カノン興亡記Ⅱ

キール・アーカーシャ

第1話

 第4話


『古代の英雄、その偉大なる人生を知らぬ事は、

子供のまま一生を終える事とも言えよう』

    ―――――古代カノン帝国におけるアルキア人の哲学者、

        ラプリュコスの『カノン・アルキア対比英雄列伝』

        より。


 ・・・・・・・・・・


 夢の中で、師との修行は続いた。

 師は肉体の修練と同等かそれ以上に、精神の修練を尊(たっと)んだ。

《脆(もろ)きモノとなる無かれ。その名は女性では無く、汝なのだ。レクよ。人の脆さ、その心の脆さ、それこそが最大の敵であると言える。移(うつ)り気(げ)な浮きし心の何と醜(みにく)き事か。それはお前が接する相手にも言える。昨日まではお前を憎み、今日はお前を愛する者に警戒せよ。その者は何らかの切っ掛けで豹変(ひょうへん)するだろう。アルニア、ああ、哀れなアルニアの民よ。

何度も虐殺を受けても、虐殺をした相手は彼らに友好の手を差し伸べ、そしてアルニアの民は彼らに心を許し、同じ国土に住む。だが、虐殺者の心は蘇り、再び虐殺をするのだ。それは歴史の繰り返しであり、証明とも言えるだろう。理性が秩序を築くまで、それは行われ続けるのだ。そして、理性とは世界の反省とも言えるだろう。いや、ただの反省では無い。口だけの反省ならば、いかな悪人だろうと可能だろう。顔中が炭まみれの者が化粧で顔を綺麗にする事が出来ぬように、罪の贖(あがな)いとは容易にままならぬ。無かった事にするなど言語道断といえる。世界の記憶を知るのだ、レクよ。古代アルキアの叡智(えいち)が残されたのにも意味がある。詩歌の女神フォーサが謳(うた)うように、『忘れたらねど』残されたものなのだ》

 さらに、師は続けた。

《お前に二人の英雄を教えよう。それらの英雄は心に虚無を抱き、その行動性に一貫が無い。音に聞こえし古代の英雄ですら、そうなのだ。それらの英雄は対比されている。一人の名はガイナス・マルキス・ゴリオラヌスと言う。ゴリオラヌスとは愛称であり、『ゴリオリの勇士』という意味であり、彼がゴリオリの市を勇敢にも攻略した事から由来する。彼は名門の家の生まれであるが、その家は没落しており、幼くして父を失い、母の手で育てられた。父の居ない悲しさを埋めるように彼は武芸に打ち込み、その身は走るに軽く、打つに強く、あらゆる武器を手足のように使いこなした。いや、だが彼は学問を習得しようとせず、教えてくれる父が居ないのもあったのやも知れぬが、それが彼の運命を大きく分けてしまった。古き時代の事だ。彼の母は賢かったが、学は少なく、息子に学が必要とも思わなかったのだろう・・・・・・》

 師は哀れみにしばし沈黙し、再び話を続けた。

《このゴリオラヌス・・・・・・・本来ならば幼い頃はそうは呼ばれてはおらぬが、今は便宜上(べんぎじょう)、そう呼ぶとしよう、彼は母を深く敬愛し、母に少しでも褒(ほ)められんとし、全てを母に従った。妻も母が選んだ人にし、結婚し子が出来た後も、竈(かまど)を分かつ事なく母と暮らした》

《時を戻すなら、ゴリオラヌス、彼が最初に武勲をあげたのは、レグルス湖での戦いである。この時、かつて追放されしカノンの先王ダルギニスは、愚かな復讐心から周辺諸部族を率い、祖国カノンに襲いかかって来た。これにカノンは大いに苦戦するが、初陣であるゴリオラヌスの活躍により勝利する。なんと彼が17の時なのだ。そして、彼は大いなる名声を得た。しかし、名声とは容易に穢(けが)れうるものである。名誉心は人を助長させ、名声を失うのを必死に拒み、縋(すが)り付(つ)こうとする。レクよ、忘るなかれ。諦めの悪さは時として美徳となるが、時として人をその品位を地に堕とし、その身を破滅に導きかねんのだ》

《そう、名声とは抵当と言えるだろう。それは借り屋でもあり、新たな名声という家賃を払い続けなければ、容易に追い出される。ゴリオラヌスは以降も手柄を立て続けた。褒美(ほうび)を得ぬ時は無かった。だが、それは彼を追い詰め、心を渇かせていった。喉の渇きを潤(うるお)す為(ため)に海水を欲し、それによるさらなる渇きを海水で潤さんとするかのように、彼は名誉に拘(こだわ)っていった》

《いや、それは呪いでもあった。そして、彼にはもう一つの呪いがあった。彼は裏切りの先王ダルギニスの首を討ち取ったが、その際にダルギニスが発した言葉は彼の耳から中々離れなかった。『若き子よ。そなたはワシと同じだ。祖国に尽(つく)し、祖国に裏切られ、祖国を裏切る。その時、そなたは我が血塗られし子となるのだ』との呪詛の言葉が。彼は知らぬが、この先王ダルギニスは王であった義理の父を殺害しており、それ故に発された言葉とも言えただろう。しかし、栄光でもある槲(かしわ)の冠がゴリオラヌスに授けられ、彼は名誉の渦(うず)に呪詛を忘れた。彼が得た名誉の冠を得て、うれし涙をこぼす母の姿に、彼の心は洗われた。》

《時にカノンは実質的な共和制に移行し、人々は平等なる社会を謳歌(おうか)せんとした。だが、古代カノン王国における最後の王にして裏切りの王と呼ぶべきダルギニスの呪いだろうか?古代カノンの共和王国は荒れに荒れる事となる》

《Superbus(スペルブス)、それは『誇り高き者』を意味し、先王ダルギニスの愛称でもあった。だが、プライドは人を高めるも滅ぼす。その兆候はゴリオラヌスにも内在していた。いや、それでも矛盾となるかも知れぬが、若さは傲慢(ごうまん)や渇望(かつぼう)を覆い隠す。ゴリオラヌスもその名を得た時の頃には、非常に清廉潔白(せいれんけっぱく)に見えただろう。『ゴリオリの勇士』の異名を有する事になったゴリオリでの戦い、その少し前までカノン共和王国は内紛状態にあった。カノンの常ではあるが、富裕層と貧困層が常に対立を繰り返し、そして内乱や分裂に近い状態になるも、それに乗じて敵国が攻めてくると、急に一致団結して外敵と戦うのだ》

《この時、カノンは王制が実質的に廃止されており、王族は象徴的な存在となり、政治に関しては元老院と政務官で二分して請け負っていた。元老院は貴族出身者から、政務官は市民から成り立っていた。そして、この当時は元老院の力が特に強く、元老院は金持ちを優遇する政策ばかりを取り、かつて無い程の格差が生まれてしまった。王制が廃されたにもかかわらず貧富の差が激しくなるなど、誰が予想しただろうか?だが、歴史とはそういうものなのだ、レクよ。新たな試みをすれば、最初は上手く行かず、時と共に段々と熟(こな)れてくるものだ。運命に関しても同じ。人が正しき行いをしようとすると、それを邪魔しようとする魔が働き、たいていの人はその行いを諦めてしまう。逆も然り。人が悪しき行いをしようとすると、それを助長させようとする魔が働き、最初は上手く行ってしまって、ずるずると悪の道へと引きずり込まれてしまう。だが、そう言った者は得意の絶頂期にて、奈落に落ちていくのだ。羽も持たぬ竜が勢いよく飛び立つも途中で墜落していくように。本人、そして先祖より蓄えられた徳の力が尽きた時、悪は霧のように散っていくのだ》

《当時の元老院の政策として、庶民にとり最悪と言えたのは、高利貸しを認め、さらには債務の取り立てを厳重に迫らせた事だ。これにより多くの庶民や商人が財産や家を失い、路頭をさまよった。そんな彼らや彼らに同調した市民達は、カノンの都市より少し離れた丘へと位置どり、そこで暮らしだした。これもカノンの伝統的な抗議活動と今なら言えただろう。いや、蛮族に支配された今は、そういった困った伝統すら失われてしまったわけではあるがの》

《元老院の手の者が何度も貧者達の立てこもる丘へと向かい、説得しようとした。だが、丘の市民達は答えた。『我々は何も内乱を起こそうというのでは無いのだ。ただ、ただただ、カノンの市内では預かり得ぬ自由を謳歌(おうか)しているのだ。帰り給えよ、元老院の犬。主人に尻尾を振り振り、鎖に首を繋いで貰え。そして、おいしい食事をご主人様から貰うと良い。どうせ飢えて死すならば、我々は自由の中で死ぬのだ』と。この堅い決意に、元老院の手の者は諦め去って行った。》

《この頃、カノンの南方に住まいし山地族が、カノンの南方地方を荒らしていたが、市民達は誰も武器を手に取ろうとしなかった。そもそも市民の多くが都市から居なくなってしまっていたのだから。困った元老院は仕方なしに、出て行った市民達と和解を果たそうとした。この和解の使者に選ばれたのが、ゴリオラヌスの友人でもあるメネラースであった。メネラースは巧みな弁舌で人々を納得させんとした。『皆の者よ。考えて見て欲しい。人間の手足が胃袋に反乱を起こした。食べ物を独り占めにするなと。しかし、胃袋は手足に対して、栄養を与えているのだ。我々も同じだ。元老院は体の中央でぬくぬくと食べ物を独り占めしている胃袋に見えるかも知れない。ならば、元老院は胃袋と同じで栄養を体中を与えるように分配を約束しよう』。この言葉に民衆は納得し、条件付きでカノンの都市内に戻り、外敵と戦う事を誓ったのだ。その条件とは市民から5名の護民官を元老院に入れて、監視させるという条件であり、元老院も仕方なしにこれを飲んだのだよ。これが今は無き護民官の始まりだったのだよ。もっとも、実際には2名を選出して様子見するという形に当初は落ち着き、5名を越えるのは先の話なのだがな》

《こうして山地族との戦いが始まった。そして、ゴリオリの市をカノン軍は包囲した。だが、包囲戦とは難しいものであり、防御に徹したゴリオリの市はなかなか落ちなかった。そんな折、転機が訪れる。市内に立てこもった山地族とは別の山地部族が応援に駆けつけたのだ。仕方なしにカノンの将軍コミユニスは軍を大小二つに分け、自分を含めた大部隊で外から迫る新たな山地族へと迎撃に出た。残されたのはゴリオラヌスを含む小部隊だった。これを見て、ゴリオリの市内に立てこもった山地族は城門から打って出て、総攻撃を開始した。だが、これが最大の過ちだったのだよ、レクよ。本来ならば、防御に徹するべきであり、そうでなくとも守備の兵を多く残す必要があっただろう。それが防戦の基本であるのだから》

《当初、ゴリオラヌスの小部隊は劣勢を強いられた。だが、ゴリオラヌスは敵の城門が開かれているのを見て叫んだ。『見よ、城門が開かれている。あの城門は何が為に開かれているのか?すなわち、我らが入る為だ!運命の神が我らが為に開け放ったのだ』と。そして、敵軍に単独で斬りかかり、孤軍奮闘しながら、城門に迫った。これに他のカノン小部隊も続き、ついには少ない数ではあるが城内にゴリオラヌスを含めカノン兵士が侵入に成功した。ゴリオラヌスは大音声を発しながら、城内を荒らし回り、わずかな守備兵を鬼のように叩き斬った。これに城門の外に出ていた山地族も驚き、戻ろうとし、軍は大混乱を起こした。城門の前で山地族の軍は詰まってしまい、さらには城門の狭い通路にはゴリオラヌスやカノン兵士の精鋭が待ち構えており、これを突破できなかった。山地族の背後からはカノン兵士の小部隊が攻撃を仕掛けており、山地族は挟まれて動けなくなり、ついには逃げ出し始めた。こうして、ゴリオリの市はゴリオラヌスにより攻略された》

《おお、かの時は偉大なるかなゴリオラヌスよ。勝利したカノンの小部隊は、その兵士達は兵士の権利として略奪を試みた。しかし、それをゴリオラヌスは咎(とが)めた。そして、彼らが納得する形で略奪を止(や)めるよう、こう告げた。『我が軍は未だ他方で戦っているのだぞ。それなのに安全な略奪に走るとは、戦士の名が廃(すた)れるとは思わぬのか!?戦え、戦士達よ、その名の如くに!』。これを聞きカノンの兵士達は甚(いた)く感激し、手傷に薬(やく)膏(こう)を塗る間(ま)も惜しんで、ゴリオラヌスと共に転進して、交戦中の将軍の下へと駆けつけ、敵の側面より強襲した。その際、敵はゴリオラヌス達の小部隊を包囲せんとした。いや、ゴリオラヌス達は切り込んでいったので、結果として包囲された状態になったとも言える。この時、ゴリオラヌスの周りには大勢の敵兵の死骸(しがい)が生まれたという。だが、彼に続けた兵士達は連戦に疲れを見せていた。そんな彼らにゴリオラヌスは息を切らせながらも叫んだ。『背を伸ばせ、戦士達よ。勝者に疲れなど無いのだから!』。こうしてゴリオラヌスと兵士達は気力を振り絞り、敵を撃破したのだった。》

《この驚くべき戦功に将軍コミユニスは大いに報いようとした。気高く飾られた軍馬を彼に贈り、さらに今回の戦利品の10分の1をゴリオラヌスに与えると約束した。しかし、さらに驚くべきかな、ゴリオラヌス、彼はこれを固辞したのだ。彼は自身の分け前は他の皆と同じで良いと言ったのだ。これにはゴリオラヌスに羨望(せんぼう)していた兵士達も素直に感心し、彼を讃えた。将軍コミユニスは感激の中、高らかに告げた。『おお、何と気高き勇士か、彼は。ならば、彼が断り切れぬ贈り物を私は贈ろう。ゴリオリの勇士を意味するゴリオラヌスという名を彼に与える事を決議しようではないか!』。これに全ての兵士達は賛同し、以降、彼はゴリオラヌスと讃えられる事になるのだ。》

《彼を讃えたのはカノンの民だけでは無く、彼のおかげで略奪を免(まぬ)れたゴリオリの市の住民もまた彼を賞賛した。おお、レクよ。真なる英雄とは敵にすら敬愛されるのだよ。敗者は勝者を恨むものではあるが、真なる勝者とは敗者にさえ尊敬される。この者にならば負けても良かったと思わせる者となるのだ、レクよ。いつの日か、お前も・・・・・・》

 ここで師は言葉を区切った。

 今、少年のレクはゴリオラヌスの存在を肌で感じていた。彼の記憶が流れこんでくるような気がした。レクはゴリオラヌスとなり、数多の戦場を駆け巡る感覚を得た。

 レクの瞳は、古代の彼方(かなた)の戦場を見つめていた。

 山地族の陣頭談判の角笛(ビューグル)が鳴り、城壁に出てきたゴリオリ市内の山地族の代表との交渉が長々と行われたが、その最中で新たな山地族がカノン軍に強襲を仕掛ける。

 カノンの将軍は部隊を二つに分けて、新たな敵を迎撃しに向かう。

 知らぬはずの情報・光景が、レクの脳裏に浮かんでいく。

 市内より山地族の軍が出てきて、わずかな投げ槍合わせの後に押しよせんとす。それに対すべく、残されたカノンの小部隊は突貫合図の角笛を吹き鳴らし、勇ましく突撃するも、すぐに敵に押し返され、塹壕(ざんごう)へと追いこまれる。この窮地(きゅうち)をカノンの使者は将軍に知らせようとするも、山地族の斥候(せっこう)がそれを阻止し叶わぬ。

 そんな絶体絶命の中、後のゴリオラヌスが立ち上がるのだ。

 鬼神の如(ごと)くに敵を斬り裂くゴリオラヌス。

 彼の前では鋼(はがね)の防具も、絹織物(きぬおりもの)のように裂かれていく。

 無駄の無い一撃。飾るものなど、そこには無い。

 簡素なる音律が戦場に響き渡る。

 騎士ではなく彼は戦士だった。

 しかし、いかなる騎士以上に強者と言えただろう。

 レクはいつの間にか、体が動くのを感じた。

 ゴリオラヌスの習得した剣技、それを知るはずも無いのに、レクは確かにその型を今、真似して獲得せんとしていた。

 これを見て、師は満足げな表情を微(かす)かに浮かべた。

《共振を得たか、レクよ。そうだ、ゴリオラヌス、彼もまた古代アルキアの魔導騎士の力を得ていた。あくまで独学ではあったが・・・・・・。彼の事をさらに知りなさい、レクよ。そして、彼の偉大なる面を自らに授け、彼の陥りし過ちの面を自らの戒めとするのだ》

 この言葉を聞き、少年のレクは夢から覚めたかのように頷(うなず)いた。

 さらに、師は語った。

《実は、ゴリオラヌス。その勇士の名を得た時、褒美を固辞したと言ったが、一つだけ求めたモノがある。それは『将軍よ。私には山地族ヴォルギス族に友人がいて、彼は今回の戦で捕虜になっている。彼は兵士でも無く、立派な人だが、囚われの身となっている。どうか私の武功に免じて、彼を助けて頂きたい。それ以外に私は報償を求めはしない』というものだった。》

《これを将軍は特に何も考える事なしに承諾(しょうだく)した。だが、これはゴリオラヌスにとり重要な意味を持っていたのだ、レクよ。ゴリオラヌス、実の所、彼の父は山地族だったとも言われている。そして、その巨躯(きょく)を受け継ぎ、その外見も一般的なカノン人とは違ったのだ。自らに似ていないカノン人の母を彼が深く敬愛したのも、それが理由と言えよう。彼は幼い頃から、他のカノン市民との外見的な違いを感じながら生きてきて、唯一全く差別をしなかったのは、母のみだったのだ。カノンは比較的に多民族が混在したと言えたが、やはり差別はあったのだ。没落貴族の末裔である母は、山地族と結婚した為、他の一族の力を借りれず、貧困に苦しんだ。それをゴリオラヌスは幼い時分より見てきたのだ。だから、彼は無意識の内に、自らの外見に似た山地族の友人を作っていたのだ。しかし、それでも彼の心はカノン人であり、偉大なる貴族の末裔であり、誇りを抱(いだ)いていたのだ。》

《そんな彼にとり、山地族の友人は血の同胞とも言え、どうしても助けたかったのだろう。

レクよ、既にお前には『Ars(アルス) est(エスト) celare(ケラーレ) artem(アルテム)』(It is the art to conceal art.)、すなわち

[技を隠す事が技である]というカノンの格言を教えたはずだ。同様に、次の警句(エピグラム)を授けよう。

『Ars(アルス) est(エスト) captandi(カプタンディ) quod(クゥォド) nolis(ノリス) velle(ウェレ) videri(ウィデリ)』。

(The art of capturing is the thing that is to seem not to want to want.)

すなわち、[手に入れる技術とは欲している事を汝(なんじ)が欲していないように見せる事である]という意味なのだ。ゴリオラヌスも同じだ。友人を助ける事を心から欲していたが、それを表には出さず、さりげなく条件を出した。ゆえに、それは通った。逆に心から山地族の友人を助けたい風に見えたらどうなっていただろうか?恐らく彼は裏切り物と見なされ、要求も通らなかっただろう。レクよ、交渉術とはそういうモノなのだ。ゆめゆめ忘るなかれ。》

 そして、師はゴリオラヌスの話を半(なか)ば終えた。


 ・・・・・・・・・・


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