始末屋


「ここにくればお薬をいただけると聞いたんですけど……」


 モニターには少女が映っている。ツーテールに結んだ髪。トートバッグにちょっといいアウター。すこし汚れているがここらの小娘じゃないな。もっと良い所コガネモチのお嬢様かなにかだ。


「うちじゃそんなの扱ってないよ。部屋を間違えてるんじゃないか?」

 インターフォンで答えつつも周りを映すモニターからは目を離せない。この娘に気を引かせているうちに襲撃、というのもあり得ない話じゃない。

「でも、タカギさんにそう言われて……」

「タカギ? どのタカギだ?」

「調達? のタカギさんです」

「ちょっとまってろ」


 インターフォンのマイクを切り、外の音声だけ拾えるようにする。

 仕事用の端末デバイスを上着から取り出し、調達屋にコール。

「まいどどうも。で、どちらさん?」

「始末屋のカシワギだよ。お前さんとこから紹介されたって言ってる、14かそこらの娘が来てる」

「ああ、その件か。うちじゃ扱えなくなったんで護衛としてそっちを紹介したつもりだったんだけど」

「うちは護衛なんざやってねえよ。ただの始末屋だ」

「つっても紹介できるのはカシワギさんところくらいしかなくてね。始末してくれるならその娘が20ユーロ札で270枚持ってるはずだからそれで頼むよ。守ってくれるってんなら、さらにありがたいね。そっちはクスリも持ってるだろ」

「うちはリハビリセンターダルクじゃねえぞ。なにか勘違いしてねえか」


 すこしだけ頭にくる。が、怒ったところで銭にはならない。


「小娘を殺して有り金奪うのも良心が痛むってもんでね。そこらの解決をしてくれるなら5400ユーロを頭金に。小娘の親の口座にその十倍は入ってるからそれ・・で」

「ムチャいいやがる」


 といってもかなりの金額だ。頭金だけでも数回仕事をサボれる。長期休暇代わりにできるかもしれん。すこしだけ気持ちが揺れる。


「その娘、かわいそうなんだよ。親御さんが死んだら親戚を名乗る連中が沸いてきて家ごと乗っ取られちゃって。本人は親から『いざって時に』と渡された財布と本人の通帳を持って逃げてきたらしい」

「それがなんで薬中ジャンキーになってんだよ」

「PTSD治療ってことでMDMAを二ヶ月分渡したら加減せずにバンバン使っちまったみたいだ」

「てめえのせいかよ。面倒見れねえなら最初から手ぇだすんじゃねえよ」

「その頃、ゴタゴタしてたんだよ。厄ネタに関わっちまってさ。そっちで預かって少しずつ減薬させるか始末するかどうにでも好きにしてくれ」

「……」


 そのかわいそうな娘はドアの向こうで青い顔をしている。調達屋との通話を切る。

 マイクをオンにして一言。


「入りな」


 ドアから数メートルの廊下。その先で娘を待つ。ドアが閉まったのは確認した。外に不審な動きはない。かわいそうな娘とやらはおっかなびっくりゆっくり廊下を歩いてくる。

 暗い廊下の先、逆光になる照明。俺の姿はシルエットにしか見えないはずだ。


「そこでストップ。荷物はワゴンの籠ん中にひっくり返してこっちに押せ。そしたら壁に手をついて待っていろ」


 言われたとおりに娘がトートの中身をワゴンに乗せる。こっちに滑ってくる。手帳、通帳、分厚い封筒、端末が入ったチャック付きバッグジップロック、鍵、珍しい革の財布、ヘアピン。あとはハンカチやら生理用品やら細々したもの。武器になりそうな物はない。

 端末はちゃんと電源が切られている。

 廊下の途中にしこんだ金属センサーからはコイン程度の金属量しか検知されていない。非金属ナイフか毒物くらいに気をつければいいかな。

 荷物を手元に確保、ワゴンを押し返し。


「ゆっくり服を脱いで両手を上げろ」

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