スマートコンプレックス

norakuro2015

第1章:スマートコンプレックス

第1話  あるメイドの災難

・・・ここは、


確か昼休みだったと思う。しかしながら周りの風景が小学生の頃、よく遊んでいた伊勢神宮の内宮ら辺。内宮へ掛かる橋の川は水位が極端に低いので抜け道を知れば恰好の遊び場。


「ルミちゃ~ん。こっちだよ~」


近所で明朗快活な女の子がルミと呼ばれる自分へ声を掛ける。

私はあの子を知っている。この頃の自分は嫌いだ。消極的なおどおどした性格。何よりすぐ諦めていた。そして寂しがりやだった。


「ま・・・待ってよ~〇〇!」


!!・・・アレ?その子の名前が出てこない。でも、顔が・・・。


急いでその子に走り追いつく、そしてその子の肩に触れた。その子が振り向く。

ルミはその子の顔を見て驚いた。


「私!」


「えっ?ルミちゃん?」


私が目の前に・・・。それじゃあ私は?


「ひやっ!」


瑠美は軽く悲鳴を上げて目覚めた。そこはある高校の庭にあるベンチだった。

天気も良かったから一人うたた寝していたみたいだった。

瑠美が時計を見ると休み時間が終わる寸前だった。


「いけない!」


瑠美は急ぎ足で教室へと戻っていった。


・・・


「イルミナティでーす。お手頃価格で美味しいご飯も食べれまーす」


初夏の炎天の中、あるメイドさんの恰好をした女子高校生が某有名なメイド呼び込み通りでお店の宣伝をしていた。

他にも多数のメイドや様々なコスチュームをした女性が沢山客寄せに来ており、それに負けじと通りも賑わっていた。


秋葉原某所にある店舗用テナントビルの4階に位置するメイドカフェ「イルミナリティ」がある。

正式名称は癒しの精霊の住処「イルミナリティ」である。


全ての店員(メイド)は精霊と呼ばれている。


元々「イルミナティ」から文字ったものであったが。そのまま使用するにはいささか危険が伴う恐れがあるので、オーナーの榊(さかき)が「それじゃあ<リ>を途中で加えちゃおう」と言う適当な意見で店名が決まったのである。


この店の恰好はニーハイミニミニスカートフリル付は勿論の事、前掛けエプロンとブラウスに短めなベストで胸元をリボンで添えている。バックスタイルは肩甲骨のラインが軽く見える程度。髪を下ろしたり、ショートカットでない限り見えない仕様だった。


勤めている店員らは「まあ、響きが良いからいいか」とこれもまた適当に同意していた。

このお店自体が古株のメイドカフェ店舗でいまいち人気が出ず経営難に陥っていた。


その状況を知り合い伝手で榊に助けを求めた。人情味がモットーな榊は二つ返事で承諾した。


継業まだ半年しか経っていないが榊の仕入ルートや広告の打ち出し等独特の手腕がその店に新たな息吹を吹き込み、あっという間にお客を呼んでいた。近々2号店を出そうかという話まで浮上している。

店員もリニューアルオープニングスタッフで運営している。


その中の一人である竜宮司(りゅうぐうじ) 瑠美(るみ)はオーナーの榊(さかき) 美央(みお)の誘いで、というより断れずにこの店に週に2日勤めていた。


瑠美は文京区にある女子高、私立桜明学園(しりつおうめいがくえん)の2年生の生徒であった。ボブヘアーでパッチリとした目で見るからに明朗溌剌(めいろうはつらつ)な人当たり良さそうな子だった。


校風が自由自立ということで多岐に渡りある程度のことが校外学習という名の名目で許されていた、私立の中ではとても緩い女子高等学校であった。


しかし、その割は偏差値が都内トップクラスで毎年東大や京大に現役進学するものが多い。そのため高校入学入試については最難関とも言える。


生徒一人一人が難関大学合格するためのそれなりのノウハウを潜在的に持ちうる女子のみに入学が許されると世間的に揶揄されていた。


瑠美はその高校に合格し入学できたことは奇跡だと親や友人にもてはやされた。

中学当時の瑠美は中の中ぐらいの成績でごく平凡な生徒であった。


瑠美には2人の親友がいた。同じ中学の財部(たからべ) 皐(さつき)と白河(しらかわ) 良子(りょうこ)。彼女らは中学でも1,2位を争う秀才で桜明に行くことが確実視されていた。


瑠美は遊ぶにしても彼女らといつも一緒だった。彼女らも瑠美を親友と思い、一緒に中学生活を謳歌した。しかし、高校入試となった3年で瑠美が今のままでは2人と一緒になれないということに気が付いた。


瑠美は必死に彼女らの進路と同じ道を辿るべく努力をしたが中学3年の夏休みで一旦挫折した。

その時に助けを差し伸べてくれたのが、2つ上のこの店のオーナーである榊 美央だった。


榊は瑠美たちと同じ中学出身であり、その当時桜明に在学していた。

榊が高等部2年のときその3人が入学したての頃、中等部2年生の女子に難癖を付けられていたところを助けたことでその3人が榊を敬うようになった。


榊も可愛い後輩ができたことに満更でもなかった。榊は勉学が卓越していたがその分周りから浮いた存在になっていた。ならば存分に浮き過ぎてやろうと思い、その中学の女子の番長に何故か君臨していた。


その榊が瑠美を全力でサポートした。瑠美の最大の強みは素直なことだった。そして桜明の弱点は内申点をそれ程重視しないということだった。榊は桜明入試だけに特化した勉強法を瑠美に反復して叩き込み、瑠美は見事合格を果たした。教えていた榊は何故か瑠美の合格にびっくりした。


「ほぼほぼヤマを張っただけなのになあ・・・」


そう榊はぼやいたがなんやかんや瑠美には素養があったということにしておこうと考え、瑠美、皐、良子の3人がまた同じ学校に通えるということで喜んでいるところを見てまあいいかと思った。


それから瑠美は榊に頭が上がるわけもなく、榊が当然の如く東大に入学を果たすと知人の伝手によりメイドカフェの再建をすることになり、榊より「お前も手伝え」の一言で週に2日勤めることになった。


瑠美は一緒に働く店員(メイド)らに桜明のことは伝えていない。というよりも榊より口止めされていた。「桜明の名は他の女子からみたら羨望の的であり、嫉妬の足かせにしかならん。だから絶対にいうな」と。


瑠美は他の桜明の生徒らと違って、普通にしている分にはただの普通の高校生だった。

しかし、親友の2人はやはり話し方等に育ちの良さや知的なものを感じ取れるため、普通の女子とは馴染み難い。


榊は中学からいわゆるスケ番の経験上、口調等で粗暴な面があるために他人とも馴染み易かった。


実はこのカフェのスタッフが瑠美を除いたすべての店員(メイド)が榊の喧嘩仲間だった。


榊は中学を卒業してから更に番長としての頭角を現し、都内の伝統あるレディースの5代目総長を務めた経歴がある。そしてスタッフがそこの出身であった。


人情味深く、仲間を大切にし、不良の拠り所になっていた。そしてその所業は得物を持つものに特に容赦なく、徒手空拳で挑みかかり、男女問わず得物を持ったものは身ぐるみはがされ、その者の尻穴に得物を突き立たせ、多くの不良に得物を持たせない様に畏怖されていた。


榊が大学へ進学すると同時に榊は引退し、後輩へ道を譲っていた。

元々不器用な者の集まり故に就職で困難な当時の同期をついでだからとこのカフェ再建に付き合わせて今日に至っていた。


榊の店はコンセプト上、ほぼお客様が男性ということで、


「早い・安い・多い・うまい」をメニューコンセプトに掲げ、それが当たったのであった。


昼間のランチタイムも視野に入れ、メイドカフェならではの席料を1オーダーで最初の30分をフリーにした。昼間のお客を夜にも引き寄せ、リピーターを次々と増やしていった。


常連が言うことに、「ココは下町の食堂兼若い子と話せる、一挙両得だね~」と時間の内サラリーマンや独身の方に喜ばれた。


瑠美が働きに来ていたその日はオーナーの榊も来ていた。店員の衣装は白とピンクのフリフリの短いスカートメイド服だったが、榊は漆黒のメイド服だった。


界隈の町内会の集まりがあったらしく、そこに出席してからの帰りでついで店を手伝っていた。

店員や客からも黒の精霊と言われ崇められていた。そしてオーナーだと言うことも皆知っていた。


午後8時にたちの悪い酔っ払いが来店してきた。そしてその黒の精霊に絡んでいた。


店員である精霊たちは調理からサービスまで全てを自分たちで提供するため、調理にいた精霊の田中さんが長ネギを切っていたが、絡まれている黒の精霊をみて、長ネギを持ったままそのお客へ近づいた。


「ちょっとお客様、私と個人的にご相談しませんか?」


そう田中さんが言うとその酔っ払いは鼻の下を伸ばし田中さんと一緒にビルの外に出て行った。

そして10分も経たないうちに田中さんが戻っと来た。


「お客様はどうやら具合が良くなくそのままお帰りになりました」


田中さんは満面の笑みで可愛らしさを客へアピールしていた。


午後も9時を過ぎた辺りから秋葉原もそろそろ店も閉め始め、瑠美はビル外のゴミ置き場にゴミ出しに降りてきていた。


「今日も沢山のひとが来てくれたなあ」


瑠美はやりがいを感じていた。稼ぐということはいろいろ勉強になると親にも言われた。勿論、仕事は親公認であった。何よりも榊の斡旋ということで親も安心していた。


瑠美がゴミを出そうとすると傍に全裸で尻穴に長ネギが刺さった先ほどの酔っ払いが気持ち良さそうに寝ていた。


瑠美は慌ててゴミを捨ててその場を離れた。

息を整えた瑠美はふと目を通りにやったとき、桜明の生徒が1人ふらふらと歩いていた。

瑠美は目が良かったので、その生徒が同じ2-Aの相澤(あいざわ) 志帆(しほ)だとわかった。


「こんな夜に1人で何ふら付いて歩いているのかな」


瑠美は不思議に思い近くに寄って声を掛けた。


「相澤さん・・・!!」


瑠美が声を掛けた同時に相澤が瑠美に襲い掛かって来た。

少し距離があったがその襲い掛かる目つきが尋常じゃなかった。


「目が・・・真っ赤・・・」


瑠美はいとも簡単に相澤に捕まると恐ろしい力で3メートル向こうへ投げ飛ばされ、地面にたたきつけられた。


「ぐっ・・・」


瑠美は息が詰まり気絶した。相澤はその瑠美へゆっくりと涎を垂らしながら近づいてきた。

そこに黒の精霊が立ち憚った。


「君ねえ・・・うちの従業員に何したのかい?」


黒の精霊はその場でタバコに火を付け一服すると、相澤はその黒の精霊に掴みかかって来た。

その動きを榊は見事な体捌きで避けた。


「おやおや、ちょっとおかしいねえ」


相澤の様子を見て変に感じた榊がそう言うと、すぐそばにいた別の精霊の佐藤さんが相澤の前に走り込み、相澤の腹に拳を入れて相澤を気絶させた。


その後、榊は気絶した相澤のポケットかスマートフォンを取り出し、あるアプリを探した。


「・・・やはり、このアプリが・・・」


榊は目をこわばらせた。


精霊の佐藤に命じてそのアプリを特殊な方法でアンインストールを掛けた。

店からもう一人の精霊の吉長さんが降りてきて、気絶した瑠美と相澤を3人で店まで運んだ。


榊はこの東京であの惨劇が再び起きてしまうのではと不安がよぎった。

空を見上げる。今日はとても暑い一日だったせいか空がゲリラ豪雨の前触れな模様だった。


「(まるでこれから起こる事態の前触れのようだ・・・)」


そう榊は深刻そうな顔をし、電話である所へ連絡した。


「私だ。・・・そうだ。奴がこの東京にいるようだ。・・・わかった。それじゃあな」


そう誰かへ連絡し通話を切った時、空に恐ろしい轟音が響いた。雷だ。

榊は濡れる前に急ぎ足で店の中へと入っていった。


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