第13話

 その想いを振り払うように、ユキは宣言する。


「せ、せっかく魔法少女に変身したのだから、戦わないとね!」


 いや、なんか倒錯とうさくしてないか? 脅威きょういがあるから、変身して、戦いにでる、だろ。軍拡ぐんかくを目的として仮想敵国かそうてきこくでっちあげるわけじゃないのだから。


「もちろん、脅威きょういはあるよ。潜在的せんざいてきに、いつでもどこでも。でも、それが魔法少女の登場によって顕在化けんざいかされるだけだよ」


 それ、探偵たんていモノで、探偵たんていが行く先で事件が起こるのと同じ論理ろんりじゃないか。トラブルメーカーじゃん。


「それじゃ、れっつごー! ヒロ、マントをつばさに変えて飛ぼうよ!!」


 勝手に新設定作るなよ……。


「天使だもの」


 あー、わかった、わかった。


 えーっと、たぶん、こんな感じか? 背中の辺りに力を込める。


 雪の結晶けっしょうのモチーフが描かれたマントが、一瞬にして純白のつばさへと変化する。片翼かたよくだけで、ユキの背丈せたけほどもある巨大なつばさに。


「飛んで!!」


 神さまのかけ声にあわせて、うでを振る感覚で、つばさを羽ばたかせる。ゆっくりと、ユキの足が床から離れていくのだが……。

「い、いたい」


 ユキはまたのあたりを抑えながらうめく。


 オレも、そのあたりでユキの全体重を支えていたわけだから、いたい。


「ダメだよ、ヒロ。ユキちゃんを優しく、身体全体を支えるようにして飛ばなきゃ」


 優しく、か。


 オレは、妹を包み込むように……といっても実際にコスチュームという形で包み込んでいるわけだが、特にブーツやグローブ、キャップといった体の先端部を包むパーツをしっかりと支えて、体重の負荷ふかを分散させる。


 そして、ふわり……。


「と、飛んでる。ユキ、飛んでるよ! 天使みたいに!!」


 ま、あの神さまの天使、とかいう設定らしいからな。


「設定とか言わないでよ!」


 喋られないから、言ってないだろ。あと、オレが天使という設定なんだろ。


「そうそう。それより、北の方向! しっかりと羽ばたいて、ヒロ!」


 わかってる。何せ、オレは……いや、オレとユキの兄妹で一人の魔法少女だ!


 それでいいよな、神さま。


「それなら、いいか」


 ユキ、お前の体をまもってやるからな、お兄ちゃんも一緒に戦うぞ!!

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