その時がきたら、どうぞよろしく

咲良 季音

第1話 夢のはなし

ねえ、


あなたは今でも

君は今でも


私の

僕の

夢を見て目覚めた朝に


涙を流したりしますか?



夢の中の私が、気配を感じてうっすら目を開ける。

私の顔、30cm上にあなたの顔。

大きな手が私の前髪をそっと耳にかける。

眉根のしわ、いつもより下がった眉、無理に上がる口角。


優しく、かわいらしく、しなやかに…


いとしい気持ちが思い通りの声になって、どうか伝わりますようにと祈る。


できるだけ、できるだけやさしく、


「どうしたの?」


あなたは体を起こして私の顔から少し離れて、

ぼろぼろと涙を流す。

「どうしても君がいい。」


体ごと震えるような心拍数を感じて、


本当に、目を覚ます。


白い天井と、うっすらと明かりの差し込む窓、静な雨の音、私の異常に早い心拍数。

夢から持ち帰ってこられるのは、いつだって大して素敵なものじゃない。


子どもの時にも同じようなことを思ったな。

軽く笑ってから、雨だから、早めに支度をしなくちゃな、て考えて。

分かっていたけれど、気がつかないふりをしていた、こぼれ落ちる涙をぬぐう。


どうしているかな?

まだ、私と同じように夢を見てくれたりするのかな。


今日は笑っているかな。

今日が少しでも、素敵な日になりますように…。

あなたにも、

私にも。


手を合わせて、目を閉じて、神様はよくわからないから、お空のおじいちゃんでもいいから、誰かに届けば、それでいいから。



深い眠りの中のはずなのに、やたらリアルに感じる暖かな頬。

髪の感触も、指先に触れる1本の睫毛さえもいとしい。


ゆっくり目を開けて、驚いた様子も見せず、いつも通りの柔らかな笑顔で、

君が、

どうしたの?何て言うから


情けなくもぼろぼろと涙を流してしまったんだ。

恥ずかしさに顔を覆おうとした時、腕に絡まったブランケットの重みに気が付き目を覚ました。


「6時にしては暗いな、今日は雨か…」


時計を見て、いつも通りの生活を始めるふりをして、動揺しきった本当の僕にしっかりしろと突っ込みを入れて、扉を開ける。

「おはよう」

「おはよう絢くん、朝ごはんできてるよ」

「ありがとう、いいかおり」


今日君には、どんなことが起こるのだろうか?

僕が知るすべは何も無いから、テーブルに肘をついて両手をしっかりと握って目を閉じて、どうか穏やかな日でありますようにと祈る。


それから、潤んだ目をあくびのせいにするために、大きな口を開けて、「寝不足かな?」て言ってみる。




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