第26話 罪なきカレー
ㅤ五つ目にたどり着いた星は、全体的に赤みがかった砂の星だった。
ㅤワタシはここまで、宇宙へ出たにも関わらず、星の人に関する情報を何も集められていないので、少し焦って人を探そうとしたけど誰もいない。
ㅤあるのは、砂で固められたような小さな小さなお城だけ。それが無数にある。
ㅤ初めは、それが何だか疑問に思っても、とりあえず無視して歩いた。宇宙船から
ㅤそしたら、その小さな一つの砂の城に向かってしゃがみこみ、手を合わす白髪の老人男性と出会った。
「すみません、少しだけお話よろしいでしょうか」
「うん? ㅤなんだい」
ㅤその老人は、立つと案外大きくて、ワタシのことを見下ろした。だけどその目は威圧的じゃなく、優しげだった。
「ここはいったい、どういった星なんでしょうか。人がほとんど見当たりませんし」
「そうか、知らないのかい。ここはね、発展と終焉の早かった星。もったいぶった言い方をやめると、ここで昔戦争があったんだね」
ㅤせんそう。戦争って、あの戦争か。どんなものかは、もちろん知ってる。だけど知らない。うんと昔のお話というイメージが、ワタシの中にはある。
「強い権力者の家族がいてね、その中の悪いと言えるほど魅力的な女性が、星の中の人間関係を無茶苦茶にしたんだ。それで人々は武器を取って。でもね、普通の戦争と違ったのは、敵味方が誰なのかわからないくらい混乱したこと。そうすると関係なかった人まで巻き込まれる。醜い争いの中で、ほぼ全ての人が助からなかった」
ㅤ少し
「これは実はお墓なんだ」
ㅤと呟いた。
「骨とか、形見が埋められたものもあれば、何も見つからなかったものもある。ただ、多くの人が亡くなった証として。本当は一人一人が大切なお城を持ってるという精神で作られたんだ」
「では、あなたはこのお墓に用があって……?」
「そう、僕の弟」
「エ、弟さんですか」
ㅤこの人の弟さんが亡くなったということは、ここであった戦争というのはそんなに昔の話ではなかったということか。勉強不足だった。
「巻き込まれちゃったんだよ。悲しい話だよね。言いたいことは、いっぱいあるけど、あるはずなのに、枯れ果てちゃった。その代わり、定期的にここへ来て、手を合わせてる」
「そうなんですか……」
ㅤワタシには、それ以上の言葉を絞り出すことができなかった。自分にはあまり、想像のつかないこと。それでも、何となく、自分にとって大切な誰かが亡くなることを考えてみる。そしたら、お母さんやお父さん、おババの笑顔が浮かんでくる。それに何より、おジジの。
ㅤだけどおジジと、この方の弟さんは亡くなり方が違う。ようするに、想像しても想像できないというのが結論。ただ、家族の大切さを急に思い出して、旅の途中だけど家に帰りたくなった。
「しかし、ここがどんなところかも知らずに立ち寄るなんて、珍しいね」
「エ、アァ、スミマセン。ちょっとした旅をしていて。でも何かここに来たら、お家へ帰りたくなってきました。お話、ありがとうございました」
ㅤワタシはその人に深くお辞儀をした。それから流れで、そのお墓に手を合わせようかとも思ったけど、赤の他人が急にそんなことをするのもどうかと思って、やめておいた。その代わりお辞儀したときに、一瞬目を閉じた。
「こんな老人の話でよかったら、また聞かせてあげるよ」
ㅤシワの入った満面の笑顔に、おババを思い出す。
「ありがとうございます。では、行きます」
ㅤそう告げて、ワタシは宇宙船の中に戻った。実は、ワタシが旅を始めてからもう、二年近くになる。宇宙船の進化がどれだけ早くても、宇宙空間というのは想像を遥かに超えるくらい広いということを実感している。
ㅤでも、まだワタシはマシな方か。いつの時代にも言えることだろうけど、今という時代が最も進歩した時代であるはず。ここみたいに歴史が止まってしまった場所を除けば。
ㅤきっと、昔の方が良い悪いは置いておいて、不便なことは多かったはずだ。
ㅤ例えばこれ。スペースメール。いつからあるのかは知らないけど、宇宙から宇宙にメールを素早く安く送れるという優れもの。今はたいてい、どの宇宙船にもついてる。ワタシは定期的にこのスペースメールを使って、お母さんたちとやり取りしてきた。だからこれまではそれで寂しさを紛らわせてきたんだけど。
ㅤアレ。何だこの違和感。背筋がゾクッとした。そんなときにお母さんからメールが届いた。
「今晩はカレーよ。マァちゃん、食べれなくて残念ね。写真もないです」
ㅤうるさい!ㅤ今それどころじゃない!
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