りある喜びを表現する袖ヶ浦雫の姿。そのあまりにも刺激的な有様に、大島要は顔をほころばせつつも、内心は大いに動揺していた。


(水着屋で押し切られたけど、やっぱりスクール水着とか競泳水着にさせておけばよかった……。大きい、揺れてる。大地震。なにがとは言わないけど。後純粋に理性が危うい。耐えるけど)

 素朴なトランクスタイプの海パンの上に、黒のパーカーを羽織った要は、今にも海へと突っ込み出しそうな雫に準備体操を促した。そして、いざ彼女が海へと飛び出すと、砂浜を歩き、その美しさに舌を巻いた。手入れの行き届いた海岸はゴミひとつなく、夏でなければ素足で歩きたくなる代物だった。


「おーう。大島。招待者かつビーチの管理者をほっといて、先にお散歩たぁいい度胸じゃないか。どうだ、神楽坂のプライベートビーチは?」

 ドスを効かせた声にパレオを纏い、ビーチパラソルを背負ってエントリーしたのは薄い褐色の短髪娘。要の友人にして幼馴染。元彼女でもある神楽坂遙華。母の再婚により金持ちの娘となった彼女は、諸般の縁もあって、今でも要のことを気にかけてくれている。


「いや、美しいものだ。こんなに美しい海は初めて見る。……遙華だってそう何回も来てないだろ?」

「まあそうだが。去年散々はしゃいだからな。もう慣れた」

「ははは。さすがだ。プライベートビーチだもんな、そりゃ」

 遙華は、要と会話を交わしながらも、手慣れた調子で準備を済ませていく。要は手伝いが無用であることを確認してから、ようやく雫が戯れる水辺へと向かった。しかし。


「要兄! えいっ!」

「ぶふぉっ!?」

 突然の水しぶきを顔に浴び、要は思わず水面に尻餅をついてしまう。現状を確認すれば、胸の谷間もあらわに雫が、次の水しぶきを装填していた。

「もういっぱーつ!」

「こんの……えいやっ!」

「あっ! このーっ!」

「彼氏舐めんなっ! 後谷間丸見え!」

「いーじゃん、彼女だし! むしろ要兄だから見せてるんだし!」


 海辺と砂浜を往復し、バシャバシャとはしゃぎ合う要達。しかしそこへ乱入するのは。

「おらー! そこのバカップル! 乳繰り合ってるんじゃなーい!」

 海水浴的な準備を終え、パレオを脱いで駆け込む遙華であった。そのまま尻から飛び込み、派手な飛沫を撒き散らす。要はマトモにそれを受けてしまった。


「ぐはっ!? おっま……。やっちまえ、雫!」

「うるせー! くたばれ、リア充!」

「私の要兄をいじめるなー!」

 広い海にポツリと三人。しかし水を掛け合う姿は微笑ましく、そして賑やかで。

「ちぃっ……! こうなったらそこの岩場まで競争だ! 私は一人だが、そっちはリレーでいいぞ!」

「乗った! 雫、俺は向こうまで一泳ぎしてるからな。頑張れ」

「……うんっ!」

 海辺に勝負の機運が満ちる。しかしそこに二つの声がかかった。


「では、スターターは俺が」

「否、大介君は姉上のパートナーに回るといい。私が請け負おう」

 授業の後なのか、相も変わらず詰め襟の学生服に丸刈りの神楽坂大介。そして……。


「ちょっと待った。なんで先輩がここに?」

「春野さん!?」

 リクルートスーツに黒髪靡かせ、スラリと伸びた背とおみ足。勝ち気な瞳を輝かせた美貌も眩いレディー。春野彼方その人が、更に後ろに立っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る