0010

情報屋

 とうとう通販企業のトップが動いたか。


 ニホンじゃシェアNo1になって久しいが、そろそろヤバい感じだからな。

 企業軍を動かしてなにをするつもりだ? 新製品のデモにしちゃ妙に静かすぎる。


 ああ、機密が漏れたのね。なら動くわな。リバースエンジニアリングで自前の商品に使えそうな部分は開発コストを減らせるからなぁ。特許絡みで訴えられるまでのツナギには十分だろ。さて、どこが反応するかな。

 うん。上から全部記録してる。アルファチームの動き方が分かるいい資料になるさ。そっちはどうだい?

 邪魔ねえ。大変だね、請負仕事も。こっちは自分から完成品を売り込むから仕事の最中に邪魔はめったに入らないよ。うちで働くかい?

 わかった。まあそっちの都合もあるだろうよ。無理にとはいわないさ。

 ふん。情報ね、技術屋。OK、代わりにどういうつながりがあるか教えてくれ。

 なるほど。今回の動き・・の中心にそいつがいる可能性があるのか。ちょっと待ってろ。


 そいつ、今はなんでも屋を名乗ってるらしい。「これこれこういう物が欲しい」って頼むと開発から部品調達までやってくれるんだとさ。妙だな。自分から動くことはまずないって聞いたぞ。


 まあ動いているってんならそう・・なんだろうよ。企業軍を相手にするほどだ。なにか理由があるはず。動きに乗ってもいいし、俺みたいに眺めてるだけでもいい。

 どちらにせよ儲け話になるかもな。自分たちの目と鼻の先で派手に喧嘩けんかしてるのが誰なのか知りたいってやつは多いだろ。手前てめえに火の粉がかかるかも知れないのに放置ってのはありえねえ。

 俺はこないだの火事騒ぎから一連の流れだと思うがね。やらかした地主フェイスが持ち込んだ何かがトリガーなんだろうよ。お嬢様の家出騒ぎも関わってるかも・・な。なんにせよ俺はただの情報屋だ。情報を整理して分別バラして欲しいやつに売るだけだ。

 俺はなにも推理しない。したいやつにさせるさ。バラ売り専門だ。他に欲しい情報はあるか? ないならこれで仕舞い・・・だ。じゃあな。


 通話を切り一息つく。ボトルの炭酸水を一口飲み、嘆息。


 なんだか派手なことになってるな。企業軍が動き出すとなると一時は避難しておいた方がいいかな。しばらく事務所ここを経由して情報集めだけに専念するか。


「おーう、今日はもう終わりだ。みんな帰って寝てくれ。一週間ばかり休みにする」


 大きな声で事務所の中に怒鳴る。まだ昼間だ。だが早めに解散しておいたほうがいいだろう。


「その間の給料とかはどうなるんですか?」

「俺、もう手持ちがないんですけど!」

「その後はどうするんです? クビ?」


 ガヤガヤとスタッフが愚痴る。


「今日までの分は今から色をつけて払ってやるよ。現金ゲンナマでいいよな?」


 やったー、だのヒャッホーだのと一気に騒がしくなる。12かそこらのガキばかりだ。遊びたい盛りだろう。


「キリの良いところまでやったら順番に並べ。来週の週明けから再開できるようにちゃんと整理しとけよ」


 下働きの小僧デッチたちにまとまった額のニューイェン硬貨コインを渡していく。


「こんなにいいんですか?」


 小僧デッチの一人がつぶやく。


「それだけの仕事はしただろ。それに来週は大人しくしておいてもらわにゃならん。その金でどっか遊んでこい。来週明けから忙しくなるぞ」


 声をかけて、ついでに頭をでてやる。安心したのかにっこりと笑って硬貨を懐に入れる小僧デッチ。まだまだガキだな。

 小僧たちは思い思いに散っていく。それを見送って端末デバイスの電源を落としていく。中継端末の設定を変えると。


「さて、来週は何人生きて集まるやら」


 考えてもしかたのないことを頭から追い出すとバッグを背負い、事務所に鍵をかけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る