第4話 茸の森の任務報告 その2
元気な火魔女
彼女の初陣の失態を責めることはない。
こんな可愛らしい後輩の初々しい失敗を誰が責められようか。
まあ、無理して怪我させたらその方が上司から責められるんだが・・・俺が・・・
今回の任務は他の誰かに任せてはどうかと進言したが、それでも火魔女は行くと言い張った。反対もしない。なぜなら、魔法協会において偉いのは『魔法使い』だからだった。剣士とか 弁当で言うところの漬物扱いなのが実情。
火魔女「昨日はほんの少し調子が悪かっただけです。今日からが本番です」
ふ、新人さんはやる気に満ち溢れてるな・・・
俺も新人の頃は・・・ああ、そうでもなかったな・・・
火魔女「見ててください。私の魔術は同期の中でトップクラスだったんですから」
マタンゴランの群生地に到着した。
昨日と同様、わらわらと奴らが現れる。こうしてみると動く姿が愛らしくもある。
火魔女「万物を照らし・・・万物を焼く尽くす・・・」
彼女が呪文を唱えると彼女の周りが赤く光り始める。
ウツロはマタンゴランを突き離しつつその姿をぼーっと眺める。
火魔女「・・・我が呼び声に答ぇぇ・・・」
急に声が小さくなった。
ウツロ「・・・?」
火魔女「・・・あの・・・見られてると・・・やり辛いんですけど」
・・・ああ、そう
ウツロ「じゃあ・・・あっち向いてるから」
火魔女「・・・すいません」
改めて呪文を唱える。唱えるほどに魔力が増していき、ウツロ自身もビリビリと肌に魔力を感じた。・・・これはヤバい。
彼女の周りに火柱が高く高く吹き上がる。
上昇気流に巻き込まれたマタンゴラン達が次々と燃えていった。
すごい・・・
ここまでの威力の魔法はめったに見たことがない・・・彼女の魔術がトップクラスだったという話はおそらく真実なのだろう。
ウツロ「・・・」
火魔女「・・・どうです・・・すごいでしょ」
いや・・・すごいのは十分わかったが・・・
まずい・・・
大きな木が燃えている・・・このままでは森林火災になりかねない。
いや、こんな時のために、火の魔法使いは『水の魔石』を持たされているはず、それを使えば・・・
火魔女「・・・すいません・・・宿に忘れてきました」
ウツロ(・・・ああ)
火魔女「・・・どうしましょう・・・」
火魔女の顔が青ざめていく。
火の勢いは弱まらず・・・あたりの木に燃え移る勢いだった。
ヤバい、ヤバい、ヤバい・・・・
このままじゃ始末書何枚書かされるかわからない・・・
事故報告事例・・・○月○日、被害点数○ 当事者:ウツロ=ハイイロ・・・
面倒くさい、面倒くさい、面倒くさい・・・
ウツロ「・・・おい、ちょっと伏せてろ。」
火魔女「?」
ウツロは剣を鞘から引き抜いた。
一閃
『風切り』で枝をまとめてなぎ倒す。
一瞬にして燃えている大きな木の枝がきれいに切断されて落ちてきた。
火魔女「・・・すごいです」
ウツロはガクッと膝をつく・・・息も絶え絶えだった。
火魔女「大丈夫ですか」
ウツロ「・・・ちょっと魔力を使い過ぎただけだ。・・・元気があるんなら・・・村へ行って警務部隊を呼んできてくれ」
火魔女は村の方へ走り出す・・・
ウツロはヨロヨロしながら地面の木の残り火をローブで覆って消して回った。
ああ、しんどい・・・
$$$
火魔女「・・・本当に・・・有り難うございました!!!」
おおごとにならずに済んで良かった・・・
以前に組んだ火の魔法使いのおじいちゃんはベテランだったので・・・気が回らなかったのか・・・消火用に水魔法覚えてたぐらいのプロだったな。
翌朝、早朝にマタンゴランの討伐証拠を念写して、少し休んで今は夕方だった。
火魔女「マタンゴラン30体討伐と任務達成を祝して・・・乾杯!!!」
火魔女はグビグビと葡萄酒を飲み干して、おかわりを頼む。
火魔女「ああ、この村のキノコ料理はやはり絶品です」
よく食べるなこの子供・・・ああ、大人だっけ?・・・
ウツロ「いいか、報告書は正直に書くんだぞ・・・嘘書くとあとで整合性合わなくて・・・書き直しになるからな・・・」
火魔女「なんだか・・・ウツロさんの教えは実感がこもってて、説得力がありますね・・・」
褒められてる気がしないが・・・
翌朝、
ああ、気分悪い、二日酔いだ・・・
今日は予備日か・・・
2日目にすべて仕事を終わらせたから今日は休日同然・・・
よし、昼まで寝よう、いや、夕方まで寝よう、いいや明日の出発の馬車まで寝れる。
ドン
火魔女が宿のウツロの部屋の扉を開ける・・・え、何事?
火魔女「ウツロさん、今日は暇なので、村を観光しましょうよ!!!」
朝から元気いっぱいに布団をひっぱる子供・・・
勘弁してくれ・・・
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