ニートとニートの物語
@Boku_me_moi
騎士と魔導士の物語
1
凶悪な魔物たちの巣食う、神の高座フリズスキャールヴ。
その地上第二十層で、僕たち二人は巨大なドラゴンと対峙していた。
『リッカ、まずいかもしれないわ』
聖剣リディルと聖盾スヴェルを携え、全身煌びやかな鎧を身に纏った人間族の
彼女は盾役として前線に立ち、敵からの熾烈な攻撃を全て受け止めてくれている。僕と彼女自身の回復魔法でどうにか耐え忍んではいるけれど、魔力にだって限界というものがある。なるほど確かに、この分では彼女は倒れてしまうだろう。僕は近接戦闘を行うだけの能力を持たないから、前衛を失うことはイコール、全滅への特急チケットだ。
『もう少しだけ耐えて! がんばって、レーゲン』
リッカと呼ばれた僕は、次なる魔法の詠唱を開始しながら、相棒であるレーゲンにそう返す。
本来ならば会話をしているような余裕などないのだが、信頼する相棒の言葉を無視するなどということはしたくなかった。
両手に抱えた魔杖レーヴァテインに魔力を送り込むと、僕を中心として魔力の流れが生まれる。屋内であるにも関わらず、小規模な竜巻のようなものが吹き荒れ、僕が身に纏った漆黒のローブは風に手を引かれてひらひらと踊る。
しかし、そんなことでは鉄壁を誇る僕の絶対領域はびくともしない。ローブの裾とロングブーツの間に君臨する、いっそ芸術的ですらあるその地帯は自慢の防御力を遺憾なく発揮し、見えてはならないはずのものが見えてしまうことはない。
まあ、敵の攻撃に対する防御力は目の前のドラゴンからすれば障子紙も同然のお飾りに過ぎないのだけれど……。だからこそ、今ここでレーゲンを倒れさせるわけにはいかなかった。
やがて、この絶体絶命の状況下においては永遠に続くようにすら思われた僕の詠唱は完了し、氷属性の極大魔法『アブソリュート・ゼロ』が発動した。巨大な氷塊がドラゴンへと直撃、その体力を確実に奪っていく。
僕はこの世界において、
果たして僕の魔法はドラゴンの体力をある程度削り取ることには成功したようだったけれど、奴にはまだ倒れる気配がない。
『やっぱりまずいわ。脱出しましょうか?』
レーゲンが言う。彼女は体力にこそ余裕を残しているようだったが、魔力の方はもうじき底を突いてしまいそうだ。
『もうちょっとだけ……』
それでも僕は諦めない。
確かに、脱出することは簡単だ。
鞄の中のこのカードを使えば、この危険な場所から脱出し、瞬時に安全な街へと帰還することができる。カードに込められた魔法が発動するまでには若干の時間を要するけれど、レーゲンがいる限りその程度ならば問題にはならない。
『そう。なら、私ももう少し頑張ってみるわ』
『うん。ありがとう』
そして僕は、再度『アブソリュート・ゼロ』を放つために詠唱に入った。
この一ヶ月ほど、僕たちは毎日のようにこのフリズスキャールヴにたった二人だけで挑み続けてきた。ここは本来ならばもっと多くの仲間と挑むべき魔窟。しかし僕たちは、そこに敢えて二人だけで挑んでいる。
最初の頃はもっと下層で見切りを付けて脱出していた。
試行錯誤を繰り返し、徐々にコツが掴めてきて――ついにこの日、最終ボスの君臨するここまで辿り着くに至ったのだ。そう簡単に諦めたくはなかった。
僕の詠唱に呼応するように荒ぶっていた魔力の流れはやがて一点に収束、通算何度目になるのか分からない、極大魔法『アブソリュート・ゼロ』が発動する。
天井付近に出現した氷塊が痛快な音を立てながらドラゴンに炸裂した。
『……あ』
その、直後のことだった。
ドラゴンの邪悪な瞳が、僕をしっかりと捉えていることに気が付いた。
その強靭な腕と鋭利な爪による物理攻撃。
加えて、その口から吐き出された灼熱の炎。
レーゲンがどうにか自分に注意を向けようと頑張ってくれていたけれど、その努力も虚しく終わる。敵に攻撃されることを基本的に想定していないため、防御力というものをほとんど持たない僕は、あっさりと蹂躙され、床に膝を着いてそのまま倒れ込んだ。
『本当にまずいわね』
その光景を一部始終見ていたレーゲンは、そのままドラゴンとの交戦を継続する。
とはいえやはり彼女一人だけでは攻撃力不足が否めない。体力も魔力も徐々に摩耗していき、やがて彼女も武器を床に落として倒れ込んだ。
『やっぱり、駄目だったね』
倒れ伏したまま、僕は言う。
『そうね。折角ここまで来たんだけどね』
『次こそ頑張ろう』
『ええ』
二人とも倒されてしまったこの悲劇的な状況下で、呑気な会話が続く。
神の高座フリズスキャールヴの第二〇層には、戦いの勝者であるドラゴンの咆哮が響き渡っていた。
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