第壱絵巻

「はァ〜……面倒くせェ……」

紫呉は自分を取り囲む如何にも形から入りました! 的な奴らを見ながら呟いた。

「アンタ蕗隝紫呉さんだろ? ちょっくら相手してくれや」

「めんどくせェしだよ」

「まァまァそんな事言わずにさ」

俺は馴れ馴れしく話し掛けてくる形不良見掛けヤンキー共を辟易した目で見ながら溜息を吐く。

「はァ……」

「紫呉さんから来ないなら俺らから行くぜ?」

「まさかこんな所で紫呉さんに逢えるなんて俺らツイてるよなぁ〜♪」

「嗚呼なんたってこの街を治める最強の戦闘神バーサーカーなんだからな!」

「……………………来るなら勝手に来いよ……俺ァさっさと帰りてぇんだからヨ……」

ギャーギャーと興奮した猿みたいに騒いで、攻撃を仕掛けてこない不良共馬鹿共に苛ついて睨みながら言う。

その言葉に更に興奮したらしく、雪を前にした子供ガキのように一斉に照らし合わせて攻撃してくる。

「おぉ! 紫呉さんから許可もおりたし、遠慮無く行かせて貰うぜ!」

「オラァァァァァァァァァァァッ!」

「あ〜ぁ……後で氷窃ひせつに怒られる……謝らなきゃか…面倒臭ェ……」

襲い掛かってきた不良のなり損ない共を一気に地面に沈めたが、やはり複数対一人だと無理があるらしく、所々痣や傷が出来ていた。

「…………チッまた怒られっし……あ〜もう世界なんて消えちまえやァ良いのにヨ……」

ーー…………誰も俺の事なんざ、気にしてねぇってのに……。

喩え俺が消えたとしてもあの人たちは、心配さえしないだろう。世間体がどうとか言うだけだろうというのは容易に想像出来た。

氷窃は単なる仕事として仕えてるだけであって、俺本体を見ている訳では無い。親は俺が生まれてくるのを良しとはして居らず、とうの昔に氷窃に世話だけさせて抱く事さえしようとはしなかった。

ーー…………こんな俺なんか……俺なんか、要らない存在だ……。

紫呉は不良共の血に塗れた自身の拳を見て心の中で呟いた。

愛情なんてモノは知らない。友情なんてモノは必要いらない。同情なんてモノは棄ててしまえば良い。憐れみなんてモノは血反吐を吐くぐらいに嫌いだった。

俺は悲しくない。俺は寂しくない。俺は憐れな存在モノじゃない。俺は……俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺はーーーーーーーー…………必要な存在なんだろうか?

ガクンッ

「!!?」

紫呉が考え事しながら自身の拳を見ていたら、いきなり身体がかしいで気味の悪い浮遊感が身体を包み込む。

落ちる堕ちる墜ちるーーーーーーーーッ!

何処までも続く底無し沼の存在に紫呉は我知らず、恐怖を覚えた。

俺は何処まで堕ちる? 俺は何処まで逝けばいい? 俺は何処まで……

紫呉は堕ちる恐怖に耐え切れず、真っ暗闇に沈み込む中ドロドロに爛れきった意識を手放した。


「…………で、此処は何処だ……?」

紫呉は動かない身体を地面に横たえた格好のまま呟いた。

どうやら此処は俺が居た場所では無いらしい事は簡単に想像出来た。まるで何処ぞのラノベのような展開に我ながら馬鹿馬鹿しいと感じてしまう。

どうしたモノかと考えているとカサコソと草を踏むような音が聴こえてきた。

「……………………何でこんな所に傷だらけの人間が居るんだイ?」

足音が俺の目の前で止まり、声が掛けられる。

耳に心地好いハスキーヴォイスが耳を貫き、俺の意識を少しの間現実に繋ぎ止める。

「……………………まァ良いけどヨ……此処はそういう所だしな」

「……………………?」

その声を聴いて疑問を覚えた所にフワリと身体が浮き上がる感覚に、思わず身体を震わせてしまう。

「……………………別に喰いやァしねェよ、流石にソレは此処でも御法度だァ……手当しに行くだけサ、安心しねェ」

「…………要らない、離……せ……ッ…………!」

「……………………ヤレヤレ元気の良い小童こわっぱだのゥ……」

ハスキーヴォイスは笑いながら俺が倒れていた森をスイスイ歩いていく。俺が抵抗しているにも関わらず、ヒョイヒョイとまるで海を泳ぐ魚のように、まるで滝を登る鯉のように、まるで蒼空を羽撃はばたく鳥のように進んでいく。


ー…………ソレが、俺とハスキーヴォイスこと狐火鬼火の旦那枯鴉響鬼の出逢いだった。

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