第208話【行商人編】ファシルドールと嫌な夢と歌姫と
失敗や敗けの記憶はじわじわと心に刺さる。
夢を見る。
幼い頃、魔力が5であることを
からかわれた。
馬鹿にされた。
周りの忌諱の目、憐みの目、
こいつには勝っているという蔑みの目
どれだけそんな視線を浴びたかわからない。
じわじわと心が削れていった。
どうせ見るなら
ファシルドールの歌劇の様に優雅な夢が良かったな。
行商団はファシルドールへ到着した。
サーカス歌劇絵画、芸術関連の中心地
この一帯は特殊な鉱石の採掘が盛んであり、地域全体が経済的に潤っている。
傷を癒す効果のある温泉などというお湯も湧き出て、長期で滞在する貴族も多く、
芸術家は人生の一発逆転をかけて芸の向上に励むらしい。
街はお祭りのように にぎわっているが、いつもの姿であるそうだ。
なんと心躍る街だろう・・・
しかし、ウツロの気分は最悪だった。
く・・・
憂鬱な気分が晴れない。
晴れることなんてなかった気もするが、
$$$
夕刻、
カルロに引きずられながら、
街を見に行ったが、途中ではぐれてしまった。
まぁいいか
もう迷子になるほど子供でもない。
ぼんやりと歩く。
娼館 いけなかったことで
しょげているんだろうか
負け組・・・
女を囲うのはいつだって権力者だ・・・
ボスになれなかった雄は群れから追い出されるか下っ端に甘んじるのが
動物としての摂理だと言うのか・・・
そんな考えで頭がいっぱいになる。
ふと
向かう広場に人だかりができているのに気づく。
「歌姫レイスだってよ」
「ああ、あの感動で涙が止まらなくなるって噂の・・・」
どうやら有名な歌手が歌っているそうだ。
ウツロは人だかりの外からチラッと舞台をのぞく。
綺麗な少女が歌を歌っていた。
あの耳、エルフって種族だろうか。
ぼぇええええええ
ん、なんだ、この蟲の羽音みたいな音・・・
ボロボロと涙を流す観衆たち
ウツロは自分の耳を疑ったが
彼女の口から発せられた声であることは疑いがない。
これが感動で涙が止まらなくなる歌なのか。
芸術ってよくわかんないな・・・
呆れた顔をするウツロに舞台の少女が鋭い目で一瞥する。
今一瞬・・・
目が合った・・・
凄い形相で睨んでいるようにも見えた・・・
なんか・・・ヤバい
ウツロは急いでその場を後にした。
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誰かが自分を尾行しているのを感じる。
追跡者を巻くために、路地裏を通る。
方向感覚はいい方だ。
曲がって、曲がって・・・
あれ、さっきと同じ場所だ・・・
どうして?
「待ちなさい」
ハイヒールの靴音
耳のとがったさっきの少女がウツロを通せんぼする。
「あなた・・・ちょっと事情を聞かせて欲しいのだけど」
構わず、ウツロは踵を返して逃げる。
曲がって、曲がって、曲がって
そして、また同じ場所・・・
「ふーん・・・幻惑魔法はしっかり効いているみたいね・・・」
「大人しくするなら手荒な真似はしないわよ?」
『何か』に首を掴まれる・・・
何も見えないのに・・・
何本もの手に捕まれる感触
力で地面にねじ伏せられる。
「ぐぬぬぬ」
「さぁ、観念しなさいよ」
その少女は
地面に臥せるウツロに にこりと 微笑む。
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