閉塞感
どんよりと曇った感じがする。実際、今は昼間で陽光がわずかに射していて。それで足りない分は街灯や看板のディスプレイで明るさを稼いでいるのだけど。
この街は空が低い。天井が低い訳じゃないけれど、それにのしかかるようにビルが生えていて圧迫感がすごい。純粋に空が狭いのも、主に生活しているエリアが地階だからで。元々二階や高架だった部分がどんどん張り出してアーケードの屋根みたいになっているから狭苦しい。
ハイエリアの雨水や汚水が流れ込むスラム扱いの地階。元々の権利者や居住者は開発が進んだ時、ビルのそれなりに高価なエリアに移り住んだ。
流れ者やあぶれもの。一般人から人生の落伍者と呼ばれるような、たった一度でもつまづいた者たち。
ゴミを処理し、汚水を管理し。インフラを下から支えるのが俺たちの仕事。ハイソ連中が暮らしていけるのも俺たちの仕事があればこそ。とはいえ最低限の
楽しみと言えばバカみたいに安い合成アルコールや軽いドラッグ、タバコくらい。飲む福祉と揶揄されるチープな焼酎。ヴィクトリージンとは書いてないな。似たようなもんだろうけれど。ドラッグのほうは鎮痛剤ベースの多幸系に合成THCが香料代わりのタバコ。安くて気休め程度の代物だ。電子タバコのリキッドもその手のやつが市場に安価で流されている。それらで満足できるならこんなクソみたいなゴミ溜めの街で暮らすのも悪くないかもな。飯にも鎮静剤や向精神薬の類が
死ぬまで同じ街、同じ暮らし。
グルグル、グルグル。
バカな野良犬みたいに自分のシッポを追いかけて一日が終わる。
だれかが自己責任だと叫ぶ。
うるせえ。
神経がチリチリと音をたてて焼けていく。
気分がささくれ立つ。
些末なことがいらだちに変わる。
銃があったら咥えて引金をひいてるかもな。
終わらせられるんなら終わらせたい。
そんな気分を飛ばすために合成THCタバコで一服。
クソみたいな街。
いかれた世界で暮らしている。
今まで暮らしていた街を出たいと思ったことはないか?
ニホンという国は狭すぎる。人の住んでいない山は発電所やら治水やらに使われて、人が住める平地はほとんどアーコロジーと、それに集まる人が作ったスラムで埋め尽くされた。
貧乏人はアーコロジーのまわりに野放図に広がった下町に住むしかない。うち捨てられたビルを無理やり改装して九龍城のようにした連中も大勢いる。どこのアーコロジーからでも最上階から周辺を見れば一つ二つは見つかるだろう。
ひらけた土地ってものがあるとしたら企業傘下の所有するジャンクヤードや倉庫街、それに管理された大規模な畑だ。
そういう土地を見たければホッカイドウと呼ばれた島に行ってみることだ。どこかの
港町は倉庫街でいっぱい。そこの隙間に街がある。
管理外となっている荒れ地も多少はあったはずだ。そこには勝手に住みついた連中がコロニーを作っているよ。観光気分で行くような土地じゃない。
マジで人生まで捨てることになるから気をつけな。
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