0011

始末屋と小娘

 始末屋と小娘


 それじゃ若頭のことはそんなに知らないんだな?


 晩飯にハンバーガーと称したなにかを食いながら小娘と話す。


「サイガさんは父の上司だと聞いてます。時々お土産をもらいました」

「覚えている中で最初にもらったのが腕時計です。機械式で高級そうなものでした」


 少女の持ち物を思い出してみる。が、それらの中に機械式腕時計なんて高級品はなかった。


「そいつはどうしちまったんだ」


 悲しそうな表情とともに。


「家に置いたままです」


 なら親戚とやらに盗られて売られちまってるな。今頃、どこぞの故買屋の金庫で眠ってる。


「ほかになにかもらった物はあるか?」

「新技術だ、って高いインプラントを一つ。二年前に。

 MRゴーグル無しで情報を見られます。端末デバイス接続リンクは必要だけど」


 インプラントももらい物・・・・だったか。気になるな。


「目つきがきついのは入力の癖か?」

「生まれつきです!!」


 どうやらコンプレックスだったようだ。

 気まずい。


「端末は一緒にもらったものか?」

「そういえば。その時に父から新しい端末をもらいました。普段使い用にって。ここに来て預けている機種です」

「ちゃんと電源を切ってたんだったな。偉いぞ。

 設定は自分でしたのか?」


 あとで端末を技術屋に持ち込んで調べてもらう必要がありそうだ。


「いえ、全部設定済みでした。視線入力コントロールMR対応網膜MRインプラントとの兼ね合いがあるからって」


 そう言って首の後ろを指す。

 手を伸ばし軽くウェーブした髪をかき上げると、防水端子となんらかの小型端末が埋め込まれているようで少し腫れたように膨らんでいる。


 女の子へのインプラントだから気を使ったのか、都合が良いからそこなのか。


「充電はどうしてるんだ?」

「寝る前に数分だけ充電端子を貼り付けてます」

「熱くなったりとかは?」

「別にありませんでした。最新型ってすごいんですね」


 毎日充電して二年。普通の端末用バッテリーなら劣化が始まってきてもおかしくない。

 いや、最近売り出されたアルミイオンポリマーバッテリーなら7000回の充放電を保証してたな。発明自体は今世紀初頭とかなり古いものだが、商品化は最近だったはずだ。他に高性能なバッテリーがたくさんあったからな。

 フレキシブルで人体埋め込みに都合が良かったってことで埋め込みバッテリーに採用されたんだったか。流行トレンドは知らんがニュースではちらっと見た気がする。

 端末用には採用されてないはずだが、インプラントデバイス用なら分からんでもない。


 手元の端末でニュースを検索。発売は去年の頭か。


 ますますきなくせえ。発売前のバッテリーを使うインプラント? 一般売りされてないMRデバイス? すでにセットアップされた新型端末?

 どう考えても技術系企業テックコープからの流出品ぬすまれものだろ。


 しかし娘を実験台に使うだろうか。


「明日はストリートドクの所と技術屋のところに行く。ついてこい」


 宣言して、晩飯を続ける。

 美味くもないが癖になる味を炭酸飲料で流し込みながら。今後の立ち回りと小娘の今後をなんとなく考えながら。


「早めに寝ておけ。ドクと技術屋での用事が済んだら、ついでに買い物に連れて行ってやる」


 少女の嬉しそうな表情を視界の隅に流して、ハンバーガーの包み紙をくしゃっと握りゴミ箱に放り込む。


「じゃ、おやすみ」

「おやすみなさい!!」


 片手を上げて背中に跳ねる声を聞く。


 数日閉じ込めっぱなしってのもかわいそうだし。

 今のうちくらいしか外出させてやれないかもしれんからな。


 ま、これも言い訳なんだが。

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