第2話 転職成功

 前職の知名度もあり就職活動はスムーズに運んだ。エージェント会社に登録すると営業職のお誘いが多数くる。給与水準も前職と遜色ない。成績を上げられれば賞与に期待できそうな会社もある。その中から大手のリース会社を選んだ。金融業など多角化もされていて将来も安定できると感じたからだ。

 研修最終日、配属前に同期のメンバーとの飲み会である。同期といっても年齢層は幅広く多様な業界出身者の集団である。お酒も進み前職の愚痴をこぼす人、今回の研修内容に不満をこぼす人、これからの仕事に熱く未来を語る人、若い奴がなぜか隣で私を兄貴と慕って自分の経歴をしつこく話していたりと微妙な盛り上がりである。1軒目はそれなりで終わったが、2軒目は研修中に気の合ったメンバーと落ち着いた雰囲気の店に行くことになった。

 驚いたのが、前職の最大のライバル企業で活躍されていた方がこの中にいることである。研修初日の自己紹介でお互い同じ業界出身で同じ年齢ということもあったのだが、何故転職したのか深い話はできていなかったのでそんな話ができれば嬉しい。私の会社がダメになったのは、その会社がシェアを伸ばしている影響かとも心のどこかで思い逆恨みしてる部分もあったからかもしれない。最近海外の同業大手をM&Aしたこともあり世界一の業界売上を確立したばかりでもあった。

「中村さん、いいタイミングだったんじゃないですかね」こちらが触れたい核心に逆に話を振ってくれた。「なんで?御社はこちらからは悔しいほど順調に見えていましたよ。御社があるから業界も大丈夫と思っていたのですから。まさかうちがあんなことになるとは思ってもいなかったですから」私がそう返すと「そうかもしれないですね。表面的にはそう見えますよね。でも5年後はたぶん同じかもしれません。大きく業態転換が成功していなければつぶれていますよきっと」少し目線を下げてそう語ると「暗くなりそうだからやめませんこんな話。これからの我々の仕事の話しましょうよ。未来の。」と一転笑顔で話をすり替えられた。この場はそうだなと思い、モヒートのおかわりを頼んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る