爆弾処理班


 それを見た瞬間、絶望した。


 バッグの中にボトルコンテナ。その中にベアリングが詰めてある。その隣には基板とバッテリー、アンテナらしき物が覗いた自家製爆弾だった。



 こいつは解除する様子を眺めたり、交渉で目的を達しようとしたり、交渉の隙になにかをしようって類いの犯罪者じゃない。爆発するぞと脅す気はみじんもない、純粋に起爆して誰かを殺そうと、あるいは何かを壊そうとしているだけの、爆弾はただの手段でしかないタイプの犯罪者だ。


 スキャンに引っかかったのは当然。それすらも想定したことなのだろう。なにせバッグの中には細いワイヤーが所狭しと張り巡らされている。これでスキャンを抜けられると思っている方がおかしい。



 ワイヤーはたぶん即時起爆スイッチ。基盤は制御装置と各種センサーに通信装置。バッテリー付近にもセンサーらしきチップとケーブルがホットメルトとダクトテープで固定されている。

 可能な限りあらゆる方向からスキャンしたデータを元に作った3D画像で構造を眺める。

 断線スイッチか接触スイッチか知らないが、ワイヤーは5mmのメッシュ状。センサー基板には無線装置、加速度センサー、温度センサー、GPSセンサー、etc。

 原始的な振動スイッチに制御基板が正副合わせて三系統。バッテリーに至っては温度センサー付きが5つも積まれている。極めつけは古いデジタル時計ベースのタイマーと信管の束。これらが複雑にからみあっている。

 やるとしたら爆破処理。しかしこれ以外に爆弾があれば、これに手をだしたら余所で爆発するのだろう。全部を探し出して同時に爆破処理を行うしかない。解体なんてはじめたら数時間は身動きがとれない。


「周辺警戒!! 監視者ウォッチドッグを探せ!! 同時に他の爆発物も捜索!!」


 どこのバカがいまどきテロなんぞ起こそうというのか。要求があれば政府や官公庁相手じゃなくて企業脅迫が相場だ。そして企業はたいがい自前の警備組織PMCを持っている。俺の所属だって元軍人ばかり採用している企業警察。いちおう警察を名乗ってはいるが本質は軍隊。企業やそこの職員相手にバカをやるやつがいたら鉛弾で蜂の巣にするのが仕事だ。


「どこかのだれかから犯行声明は?」


 特になにもありません。無線の声が返答を寄こす。現場判断で爆破処理筒につっこんで破壊するか? 一瞬危ない発想ゆうわくが脳裏をよぎる。

 企業のロビーで金属探知機にひっかかった荷物。その場で配送の人間を拘束し、雇い主に確認、発送元を検索中だ。爆弾処理班として俺たちが呼ばれ、フロアは閉鎖。スキャン装置一式を乗せたロボットがバッグの前で待機中。


 配送会社から返答が来る。該当する荷物無し。


 どこかの段階で荷物にまぎれさせたのか、誰も発送していないことになっている荷物。サーバのデータを消したのか、この荷物の発送情報と現物を配送センターで紛れ込ませたのか知らないが幽霊みたいにあやふやな出所不明の爆弾が本社宛に送られてきやがった。


 教科書マニュアルどおりに液体窒素でバッテリーを殺して安全に処理するか、それとも……。


 悩んでいるうちに爆発したらたまらない。まだ避難は済んでいないのだ。

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