とりかへばや物語
水谷 悠歩
第一章
いつの頃であったか、
北の方は二人いた。一人は
権大納言は北の方たちの器量がそれほど優れていないことを不本意で残念に思っていたが、子どもたちが愛らしく育っていくにつれて離れられなくなり、すっかり腰を落ち着けた。
子どもたちの容貌はどちらも優れ、また取り間違えてしまうくらいにそっくりだった。同じ場所にいたら不都合もあっただろうが、それぞれ別の屋敷で育てられたので支障はなかった。二人は似ているといっても違いがあり、若君は上品で匂うように気高く、優美さも感じられたが、一方の姫君は華やかで元気に満ち
若君は成長するにつれて、あきれるほど人見知りするようになった。あまり見慣れない女房に顔を見せないばかりか、父の権大納言に対してさえもよそよそしく恥ずかしがる
一方の姫君はとてもいたずら好きで、ほとんど家の中におらず、いつも外で若い男や
二人の子どもたちが幼いうちは、権大納言も「いずれ自然に直るだろう」と自分に言い聞かせていたが、十歳を過ぎても変わらず、どうしたものかと嘆くより他になかった。
「そうはいっても年月が過ぎれば、きっと思い知るに違いない」
辛抱強く待ったが少しも直りそうにないため、これは世に例のないことだと絶望感を抱くようになった。
気軽に外歩きもできない立派な身分となった権大納言は広大な屋敷を造り、東西の
自分と一緒に並んで、心ゆくまで満足できる北の方がいないのは残念だったが、北の方たちが
あるのどやかな春の日、
権大納言は
「どうしてお前はこのように閉じ
姫君の髪は身の丈より七、八寸ほど長く、
権大納言は近寄ると、目に大粒の涙を浮かべながら姫君の髪をかき上げた。
「何故にこのように美しくなってしまったのだ」
姫君はとても恥ずかしげに、思い詰めた様子で汗を浮かべた。上気した顔は咲き出した
さすがに恥ずかしいのか化粧はしないが、念入りに化粧をしたような顔色で、また汗でもつれた
姫君は今年で十二歳になるが発育に遅れたところはなく、すらりとした優美な容姿は比類がなかった。
「何とも頭が痛い。尼にでもして仏道修行させるしかないのだろうか」
そう考えるにつけても口惜しく、涙にかき暮れた。
いかなりし昔の罪と思ふにもこの世にいとどものぞ悲しき
(前世の罪がどれほどひどかったのかと思うにつけ、この世が物悲しくてならない)
権大納言が西の
さりげなく部屋の中を
桜や
権大納言は胸がつぶれる思いで若君を見つめた。
「ああ、何ということだ。この子も本来の姿で育てられたら、どれほど素晴らしく愛らしい女になるだろうか」
若君の髪は長くはないものの、裾は扇を広げたようで、背丈にやや足りないくらいの長さで垂れかかっている様や頭の形は見ているだけで笑みが禁じ得ない。しかし、身分の高い子どもが大勢いる中で一緒に
「本当に困り果てたことだ。このままでは間違いなくよくないが、今となってはなす
権大納言は繰り返し嘆いた。
普通、高貴な身分の子どもはだらしがなくなるものだが、この若君はしっかりとしていて、今から頼もしい様子である。学問にも優れ、朝廷の後見人にふさわしく成長している。
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