企業警察


 実態は書類仕事のある警備員セキュリティだ。


 企業警察コープコップと呼ばれていても実際の所は警備員セキュリティとそう変わりやしない。違うのは銃を持ってて、犯人らしき人間が武器を持っていたり、攻撃してきたら殺してもいい、というくらいだ。


 もちろん殺した場合はその行動が正当なものだったか、と問われる裁判が待っているが、これもお決まりの手続きルーティーン。だいたいは書類手続きだけで本番の裁判は出廷無しに無罪放免になる。


 そもそもが企業国家に属する警備員が、企業国家に属する裁判所と企業国家に属する弁護士によって裁判を受けるのはお約束ごとを済ませるってだけなんだから。一昔前の法廷劇みたいなことは起こらない。

 企業城下町シタマチに住んでいる人間同士の裁判ならもうちょっとエキサイティングなシーンを見られるんだろうけどね。独立系の弁護士もいるし。

 旧日本の制度を継承しているからか当番弁護士制度もあるが、だいたいは金にならないから持ち回りで、企業弁護士の見習いがやる気のない答弁をでっち上げて減刑を望むくらいなもんだ。


 やっかいなのは他の企業国家との境界で起きた事件なんかだな。どっちの管轄かでめるし、容疑者の引き渡しにあれこれ手続きがいる。これは前世紀の県境で死体が見つかった、なんて刑事ドラマであったようなパターンだろう。

 で、企業国家間で指名手配されている容疑者がいる、どこそこ付近に逃げ込んだらしい、なんて時は組織同士で意地の張り合いだ。

 とはいえその期の実績が出てる企業警察であれば融通しあうし、そんな仲が悪い訳でもない。現場レベルではけっこう交流もあったりする。飲み会で愚痴ったりとかな。


「そっちはどんな感じよ」

「今期の成果は十分上げたからのんびりしたもんだよ。警邏けいらオートクルマでざっと流すくらいでな」

「そういやおたくさん所は交番制度がないんだっけ」

「親会社がステイツ系の外資だからね。映画のアメリカンポリスみたいにあたりを回ってコーヒー飲んだりしてるよ」

「ドーナツじゃねえのか」

「たまには食うよ。そっちはどんなだい?」

「交番の中に詰めて書類仕事。たまに相談が来たり連絡が入ったらオートクルマで出撃って感じ」


 ぐいっと合成のビールもどきをあおる。

 こいつも俺も同じ警察学校の同期だ。警察学校はニホン自治政府が管轄して運営している。といっても今の所属は違う。学校で資格を取ったら就職活動で所属先を探す。俺は旧日本系の企業国家警察、こいつはステイツ系に就職した。国も会社も別々だ。


「なら座席に座りっぱなしよりはマシなんじゃねえの。こっちはオートの中で一日過ごすからなぁ」

「たいして変わらんでしょ」


 どうでもいい近況報告と愚痴。ため息で吐きだした分を取り戻そうとするかのようにビールに手を伸ばす。


 パン。


 どこからか銃声が響く。

 二人がとっさに身構え、その右手は腰に伸びて空をつかむ。


「非番だったよな、俺ら」


 あいつがぽつりと言うと。

 顔を見合わせて苦笑した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る