その時がきたら、どうぞよろしく
咲良 季音
第1話 夢のはなし
ねえ、
あなたは今でも
君は今でも
私の
僕の
夢を見て目覚めた朝に
涙を流したりしますか?
*
夢の中の私が、気配を感じてうっすら目を開ける。
私の顔、30cm上にあなたの顔。
大きな手が私の前髪をそっと耳にかける。
眉根のしわ、いつもより下がった眉、無理に上がる口角。
優しく、かわいらしく、しなやかに…
いとしい気持ちが思い通りの声になって、どうか伝わりますようにと祈る。
できるだけ、できるだけやさしく、
「どうしたの?」
あなたは体を起こして私の顔から少し離れて、
ぼろぼろと涙を流す。
「どうしても君がいい。」
体ごと震えるような心拍数を感じて、
本当に、目を覚ます。
白い天井と、うっすらと明かりの差し込む窓、静な雨の音、私の異常に早い心拍数。
夢から持ち帰ってこられるのは、いつだって大して素敵なものじゃない。
子どもの時にも同じようなことを思ったな。
軽く笑ってから、雨だから、早めに支度をしなくちゃな、て考えて。
分かっていたけれど、気がつかないふりをしていた、こぼれ落ちる涙をぬぐう。
どうしているかな?
まだ、私と同じように夢を見てくれたりするのかな。
今日は笑っているかな。
今日が少しでも、素敵な日になりますように…。
あなたにも、
私にも。
手を合わせて、目を閉じて、神様はよくわからないから、お空のおじいちゃんでもいいから、誰かに届けば、それでいいから。
*
深い眠りの中のはずなのに、やたらリアルに感じる暖かな頬。
髪の感触も、指先に触れる1本の睫毛さえもいとしい。
ゆっくり目を開けて、驚いた様子も見せず、いつも通りの柔らかな笑顔で、
君が、
どうしたの?何て言うから
情けなくもぼろぼろと涙を流してしまったんだ。
恥ずかしさに顔を覆おうとした時、腕に絡まったブランケットの重みに気が付き目を覚ました。
「6時にしては暗いな、今日は雨か…」
時計を見て、いつも通りの生活を始めるふりをして、動揺しきった本当の僕にしっかりしろと突っ込みを入れて、扉を開ける。
「おはよう」
「おはよう絢くん、朝ごはんできてるよ」
「ありがとう、いいかおり」
今日君には、どんなことが起こるのだろうか?
僕が知るすべは何も無いから、テーブルに肘をついて両手をしっかりと握って目を閉じて、どうか穏やかな日でありますようにと祈る。
それから、潤んだ目をあくびのせいにするために、大きな口を開けて、「寝不足かな?」て言ってみる。
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