第30話 ナンテコッタ

 ㅤタクシー思ったより速かった。怖かった。これだけ勢いよく走っても、あまり車とすれ違わなかったし、この星の人口っていうのは、やっぱり寂しいことになってるんだろう。きっとそうせざるを得なかったんだ。でも、それで今幸せならいい。


「千五百万エンになります」

「エ、ウソでしょ!?」

「ウソです」


 ㅤこの星の相場どうなってんだよ。うわぁ、やられた。はめられた。いったいワタシ、これからどうなるの。まさか捕まるの?ㅤ そんなバカな。捕まるのはこのおじさんの方だよ。


「お客さん、ウソなんですけど。というか冗談です。千五百エンになります」

 ㅤああ、そうなの。勉強不足でスミマセンデシタ。

 ㅤお金を無事払って、外へ出ると、そこは閑静な住宅街。目の前にはそこそこ大きな一軒家が。


「しゃ、借家ではなさそう……」


 ㅤここに星の人がいるのかな。ポケットから封筒を取り出すと、それはまあ光ってる。


 ㅤ何を言えばいいんだ、何を聞けばいいんだ。ガムシャラな旅を始めたときと、違う気持ちが今の自分の中にはある。だから余計に難しくなってる。


 ㅤただ会いたいとか、どうしてワタシを知ったの? ㅤとか、好きです。なんて言うつもりだった方が簡単だった。でも今はちょっと違うんだ。というか、だいぶ違う。


 ㅤおババの話を思い出したから。ブラックホールを避けるのに必死で、この星とぶつかったとき、思い出しちゃったから。


 ㅤとりあえず、震える指で、柵の前のチャイムを押し鳴らした。だけど、階段をちょっと登った先の玄関のドアは開かない。


 ㅤ留守かな。ナンテコッタ。この展開は予想してなかったぞ。予想してなかったことは多いけど、これこそどうしようだぞ。


「ねぇ、キミ」


 ㅤヒィッ! ㅤ突然肩を叩かれた。振り向くとそこにはあの人が!


「ゴメンゴメン、驚かしちゃった? ㅤキミ、お墓のところで会ったよね。またお話聞きにきたの?」

 ㅤあのときの白髪の老人だった。わりと背の高い。驚かせないでよ。


「いや、違うんです。ほんと偶然ですね。この辺りに住んでるんですか」

「うん、そうだよ」

「うわぁ、そうですか」

 ……アレ? ㅤ何でこの人、ここで立ち止まってるんだ?


「あの、行かなくていいんですか?」

「だって、キミがそこにいるから行けないじゃん」

「あぁ、すみません」


 ㅤワタシは少し横にズレて、その男性は柵を開けて中へ入った。そうそう、星の人もこうやって帰ってきてくれたらいいのに。


「って、ちょっと待ってくださぁぁぁぁい!!!!!」

 ㅤワタシはどこまでバカなんだ。


「もしかして、あなたが、星の人ですか?」

 ㅤ老人は玄関を開けて入ろうかというところ、足を止めて、振り向いた。


「うん、そうかな」


 ㅤ照れたように笑ってた。

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