設備屋

 いつもの仕事。海運用コンテナの改造だ。

 元から鉄の箱みたいな20フィートコンテナを電波暗室、厳密にはファラデーケージに仕立てる。


 きっちりした仕事をするため、普段なら塗装をいてどこかにサビや穴がないかを確認、各面を電気的に接続するのだが、今回は簡易ということで断熱材を入れる層に細かい金属メッシュを入れるだけという施行。

 注意するのは角の部分。うっかりするとここ・・に電気的な隙間ができる。


 よくある発注だ。コンテナを遮音無電波領域に仕立てる仕事。表向きは認可端末の認定前試験領域ということになっているが、要は盗聴盗波されない密室が欲しい、後ろ暗い客向けだ。

 いまさらだけどな。企業コープですら自治権を持った敷地内エリアで好き放題してるんだから。連中は暗室なんて使わねえ、電波を好き放題出してるぞ。遵法精神はどこへやら。


 磁性体を混ぜ込んだ無反射スポンジを導電性のいい壁一面に貼って遮音と吸電、遮熱を行う。

 そのままだと内部が熱くなるし、電源やネット回線も引き込めないので、そこだけは専用の穴をあけて電源、エアコン、換気口、LANブロードバンドの配線を通してから導電パテで埋める。

 多少の漏れは出てくるが、十分減衰できる。穴から数センチ離れればノイズに混ざって中のことは分からない。換気口も金属メッシュと開口部の屈曲と長い経路で雨風、電波が入りにくくなっている。

 ネット回線経由の盗聴はユーザー側の責任だ。知ったことではない。オススメのルータにVPNを通す程度のことは追加料金しだいでするけれど。


 無数のコンテナが集まる集積地に置けばぱっと見・・・・はその存在が分からない秘密基地。本職プロが見れば排熱と消費電力からバレるけれど。

 コンテナハウス自体は珍しい物ではないから構わないのかもしれない。

 どっかで貸しコンテナと称して簡易宿泊所みたいに利用させてたってことで摘発くらった事件もあったよな。そこに住まなければ、もしくは人に貸さなければバレにくいのかも知れない。


 なんにせよこっちは依頼されて施行するだけだ。それをどこに運んでどう使おうが構わない。警察ポリに嗅ぎ回られても後ろ暗いことなんかないし。どうせ転売転売で出所ソースも分からねえだろ。

 施行の癖と素材の選択でどこの会社の仕事かがバレる可能性はあるけどね。事情を聞かれても「誰それに依頼されて作りました。使用目的は聞いてません。移動用のテスト環境なんじゃないですか」でおしまい。

 こっちは犯罪になるようなことはしてないからな。うちの所在地の法には触れてねえし、それをどこに持っていこうがそれは客の都合だ。規格品のコンテナだからトラックに積んでどこにでも持っていけるし設置も簡単。

 厳密には「継続的に設置」とやらをされていれば建築物扱いらしいが、それも客の都合。販売の段階では上下水道もブロードネットも電源も接続されてないただのコンテナボックスだ。エアコンの室外機と簡易ネットワーク端末用の防水配電ケースウォルボックスも側面にくぼみを作って設置済みだから、バッテリーとネット端末を持ち込めば遮音無電波オフィスとして稼働できる。外部電源を引いてもいい。


 さて、今週中には仕上げてしまおう。

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